似而非えせ)” の例文
そうして病身であるために世を厭うている人に過ぎないと言っておる。遁世家ぶって得意でいる似而非えせ風流は少しもないのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
マルシャンジーと呼ぶ似而非えせシャトーブリアンがいた、と一方にはアルランクールという似而非えせマルシャンジーも出かかっていた。
そして精神的似而非えせ自由が、たえずせり上がってゆく。それにはほとんどだれも抵抗しようとしない。群集は本音を吐くことができない。
第一、ほんとうに生きようとしていないノンキな似而非えせ芸術家が創作をやっている。それを「ほんとうに生き」たくない読者が喜んで読む。
創作の心理について (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
横光の似而非えせ芸術。川端康成だって心情をそこへ導いたものは頭脳的だから、心情的なものの低さではもちこたえられず。
うっかりすると「演説使い」だとか「雄弁売り」——又は時と場合では「偽国士」とか「似而非えせ愛国者」とかいう尊号をうけないとも限りませぬ。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かくして純粋は不純を、善は偽善を、真理は似而非えせ真理を、キリストは偽キリストを、最も強く排撃せざるを得ないのだ。
花田 俺たちは力をあわせて、九頭竜という悪ブローカーおよび堂脇という似而非えせ美術保護者の金嚢かなぶくろからあたうかぎりの罰金を支払わせることを誓う。
ドモ又の死 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
似而非えせ賢者何程なにほどのことやあらんと、蓬頭突鬢ほうとうとつびん垂冠すいかん短後たんこうの衣という服装いでたちで、左手に雄雞おんどり、右手に牡豚おすぶたを引提げ、いきおいもうに、孔丘が家を指して出掛でかける。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
似而非えせ神職の説教などに待つことにあらず。神道は宗教に違いなきも、言論理窟で人を説き伏せる教えにあらず。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
ついに一回の書画会をだも開かなかったというは市井町人の似而非えせ風流の売名をいさぎよしとしない椿岳の見識であろう。
主翁は今一応先刻の御話をと云うた。似而非えせ使者ししゃは、試験さるゝ学生の如く、真赤な嘘を真顔で繰り返えした。母者人は顔の筋一つ動かさず聴いて居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
こんな簡単な、周知の事実の場合には直ぐに気がつくが、多くの似而非えせ歴史小説は、大なり小なり、此のたぐいであることは、容易にわかるものではない。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
初めすべての人々は、ただ、老先生のこのお悲しみが見たくないために、似而非えせ同情の心で、お訪ねもせず、お耳にも入れずに、過ぎて来たのでござります
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真の科学者には——似而非えせ科学者はいざ知らず……恐らく、誰よりも温かい血が流れて居るべき筈である。
恋愛曲線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
もしあるとすればナンセンスであり、似而非えせ駄文学だぶんがくにすぎないのだ。いわんや俳句のような抒情詩——俳句は抒情詩の一種であり、しかもその純粋の形式である。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
にこにこして「しかし、惜しい事には……」と言ってその似而非えせ説明せつめいの大きなごまかしの穴を指摘しておいて、さて、丁寧に先生の本物の説明を展開するのであった。
田丸先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
掏摸の野郎と顔をならべて、似而非えせ道学者の坂田なんぞを見返そうと云った江戸児えどッこのお嬢さんに、一式の恩返し、二ツあっても上げたい命を、一ツ棄てるのは安価やすいものよ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大事そうに金時計をぶら下げた似而非えせ詩人どもに、僕の旅行のすばらしい味はわかるまい。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
見識も高尚こうしょうで気韻も高く、洒々落々しゃしゃらくらくとして愛すべくたっとぶべき少女であって見れば、仮令よし道徳を飾物にする偽君子ぎくんし磊落らいらくよそお似而非えせ豪傑には、或はあざむかれもしよう迷いもしようが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
又それから種〻の古物をも云ふことになつたのである。骨董は古銅の音転などといふ解は、本を知らずして末に就いて巧解したもので、少し手取り早過ぎた似而非えせ解釈といふ訳になる。
骨董 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
似而非えせ文人は曰く、黄金百万緡ひゃくまんびんは門前のくろ(犬)の糞のごとしと。曙覧は曰く
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「——医が仁術だなどというのは、金儲かねもうけめあてのやぶ医者、門戸を飾って薬礼稼ぎを専門にする、似而非えせ医者どものたわ言だ、かれらが不当に儲けることを隠蔽いんぺいするために使うたわ言だ」
失恋した男の人はよくその恋人に似た似而非えせ女をあさるものだわ。そしてその恋人の幻をその似而非女の形骸けいがいでまやかしていることに自分で気がつかないんだわ。女こそいいつらの皮だわね。
もし其処に似而非えせ現実主義というものがあると仮定すれば、それは自己のない生活である。個性のない生活である。而してそうした生活から生れる所の芸術は、形式の芸術、模倣の芸術である。
囚われたる現文壇 (新字新仮名) / 小川未明(著)
