利鎌とがま)” の例文
梅軒は、徐々に、その鎖を手元に手繰たぐめた。——それは手元にある鋭い利鎌とがまを、次にほうってくる用意であることはいうまでもない。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三尺さんじゃくの間へはさんで来た物に巻いて有る手拭をくる/\と取り、前へ突付けたのは百姓の持つ利鎌とがまさびの付いたのでございます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「これもこちらへ隠しまして」と美少年は草籠くさかごを片寄せると見せて、利鎌とがま取るや武道者のくびに引掛け、力委せにグッと引いた。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
利鎌とがまのような月の出ている葡萄色ぶどういろの空に、一輪二輪とほころびかけている真っ直ぐな枝の、勢いよく伸びているのもいいものです。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
お定は、水汲から帰ると直ぐ朝草刈に平田野へいだのへ行つたが、莫迦ばかに気がそは/\して、朝露に濡れた利鎌とがまが、兎角休み勝になる。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
利鎌とがまを振りまわしている死の神はわれ等の同志百七十一人のもとを離れて、いまや刻々こくこく敵の副司令へせまりつつあるのだ。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
和佐保へ駈け付けこの利鎌とがまを、突き付けて自害を勧めねばならぬ! 天の神様、地の神様! どうぞあわれみくださりませ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白姥しろうば焼茄子やきなすび牛車うしぐるまの天女、湯宿ゆやどの月、山路やまじ利鎌とがま、賊の住家すみか戸室口とむろぐちわかれを繰返して語りつつ、やがて一巡した時、花籠は美しく満たされたのである。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
烈風れっぷう吹き、波の音高し。荒れ狂う海の上に利鎌とがまのごとき月かかる。雲足くもあしはやく月前をかすめ飛び舞台うす暗くなり、またほのあかるくなる。俊寛よろめきながら登場。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
利鎌とがまのような月影が大川端の水面みなもに冴えて、河岸の柳も筑波颪に斜めになびくころであった。
即ち利鎌とがま燒鎌やきがまつかといふ意味から、つかの束に同音で以てつづけたものである。
愛国歌小観 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
それに引変えやぶれ褞袍おんぼう着て藁草履わらぞうりはき腰に利鎌とがまさしたるを農夫は拝み、阿波縮あわちぢみ浴衣ゆかた綿八反めんはったんの帯、洋銀のかんざしぐらいの御姿を見しは小商人こあきんどにて、風寒き北海道にては、にしんうろこ怪しく光るどんざ布子ぬのこ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しろい腕は麦のなかの利鎌とがまのように彼女のかがやく髪のなかに動いていた。彼女はコルマックを見た。彼女の眼にある焔はコルマックの眼にも輝いていた。コンの妻ダルウラは彼の方に向いた。
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
痩形の、小柄の、巾着切りか刑事見たいな、眼が迫って険しい、青いしゃっつらの、四十前後の、それは鼻っぱしの恐ろしい番頭君が、蟷螂かまきりさながらの敷居際の構えで、ヤッと片手の利鎌とがまを振り立てた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
いざ子ども利鎌とがまとりもち宇野麻呂が揉み上げ草を刈りて馬飼へ
利鎌とがまもて刈らるともよし君が背の小草のかずにせめてにほはむ
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
うつぶせる「人」を利鎌とがまの富と
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
いまに大空の利鎌とがまが首をくよ。
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
仰ぐと、利鎌とがまのやうな五日月。
右手めて利鎌とがまを握る時
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お定は水汲から歸ると直ぐ朝草刈に平田野へいたのへ行つたが、莫迦に氣がそは/\して、朝露に濡れた利鎌とがまが、兎角休み勝になる。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのままスルスルと力柱、宙に向かって昇って行く、遅く出でたる片割れ月は、柱の頂きに引っかかり、光芒こうぼうあお利鎌とがまの如く、夜嵐颯々さっさつと吹く中に、突っ立ち上がった五右衛門の姿は
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
むぐら刈る利鎌とがまのかまのやきがまのつかのまも見むたまあひの友 (和田嚴足)
愛国歌小観 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
利鎌とがまのような刀の欠けは、宙へ上って、ぶんと、観衆の中へ落ちた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……欄干らんかんむねおさへて、故郷ふるさとそらともかぬ、はるかなやまいたゞきほそけむりくのをれば、あれがほのほかとおもひ、いしはしらもたれて、利鎌とがまつきときは、それもやいばかとおもつたんです。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
利鎌とがまの動く毎に、サツサツと音してる草には、萎枯すがれた桔梗の花もあつた。お定は胸に往来ゆききする取留もなき思ひに、黒味勝の眼が曇つたり晴れたり、一背負だけ刈るに、いつもより余程長くかゝつた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
晃 (百合を背後うしろかばい、利鎌とがま逆手さかてに、大勢をめつけながら、落着いたる声にて)ああ、夜叉ヶ池へ——山路やまみち、三の一ばかり上った処で、峰裏かすかに、遠く池ある処と思うあたりで、小児こどもをあやす
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
利鎌とがまこうがい
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
晃 死ね!(と云うまま落したる利鎌とがまを取ってきっとつきつく。)
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)