)” の例文
と、鞍の上でのけったが、あぶみしかと踏みこたえて、片手でわが眼に立っている矢を引き抜いたので、やじりと共に眼球も出てしまった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかに感情の激越を表現するのでも、ああまでぶざまに顔を引きゆがめたり、唇を曲げたり、ったり、もがいたりしないでもいい。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
意久地なしの鼻は高くても低く見え、図々しい奴の鼻はヒシャゲていてもニューとりになっているかの表現をしております。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と仰向けに目をぐっとつむり、口をひょっとこにゆがませると、所作の棒をつえにして、コトコトと床を鳴らし、めくらりに胸を反らした。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
傷は一刀の下に斬下げた、見事な後ろ袈裟げさ虚空こくうを掴んでった太吉の顔は、おびただしい出血に、紙よりも白くなっております。
思いがけない道雄少年の言葉に、シムソンは顔を真蒼まっさおにして、のけるように驚くだろうと思いましたが、意外、彼はカラカラと笑い出しました。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
さすがの神尾も、子供たちから続けざまの巨弾を三発まで浴せられて、のけっているのを見向きもしない子供たちは
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ハイハイそんなようでございます。……痛! 痛! 痛! これはたまらぬ! また差し込んで参りました」身もだえをしてのけろうとする。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
刺してその場から逐電ちくでんするだけのことだが、この女が胸から血を流してのけるざまは、見られたものではなかろう。なんといってもむごたらしすぎる。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
研究所の同僚たりし人々は、確かに彼ら二人を、美男美女と認めているから、間違いないと、田鍋課長はいささか得意で、椅子いすの背にふんりかえった。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「お国の為めだからつて、ほかの人達はみんな戦線に立つて血を流すやうに書き立てませうよ。そして自分一人は編輯室へんしふしつの安楽椅子にりかへつてね。」
こう言われて兼久も番頭ものけるほど驚いた。見ればみるほど、家主の話した娘にそっくりである。
津田は突然こぶしを固めて小林のよこつらなぐらなければならなかった。小林は抵抗する代りに、たちまち大の字になってへやの真中へり返らなければならなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
車の前が高くなって体がのけるようになるので、それを要心していると今度は前が低まってきて、前のめりになりそうになる処があった。そこは石橋の上であった。
賈后と小吏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ッと面を押えて退った時に、今度は妻の方が再びもぞもぞと起き上る気配なので、我を忘れて駈け寄るが早いか、体と云わず顔と云わず滅多矢鱈めったやたらに殴りつけました。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
さうして朱塗のやうな袖格子が、ばら/\と焼け落ちる中に、のけつた娘の肩を抱いて、きぬを裂くやうな鋭い声を、何とも云へず苦しさうに、長く煙の外へ飛ばせました。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
青っぱなを少しずつ舐めている子供、うしろにのけったり、机にうつ伏せたり、脚を腰かけの横にぬーっと出してまるで倒れかかった自分の身体を危く支えたりしていた子供たちが
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
荘田しょうだは、籐製とうせいの腕椅子いすうちで、身体からだをのけるようにしながら、哄笑こうしょうした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
八重は鞴の把手と一処に、わざと床とすれ/\になる位につて
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
俺は泣くに泣かれぬ気持で、後にノケって頭髪を掻きむしった。
苦力頭の表情 (新字新仮名) / 里村欣三(著)
雪之丞は、一松斎の言葉を聴くと、のけるばかりに驚愕した。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
と井上君がふんり返って見せた時、夫人が現れた。
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、相手の飛躍にくうを打たせるたびごとに身をらしつつ叫んだが、うんもすんも、二つの人影はもとより答えもしないのだ。
水棹みずさおを取り上げて、ガバと打ってかかるのを、身を開いて、ツ、ツ、ツ、懐へ入ると見るや当身一本、船頭は苦もなく水垢あかの中にります。
天に掻きのぼるかのように身をらして爪立ち、又爪立った。そうして空間の何物かをしっかりと掴み締めたまま、次第次第にのけって行った。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
俥の上で何の気もなく少しうしろへると、そのまゝ車台が梶棒を天に冲して仰向けに打つ倒れ、私は往来へ叩きつけられてイヤと云ふほど後頭部を打つた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこはもうどまりらしい地底の小室こべやだった。一人の男が、虚空こくうをつかんでのけるようにたおれている。その傍には大きな箱がほうり出してある。蓋を明け放しだ。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
のけったままぬかるみにへたりこみ「斬りやがった、斬りやがった、あゝ、ひどいことをする」
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それで、恐々こわ/″\側に寄って見ると、彼女は退るように驚いた。重明は死んでいたのだった。
女性がおどろいた時の声は、今も昔も大概きまっている。絹をくように叫んで、退った。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
或時の彼は細君の鳩尾みぞおち茶碗ちゃわんの糸底をあてがって、力任せに押し付けた。それでも踏んり返ろうとする彼女の魔力をこの一点でい留めなければならない彼は冷たい油汗を流した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
馬丁べつたうは葡萄酒のびんを引つ抱へて、鞍の上で大威張にりかへつてゐた。
彼はたとへば「驚いた」と言ふ時には急に顔をのけらせたりした。……
河童 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と言った軽格は、のけったかと思うと、もう姿が見えません。
百万石をのけらした。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぎゃっと、のけったとき、そのおもてに思い出されるものがあった。おそらくは主謀者か。これを見ると余の者は、もろくも散って逃げ去った。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水棹みずさおを取り上げて、ガバと打ってかかるのを、身を開いて、ツ、ツ、ツ、懐へ入ると見るや当身一本、船頭は苦もなく水垢あかの中にります。
そうしてその瞬間に吾れにもあらず眼を開いた時に、女は丸卓子テーブルから離れて弓のようにっていた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、時平は体をらして、さすがにいくらか照れ臭いらしく、例の豪傑笑いをした。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「火の玉」少尉の上半身は、えびのようにうしろにのけった。彼の背後から組みついている怪ソ連人までが、硬い少尉の頭を胸にうけかねて、ゴンドラのふちにひどく押しつけられた。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、人語は犬の知るところではない、と承知のようなりだった。その鼻ヅラで周りの人間どもをねめまわしている。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取澄した冷たさが一ぺんに崩れると、思はずのけりましたが、間もなく平次と周吉の熱心な視線が自分に注いでゐることに氣が付くと、からくも冷靜を取戻した樣子で
眼の前に火薬庫が破裂したかのように、思わず両手を顔に当てて丸卓子テーブルの前にった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と云ったなり、往来のまん中へって了いました。
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
課長は椅子にふんりかえった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
男のふところ深くへ細やかな襟頸えりくびを曲げ、またっては、狂わしげに唇をさがしぬく黒髪にたいして、彼は意地わるく唇を与えないのだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お六は鉄砲玉のように石榴口から飛出すと、流しに滑って物の見事にりました。
【映画】 正木博士は羊羹ようかん色の紋付羽織、セルの単衣ひとえにセルばかま、洗いざらしの白足袋という村長然たる扮装いでたちで、入口と正反対の窓に近い椅子の上に、悠然と葉巻を吹かしつつ踏んりかえっている。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すうつとうしろへつてしまはれた。
泉先生と私 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
こだまのような声が返った。次の跫音も、度外れに大きかった。お袖は、のけるようにおもてをそむけ、全身は一瞬に白い戦慄だけを見せて、丸くかがまりこんだ。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)