仲人なこうど)” の例文
そこで直ぐさま仲人なこうど婆さんを呼んで来る。あれでもないこれでもないと、例の女同士の話しが始まる。ヷーシャが見合いをして廻る。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼女は、斯波しば家の臣、高島左京大夫のむすめで、利家にとついだのも、その仲人なこうどは、まだ小身時代の、秀吉寧子ねねの夫婦だったのである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それがまたさいわいと、即座に話がまとまって、表向きの仲人なこうどこしらえるが早いか、その秋の中に婚礼もとどこおりなくすんでしまったのです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
仲人なこうど参上の節は供一人ひとり、右へ御料理がましいことは御無用に願いたし。もっとも、神酒みき二汁にじゅう、三菜、それに一泊を願いたし。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あれで飛んだ色っぽいところがあるから面白いでしょう、仲人なこうどを立てるまでもなく、あの様子なら、小当りに当って——」
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
仲人なこうど履物はきものきらしといって、然う一遍じゃ納まらない。これからだ。しかし話のよく分る御夫婦だから、わしも張合がある」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おれのほかの愛しうる男を見つけたら、はげしい情熱を出せる女だ。あいつは相手をまちがえたのだ。仲人なこうど結婚がおたがいの不幸のもとになったのだ。
妻に失恋した男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この間、仲人なこうどの人がぜひその男のヴァイオリンを聞けと言って、私に電話口で聞かせるのよ。お継母さんがどうしても聞けって言うんですもの。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
だから俺は初めっからちゃんとした仲人なこうどを立ててというのに年をとっているからとか、何度もやった揚句あげくだから今度は決ってからにしようとか……。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
そしてその訪問者は蝶々ちょうちょうである。花の上を飛びまわっている蝶々は、ときどき花に止まって仲人なこうどとなっているのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
だから、足まめにして親切で売ることにしよう。しかし、いかに俗にちればとて、世間医のやる幇間ほうかん骨董こっとう取次とりつぎと、金や嫁の仲人なこうど口だけは利くまい
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
仲人なこうどは追従男で、利己心の強い性質から、少将のためにも、自身のためにも都合よく話を変えさせようと思った。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
親たちは江戸がえりの娘の美しさゆえに——と思った善人である、先方が旗本で、旗本が口をきいてくれたのだからといった具合でよろこんだ。仲人なこうどが来た。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
仲人なこうどが寺田屋の親戚のうちからにわかに親代りを仕立ててなだめる……そんな空気をひとごとのようにながめていると、ふとあえかな螢火が部屋をよぎった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
あるいはすべての結婚なるものをみずか呪詛じゅそしながら、新郎と新婦の手を握らせなければならない仲人なこうどの喜劇と悲劇とを同時に感じつつすわっていたかも知れない。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうですとも。間違まちがっては大へんです。よくおちついて。」と仲人なこうどのかえるもうしろで云いました。
蛙のゴム靴 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
仲人なこうどの私のまえに五人の老人が、先頭は手ぶらで次は一升徳利を三人めはこいのいきづくりの鉢を四人めは鶴亀の島台を捧げて、つぎつぎとあらわれては禿げた頭を物堅くさげ
加波山 (新字新仮名) / 服部之総(著)
仲人なこうどをしてもらうつもりの咄しになっているのですよ。今さらお嬢さんにねとられましたからって。あっけらかんとしていられやアしません。ともかくも山中を出して下さい。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
作家である貞子が世の常の仲人なこうど的な強引さでは、野村にそれを伝えることが出来ないでいるらしい中に、ミネは野村と会う機会ができてしまった。ちょうど悠吉も一しょだった。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
どうも御新造に取持とうという者、いわば仲人なこうどが一旦自分のいう事をきかして、それから縁付かたづけると、そんな事がありましょうか、だかられはもう、お置きなさらん方が
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今宵の祝賀のまとであるべき花嫁を初め、親や仲人なこうどが、銘々の苦しみにもだえているにもかかわらず、祝賀の宴は、飽くまでも華やかだった。あたい高い洋酒が、次ぎから次ぎへと抜かれた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そは甲寅きのえとらの年も早や秋立ちめし八月末の日なりけり。目出度き相談まとまりて金子翁を八重が仮の親元に市川左団次いちかわさだんじ夫妻を仲人なこうどにたのみ山谷さんや八百屋やおやにてかたばかりの盃事さかずきごといたしけり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ちょっといって来ると云ってでかけたが、そのままもどらず、三日ほどまをおいて仲人なこうどが来た。家風に合わないから離婚したいというので、五郎さんも五郎さんの父親もあっけにとられた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
仲人なこうどの振れ込みほどのことも無く、ケチくさいというのか、不人情というのか、わたくしどもの考えとは、まるで違った考えをお持ちのようで、あのひとがこちらへ来てからまる八年間
