たお)” の例文
面貌めんぼうほとんど生色なく、今にもたおれんずばかりなるが、ものに激したるさまなるにぞ、介添は心許こころもとなげに、つい居て着換を捧げながら
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ローマのプリニウスの『博物志ヒストリア・ナチュラリス』八巻十一章にも、インドの大竜大象と闘うてこれを捲き殺し地にたおるる重量で竜もつぶれ死すと見ゆ
或ときはむかし別れし妹にひたる兄の心となり、或ときは廃園にたおしたるヱヌスの像に、ひとり悩める彫工の心となり、或るときはまた艶女えんにょに心動され
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
空しくあたりを見廻した私の眼は、地上五、六尺の所からへし折れて笹の中にたおれている太い樺の木に注いだ。急いで其上に登って改めて復あたりを見廻した。
秋の鬼怒沼 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「助けてい!」と言いさまに、お雪は何を狼狽うろたえたか、たすけられた滝太郎の手を振放して、たおれかかって拓の袖を千切れよといた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たおれて知るところなし、犬徬徨涕泣ほうこうていきゅう走って船に還りまた草中にかえる。同伴怪しみ随い往き隆の悶絶せるを見、ひきいて家に帰る。
少女は「あ」と叫びつつ、そのまま気をうしなひて、巨勢がたすくる手のまだ及ばぬたおれしが、傾く舟の一揺りゆらるると共に、うつぶせになりて水にちぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
枯木自らたおれて虯竜路に横たはり、土柔かに苔潤ひ、老檜枝を交へて崇軒高聳し、白日猶ほ暗く、習習たる冷風谷より吹き上りて、白露衣襟に落つるなど、浮世に遠き山中とて
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
戸をひしめかして、男は打ちたおれぬ。あけに染みたるわが手を見つつ、重傷いたでうめく声を聞ける白糸は、戸口に立ちすくみて、わなわなとふるいぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
舟には解けたる髪の泥水にまみれしに、藻屑もくずかかりてたおれふしたる少女の姿、たれかあはれと見ざらむ。をりしも漕来る舟に驚きてか、蘆間を離れて、岸のかたへ高く飛びゆくほたるあり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
滝川一益北条勢と戦い負けた時炎天ゆえ馬渇せしに、河水を飲ませて乗りしに走りたおれ、飲ませなんだ馬は命を全うしたというに似ている。して見ると我輩も飲まぬ方がよいかしらん。
にわかにはげしく腹の痛みて、立ってもいられず大地にたおれ、苦しんでいる処へ誰やらん水を持来りて、呑ましてくるる者のあり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くもった日の空が二人ふたりの頭上において裂け、そこから一道いちどうの火が地上にくだったと思うと、たちまち耳を貫く音がして、二人は地にたおれた。一度は躋寿館せいじゅかんの講師の詰所つめしょに休んでいる時の事であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「あ。」と一声血を絞れる、不意の叫声に驚きて、思わず軍夫が放てる手に、身を支えたる力を失して後居しりいにはたとたおれたり。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あ。」と一声血をしぼれる、不意の叫声に驚きて、思はず軍夫が放てる手に、身を支えたる力を失して後居しりいにはたとたおれたり。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とわッとばかりに泣出しざま、なげうたれたらんかのごとく、障子とともにたおれ出でて、き、勝手もとやみを探りて、かれは得物を手にしたり。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
猛獣犠牲いけにえて直ぐには殺さず暫時しばらくこれをもてあそびて、早あきたりけむ得三は、下枝をはたと蹴返せば、あっ仰様のけざまたおれつつ呼吸いきも絶ゆげにうめきいたり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幾度か水火の中に出入して、場数巧者の探偵吏、三日月と名に負う倉瀬泰助なれば、何とてもろくも得三の短銃ピストルたおるべき。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
亭主は鳩尾みぞおちのところを突きとおされる、女房は頭部あたまに三箇所、肩に一箇所、左の乳の下をえぐられて、たおれていたその手に、男の片袖をつかんでいたのだ
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
痩せたる上に色さえおぼろ、見る影もないさまながら、なお床を這い板にたおるる患者のうちに、独り身を起していた姿、連添う身に、いかばかりの慰藉いしゃなりけむ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と遠慮がちに訴うるは、美人の膝枕せし老夫おやじなり。馬は群がるはえあぶとの中に優々と水飲み、奴は木蔭こかげ床几しょうぎに大の字なりにたおれて、むしゃむしゃと菓子をらえり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すわやと見る目の前の、鷲の翼は四辺あたりを暗くした中に、娘の白いはだえを包んで、はたと仰向あおむけたおれた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少年が勇威凜々りんりんとして今大鷲をった時の風采は、理学士をして思わずおもてを伏せて、たおれたる肉一団何かある、我が妻をもてこの神将に捧げんと思わしめたのである。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「や……妙なものがたおれている。何だ。やはり人らしい。しかも女だ。誰だろう。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其時そのとき最後の痛苦の絶叫、と見ると、さいなまるゝ婦人おんなの下着、樹の枝に届くまで、すツくりと立つたので、我を忘れて突立つったあがると、彼方かなたはハタと又たおれた、今はかわや破れけん、枯草かれくさの白き上へ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いかにも大木のたおれたのが草がくれにその幹をあらわしている、乗ると足駄穿あしだばき差支さしつかえがない、丸木だけれどもおそろしく太いので、もっともこれを渡り果てるとたちまちながれの音が耳にげきした
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
という声もろとも、咽喉のんど白刃しらはを刺されしまま、伝内はハタとたおれぬ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おいみんな聞かっし、初手はな、支那人チャンチャンの金満が流丸ながれだまくらって路傍みちばたたおれていたのを、中隊長様が可愛想だってえんで、お手当をなすってよ、此奴こいつにその家まで送らしておやんなすったのがはじまりだ。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おいみんな聞かつし、初手しょてはな、支那人チャンチャンの金満が流丸ながれだまくらつて路傍みちばたたおれてゐたのを、中隊長様が可愛想だつてえんで、お手当をなすつてよ、此奴こいつにその家まで送らしておんなすつたのがはじまりだ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
身悶みもだえして帯を解棄て、毛を掻挘かきむしまげこわせば、鼈甲べっこうくし黄金笄きんこうがい、畳に散りて乱るるすがた、蹴出す白脛しろはぎもすそからみ、横にたおれて、「ええ、悔しい!」柳眉りゅうびを逆立て、星眼血走り、我とわが手に喰附けば
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、ミリヤアドの枕のもとたおれふして、胸にすがりてワッと泣きぬ。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よろよろとたおれかかれる、肩を支えて、腕をつかみて
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この声とともに、船子ふなこはたたおれぬ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)