取除とりの)” の例文
そして角燈を地上に置くと、石の端の下へてこの先を押入れて、其石を擡げ始めた。石が自由になると彼は更に寄生植物を取除とりのけにかゝつた。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
とにかくに人相書にんそうがきしたためる必要があるので、一人の少尉がその死体の顔から再び帽子を取除とりのけると、彼は思わずあっと叫んだ。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二種類の文学のうち(ことに浪漫主義の文学のうち)道徳の分子の交って来ないものは頭から取除とりのけて考えていただきたい。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父がしずかに其を取除とりのけると、眼を閉じて少し口をいた眠ったような祖母のかおが見える……一目見ると厭な色だと思った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
岡の上に立っていた戸田茂睡とだもすい古碑こひも震災に砕かれたまま取除とりのけられてしまったので、今日では今戸橋からこの岡を仰いで、「切凧きれだこゆう越え行くや待乳山」
水のながれ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼等かれらはこのつぎなにをするだらう!しやうがあるものなら屋根やね取除とりのけるやうな莫迦ばかはしないだらう』ほど彼等かれらふたゝうごしました、あいちやんはうさぎ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
禅寺ぜんでらでは食事のとき、施餓鬼せがきのため飯を一はしずつはちからわきへ取除とりのけておく。これを生飯さばと言うが、臨川寺ではこの生飯を川へ捨てる習慣になっていました。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
材木を取除とりのけると、果してその下から竹筒に入れた九百九十両の小判が出て来ました。いや、九百九十両というより、九百八十七両といった方が正しいでしょう。
コハこのきみもみまかりしよとおもふいまはしさに、はや取除とりのけなむと、胸なるその守刀まもりがたなに手をかけて、つと引く、せつぱゆるみて、青き光まなこたるほどこそあれ
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と御機嫌を直しながら、旦那様は紫袱紗をほどいて桐の小箱の蓋を取りました。白絹にくるんだのを大事そうに取除とりのけて、畳の上に置いたは目も覚めるような黄金きんの御盃。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
犬のふんなどがあってもきたないとも思わず取除とりのけて川へ投げ捨て、掃除をしてしまうと台所のおさんどんが起きて釜の下を焚附けると、多助は水瓶へ水を汲み込んで遣り
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今人を呼び起したのも勿論それだけの用はあったので、直ちにうちの者に不浄物を取除とりのけさした。
九月十四日の朝 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
絵なぞ一とも見ようとはしないで、電話でもつて何号から何号まで総高幾干いくら取除とりのけて置いて貰ひたいと、ちやうど勧業債券でも買込むやうな取引をするのがあるさうだ。
そのクリームを取除とりのけてしまってその中へ酸乳さんにゅうを入れてふたをして一日も寝かして(温かに保つの意)置くとショー(酸乳)即ち固まった豆腐とうふのようなものになってしまう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そうしてその白紙の蓋がホンノリと黄色く染まった頃を見計みはからって、紙の上の茶粕を取除とりのけると、天幕テントの中に進み入って、安楽椅子の上に身を横たえた富豪貴人たちの前に
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
斯様かように静かに考えてみると、実に女子大学の必要を感ずるのであるが、今退しりぞいて何故に女子は国民から取除とりのけられ、単本位の勢力をもっておったかと申しますると、畢竟ひっきょう男子は強く
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「では、いよいよ、義龍様を、稲葉山からお取除とりのけと、ご決意を遊ばして」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とまは既に取除とりのけてあるし、舟はずんずんと出る。
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そばている人のかおに掛けた白い物を取除とりのけたから、見ると、て居る人は父で、何だか目をねむっている。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ドビュッシーの音楽には伝統的形式や、支配的な均衡シンメトリーは一つもない。彼はあらゆる音楽上の遺産いさん取除とりのけて、全く自由に振舞ふるまわなければ承知しなかったのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
送籍は吾々仲間のうちでも取除とりのけですが、私の詩もどうか心持ちその気で読んでいただきたいので。ことに御注意を願いたいのはからきこの世と、あまき口づけとつい
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人々は声をたづねて探りあるくと、松の大樹から少しはなれたところに大きい石がよこたはつてゐて、赤児の声はその石の下から洩れてくるのであつた。石はすぐに取除とりのけられた。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そのトロッコの上に乗っているものの上にかぶせた白い布片きれをカント・デックが取除とりのけました。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と例のかずき取除とりのくれば、この人形は左の手にて小褄こづま掻取かいどり、右の手を上へ差伸べて被を支うるものにして、上げたる手にてひるがえる、綾羅りょうらの袖の八口やつくちと、〆めたるにしきの帯との間に
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水戸藩邸みとはんていの最後の面影おもかげとどめた砲兵工廠ほうへいこうしょうの大きな赤い裏門は何処へやら取除とりのけられ、古びた練塀ねりべいは赤煉瓦に改築されて、お家騒動の絵本に見る通りであったあの水門すいもんはもう影も形もない。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かねば邪魔になる煖炉だんろ取除とりのけさせたる次の朝の寒さ
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
咽頭いんとうの処をブスリと一突き……乳の間から鳩尾みぞおち腹部へと截り進んで、へその処を左へ半廻転……恥骨ちこつの処まで一息に截り下げて参りますと、まず胸の軟骨を離して胸骨を取除とりの
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
亡き母上のその時のさまにまがうべくも見えずなむ、コハこの君もみまかりしよとおもういまわしさに、はや取除とりのけなむと、胸なるその守刀に手をかけて、つと引く、せっぱゆるみて
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三日の間でございます。三日前にお秋が持って来た五両一分二朱と六十八文のうち、二朱と六十八文は当座の小遣に取除とりのけ、五両一分を足して、ちょうど三百両と一分になったのを、封印を
相愛あいあいしていなければ、文三に親しんでから、お勢が言葉遣いを改め起居動作たちいふるまいを変え、蓮葉はすはめて優にやさしく女性にょしょうらしく成るはずもなし、又今年の夏一夕いっせきの情話に、我からへだての関を取除とりの
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そればかりでなくメリンスの目から洩れ込んだ細かい埃は、調査書類の原本の表紙になっている黒いボール紙の上にもウッスリとかぶさっていて、絵巻物の新聞包みを取除とりのけると
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
天井からつるした氷嚢ひょうのう取除とりのけて、空気枕に仰向けに寝た、素顔は舞台のそれよりも美しく、蒲団ふとん掻巻かいまき真白まっしろな布をもっておおえる中に、目のふちのややあおざめながら、額にかかる髪のつや
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)