春の枯葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
二十六の歳に畳屋の塚本を仲人なこうどに立てて、山蘆屋のやしきに奉公していた品子を嫁に貰ったのだが、その時分から商売の方がいよいよ上ったりになって、毎月のり繰りに骨が折れて来た。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
根ッから早やきつねでなければ乗せ得そうにもないやつじゃが、そこはおらが口じゃ、うまく仲人なこうどして、二月ふたつき三月みつきはお嬢様じょうさまがご不自由のねえように、翌日あすはものにしてうんとここへかつぎ込みます。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「君たちが結婚するとき、僕を仲人なこうどに立てること。それがひとつだ」
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
私は若い女のひとは沢山知っているけれども、夫婦の生活が複雑微妙であることを知りぬいているので——最もよい場合を知り、わるい場合を目撃しつつあるので——仲人なこうどをやることは大役すぎます。
女男めおの人形は二人の仲人なこうど……」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
婚礼の飾り物をした、広い床の間を背景に、新郎新婦、仲人なこうど夫々それぞれの親達、待女郎などが、生けるが如く飾りつけてある。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その祖母に対しても、お粂はこの縁談を拒み得なかった。伊那からはすでに二度も仲人なこうどが見えて、この二月には結婚の日取りまでも申し合わせた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
仲人なこうど宝屋祐左衛門たからやゆうざえもん夫婦にまもられ、駕籠かごの垂れを深々とおろして、多賀屋へ乗込んで行ったのは、秋の宵——酉刻むつ半(七時)そこそこという早い時刻でした。
八月ぐらいと仲人なこうどと約束をし、手道具の新調をさせ、遊戯用の器具なども特に美しく作らせ、巻き絵、螺鈿らでんの仕上がりのよいのは皆姫君の物として別に隠して
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
何も改めて、仲人なこうども要るまい——で、事は至って簡略にすすんで、もう郁次郎の帰りを待つばかり。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「親切なものです。僕は学生時代に保証人をして貰いました。そんな関係からこの会社を志願したんです。以来ズッとお世話になり続けて、仲人なこうどまでして貰っています」
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
けれどもそこにもまた複雑な事情があって、すぐわが家に引取られて行く訳に行かなかった。それで三沢の父が仲人なこうどという義理合から当分この娘さんを預かる事になった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
令嬢の名前は常子つねこである。これも生憎あいにく恋愛結婚ではない。ある親戚の老人夫婦に仲人なこうどを頼んだ媒妁ばいしゃく結婚である。常子は美人と言うほどではない。もっともまた醜婦しゅうふと言うほどでもない。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
本当にお前さんが左様そう仰しゃれば真実生涯見棄てぬ、末は夫婦という観音様に誓いを立って…貴方も私もほかに身寄は有りませんが、改めて仲人なこうどを頼んで…斯うという事に成りますれば
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
仲人なこうどは次席家老の海野図書夫妻である、定刻の七時が来、式が始まった。
女は同じ物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そしてこのごろでは仲人なこうどに立つ人がその話にかかると
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
おふみからお涌の仲人なこうど口を聞いたとき島谷は
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「おたきは、法印が仲人なこうどだもんだから。」
「黙っていろ、手前だって満更まんざらじゃあるめえ。——なア、お染坊、こんな野郎だが、これで八五郎はとんだ親切者さ、——仲人なこうどは俺がするよ、嬉しかろう」
たがいに好き合っていたなんて、そんなみだらなのではなく、仲人なこうどが母をきつけて、母が又私に申し聞かせて、それを、おぼこ娘の私は、どういなやが申せましょう。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
せめて仲人なこうどのもとまでと思いながら、かねて吉辰きっしん良日として申し合わせのあった日に当たる九月二十二日が来ても、彼にはその手紙が書けない。月の末にも書けない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
仲人なこうどの奥さんも度々訪ねて来て、山下夫人とかなり親しくなった。或晩のこと、夫人は
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、あの仲人なこうどの口車に乗せられた守の言っているのも愚かしい限りであった。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「あります。自分を養家の大岡忠右衛門へ世話いたし、その折の仲人なこうどでした」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
縁女えんじょ仲人なこうどの奥さんが先、それから婿と仲人の夫、その次へ親類がつづくという順を、はかま羽織はおりの男が出て来て教えてくれたが、肝腎かんじんの仲人たるべき岡田はお兼さんを連れて来なかったので
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
功兵衛は二十一歳のとき、斧島嘉助おのしまかすけの娘さくらと結婚した。そのときの仲人なこうどは矢沢金右衛門、さくらは十八歳であった。斧島は三十石あまりの馬廻りであり、矢沢はこおり奉行職付き記録方を勤めていた。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)