玉蟲染たまむしぞめ天鵞絨びろうどのやうな薔薇ばらの花、あかの品格があつて、人のをさたる雅致がちがある玉蟲染たまむしぞめ天鵞絨びろうどのやうな薔薇ばらの花、成上なりあがりの姫たちが着る胴着どうぎ似而非えせ道徳家もはおりさうな衣服きもの僞善ぎぜんの花よ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
この「日本製」似而非えせニヒリズムとの距離は、はるかにはるかに遠い。
恐怖の季節 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
もっとも女の似而非えせ理屈とか云う者でしょう、もとより現場も見ませんで
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
彼の魂は、涙っぽい浮華な情緒のまりであった。確かに彼は、似而非えせ大家にたいする感激崇拝において、虚偽をよそおってるのではなかった。
ある似而非えせコルネイユがティリダートを書き、ある宦官かんがんが後宮を所有し、陸軍のあるプルュドンムが偶然に一時期を画すべき決定的勝利を得
豊国の似而非えせ高慢が世間の評判を自分の手柄に独占しようとするは無知な画家の増長慢としてありそうな咄だ。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
あれは似而非えせ君子だ。もののふの情も何も知らぬ糞軍師くそぐんしだ。……残念さ、おいたわしさ、何ともいいようがない
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一方に自家の芸術良心を相殺そうさいして、結局西洋流の生活文学にもならず、日本流の名人芸術にもならないところの、似而非えせ曖昧あいまい文学で終ってしまっているところにある。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
似而非えせ立憲的形態で軽く粉飾されているに過ぎない其の絶対的性質とを、保持している。
しかし、同時に大衆は、常になべての「主義」の似而非えせ信者であり異端者である。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
またそれから種〻の古物をもいうことになったのである。骨董は古銅の音転などという解は、本を知らずして末に就いて巧解こうかいしたもので、少し手取てっとり早過ぎた似而非えせ解釈という訳になる。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
されば例の似而非えせ神職ら枯槁せぬ木を枯損木として伐採を請願すること絶えず。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
狡猾こうかつなる似而非えせ予言者らは巧みにこの定型を応用する事を知っている。しかしルクレチウスは彼の知れる限りを記述するに当たって、意識的にことさらに言語を晦渋かいじゅうにしているものとは思われない。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
陽に清貧をたのしんで陰に不平を蓄うるかの似而非えせ文人が「独楽唫」という題目の下にはたして饅頭、焼豆腐の味を思い出だすべきか。彼らは酒の池、肉の林と歌わずんば必ずや麦の飯、あかざあつものと歌わん。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
その似而非えせ気取りを葉子は幸いにも持ち合わしていないのだと決めていた。葉子はこの家に持ち込まれている幅物ふくものを見て回っても、ほんとうの値打ちがどれほどのものだかさらに見当がつかなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「いうまでもない。この高俅が禁門軍の上に臨むからは、さくのごとき、軍の弛緩しかんは断じてゆるさん。まずもって、汝のような軍をみだ似而非えせ武士からただすのだ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これに対してニイチェのツァラトストラは、哲学が主観の中に取り込まれ、認識が感情によって融かされている。故に後者は本質の詩であって、前者は形式だけの似而非えせ詩である。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
彼らはたがいに似而非えせ文学者だとし、似而非学者だとしていた。理想主義だの唯物主義、象徴主義だの実物主義、主観主義だの客観主義、などという言葉をたがいに与え合っていた。
その似而非えせ戦勝の名前を受くるに、フランスが困惑を感じたことは、史眼に照らして正当である。防御の任を帯びたスペインのある将軍らは、明らかにあまりにたやすく屈伏したらしい。
或る種の似而非えせ政治家は、食糧その他の人民管理委員会というものを、さも革命的なもののように誇張して、日本の民主化の今日の段階を無視した二重権力というような理論をつくり上げている。
私たちの建設 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
トヾの結局つまり博物館はくぶつくわん乾物ひもの標本へうほんのこすかなくば路頭ろとういぬはらこやすが学者がくしやとしての功名こうみやう手柄てがらなりと愚痴ぐちこぼ似而非えせナツシユは勿論もちろん白痴こけのドンづまりなれど、さるにても笑止せうしなるはこれ沙汰さた
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
平常の臙脂えんじや黒髪のうるわしさも、もしこの日にしてその芳香を心から発するのでなければ、ただみぐるしさをかくす似而非えせのものと、女と女のあいだですらさげすみ、いやしむ気風があった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
要するに今日の所謂自由詩は、真に詩と言わるべきものでなくして、没音律の散文が行別けの外観でごまかしてるところの、一のニセモノの文学であり、食わせものの似而非えせ韻文である。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
その正法は、時として似而非えせ革命家らによって汚名を負わせらるることもあるが、しかしたとい汚されようとも存続するものであり、たとい血にまみれようとも生きながらえるものである。
そして現在のような時代にあっては、善でさえも悪に変化してゆく。似而非えせ優秀者らが、一度パリーを奪って言論のらっぱの口をふさいだだけで、フランスの残りの声もみな抑圧されてしまう。