半天はんてん)” の例文
半天はんてんは澄んで雲もなかつた。今は西に變つた風に追はれて流れる雲は長い銀色の柱状ちゆうじやうをなして東の空から長々と動き出してゐた。月がおだやかに照る。
次の日の午時頃ひるごろ、浅草警察署の手で、今戸の橋場寄りの或露地ろじの中に、吉里が着て行ッたお熊の半天はんてん脱捨ぬぎすててあり
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あの下流かりゅうの赤いはたの立っているところに、いつもうでに赤いきれをきつけて、はだかに半天はんてんだけ一まいてみんなの泳ぐのを見ている三十ばかりの男が
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
段々、暗にれて来るに従って、ウッスリ相手の姿が見える。男の服装は半天はんてん股引ももひき、顔は黒布で包んでいる。子供は可愛らしい洋服姿が、たしかに茂だ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
仕立したてかけの縫物ぬひものはりどめしてつは年頃としごろ二十餘はたちあまりの意氣いきをんなおほかみいそがしいをりからとてむすがみにして、すこながめな八丈はちぢやうまへだれ、おめしだいなしな半天はんてん
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
半天はんてんおほうたいまはしき魔鳥まてうつばさて、燒殘やけのこほのほかしらは、そののしたゝるなゝつのくびのやうであつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
船はギイギイと二度ばかり音をたてた、岩礁がんしょうの上は、まったく雪のごとき噴沫ふんまつにおおわれた、ゴウッというけたたましいひびきとともに、船はふわふわと半天はんてんにゆりあげられる。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
かまどが幅をとった板の間には、障子しょうじに映るランプの光が、物静かな薄暗をつくっていた。婆さんはその薄暗の中に、半天はんてんの腰をかがめながら、ちょうど今何か白いけものき上げている所だった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
船『半天はんてんかけておきましたから、大丈夫です』
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
おどろいてかへるにあばもの長吉ちようきち、いま廓内なかよりのかへりとおぼしく、浴衣ゆかたかさねし唐棧とうざん着物きもの柿色かきいろの三じやくいつもとほこしさきにして、くろ八のゑりのかゝつたあたらしい半天はんてん
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
をりからすこあつくるしくとも半天はんてんのぬがれぬはづかしさ、らうめづらしくうれしきを、ゆめかとばかり辿たどられて、このがつあたつきとあるを、ひとにははれねどもゆびをるおも
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これをば結び髮に結ひかへさせて綿銘仙の半天はんてんたすきがけの水仕業さする事いかにして忍ばるべき、太郎といふ子もあるものなり、一端の怒りに百年の運を取はづして、人には笑はれものとなり
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これをばむすがみひかへさせて綿銘仙めんめいせん半天はんてんたすきがけの水仕業みづしわざさすることいかにしてしのばるべき、太郎たらうといふもあるものなり、一たんいかりに百ねんうんとりはづして、ひとにはわらはれものとなり
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
となりより剃刀かみそりをかりてかほをこしらゆるこゝろ、そも/\れの浮氣うわきりて、襦袢じゆばんそでしう、半天はんてんゑり觀光くわんくわういとばかりになりしをさびしがるおもひ、らうつま美尾みをとても一つは世間せけん持上もちあげしなり
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)