のん)” の例文
「兄貴ののん気にも、泣かされますな。すこしは、舎弟の身にもなってもらいたい。小林殿に対して、じつに顔向けならん仕儀だ。」
口笛を吹く武士 (新字新仮名) / 林不忘(著)
気に入らぬか知らぬが片栗湯かたくりゆこしらえた、たべて見る気はないかと厚き介抱かいほう有難く、へこたれたる腹におふくろの愛情をのんで知り
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
他は犬われは狐、とてもかなはぬ処なれば、復讐あだがえしも思ひとどまりて、意恨うらみのんで過ごせしが。大王、やつがれ不憫ふびん思召おぼしめさば、わがためにあだを返してたべ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「馬券であてるのは、ひとこゝろあてるより六※かしいぢやありませんか。あなたは索引のいてゐる人の心さへあてて見様となさらないのん気なかただのに」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
左様さうですか」と篠田は暗涙をのんで身を起しつ「誠に、恐縮に御座ります」とふすま開きて、慣れたる奥の一室ひとまれり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
たすかり給ひしとはなしければ隱居は今迄面白く聞居きゝゐたりしが彦兵衞がはなしを耳にもいれず勝手へたつて何やらん外の用事をして居るゆゑ彦兵衞もほんやめ煙草たばこのんで色々咄を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
就中なかんずく狒狒ひひ型」「猩猩しょうじょう型」なぞいうものがありますが、もうこの辺になると、のんだくれの異名か好色漢の綽名あだなか、又は進化論者が人類侮辱の刷毛序はけついでにつけた醜名しこな
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
俗な奴等だ、呑むなら早くのんかえっ仕舞しまえばいと思うのに、中々帰らぬ。家は狭くて居処いどころもない。仕方しかたないから客の呑でるあいだは、私は押入の中に這入はいって寝て居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いふては悪るけれどお前は親不孝子不孝、少しはあの子の行末をも思ふて真人間になつて下され、御酒ごしゆのんで気を晴らすは一とき、真から改心して下さらねば心元なく思はれますとて女房打なげくに
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
身仕度が終ると家を出てよいの六時まで散歩し六時に外で中食ちゅうじきを済せ、夫から多くはゲルボアの珈琲館に入り昔友達と珈琲をのんだり歌牌かるたを仕たりして遅くも夜の十一時には帰て来て寝床ねどこに就きました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
無念をのん瞋恚しんい炎燄ほむらを吐く折から
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
讓り申べしときゝて左京は大によろこさらば早々らちあけんと立上るを大膳はしばしと押止おしとゞめ先々待たれよ今宵の仕事はふくろの物を取り出すよりもやす先々まづ/\ぱいのんだ上の事とて是より酒宴しゆえん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
病の在る所も問わずに唯苦ければもっとのんると云うくらいの血気であったに違いはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
自分妾狂めかけぐるいしながら息子むすこ傾城買けいせいがいせむる人心、あさましき中にも道理ありて、しちの所業たれ憎まぬ者なければ、酒のんで居ても彼奴きゃつ娘の血をうて居るわと蔭言かげごとされ、流石さすが奸物かんぶつ此処ここ面白からず
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いふてはるけれどおまへ親不孝おやふかう子不孝こふかうすこしは行末ゆくすゑをもおもふて眞人間まにんげんになつてくだされ、御酒ごしゆのんらすは一ときしんから改心かいしんしてくださらねば心元こゝろもとなくおもはれますとて女房にようぼううちなげくに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いくら学生だつて、君の様にかねけるとのん気なのが多いだらう」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
気を呑み声をのんで「鼻」の前に低頭平身する他ありませぬ。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
うらみにくみも火上の氷、思わず珠運はなた取落とりおとして、恋の叶わずおもいの切れぬを流石さすが男の男泣き、一声のんで身をもがき、其儘そのままドウとす途端、ガタリと何かの倒るゝ音して天よりいでしか地よりわきしか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
く世間にある徳行の君子なんて云う学者が、ムヅ/\してシント考えて、他人のることを悪い/\と心の中で思て不平をのんで居る者があるが、私は人の言行を見て不平もなければ心配もない
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)