了簡りょうけん)” の例文
ちとやそっとの、ぶんぶんなら、夜具の襟をかぶっても、成るべくは、蛍、萱草かやくさ、行抜けに見たい了簡りょうけん。それには持って来いの診察室。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
理不尽りふじん阿魔女あまっちょが女房のいる所へどか/\へいって来て話なんぞをしやアがって、もし刃物三昧はものざんまいでもする了簡りょうけんなら私はたゞは置かないよ
しおれた花、虫ばみ枯れかかった葉を故意にあさはかな了簡りょうけんで除いて写した向日葵の絵は到底リアルな向日葵の絵ではあり得ない。
備忘録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そりゃ、親方悪い了簡りょうけんだろうぜ。一体俺達が、妻子眷族けんぞくを見捨てて、此処ここまでお前さんに、いて来たのは、何の為だと思うのだ。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
なぜこんな余計な仮定をして平気でいるかというと、そこが人間の下司げす了簡りょうけんで、我々はただ生きたい生きたいとのみ考えている。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし長く止まって居る事が出来ぬというお話でござれば長く引留ひきとめは致さぬけれども、とにかく私の一了簡りょうけんめる訳にいかないから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
奴らも今になってそんな卑怯ひきょうなことを言いだすくらいなら、何と思ってはるばる江戸まで下ってきたのだ? 俺にはその了簡りょうけんが分らないね
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
言いわけも聞かないで縄にかけるというのはいかにも了簡りょうけんがなり兼ねる、それはひどい、無理だ、と思ったから米友はムキになりました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仮初かりそめにも人にきずを付ける了簡りょうけんはないから、ただ一生懸命にけて、堂島五丁目の奥平おくだいらの倉屋敷に飛込とびこんでホット呼吸いきをした事がある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
頭の悪い上に了簡りょうけんの狭いことをくどくど云った。親爺の応対ははじめは冗談かと思うほどに、理不尽りふじん極まるものであった。私も中腹ちゅうっぱらになった。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
どうしてお粂がそんな了簡りょうけん違いをしたろうということは、彼女の周囲にある親しい人たちの間にもいろいろと問題になった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とはいえ、何しろ相手が了簡りょうけんのわからない奇人快人揃いの事だからウッカリした事を発表したら何をされるかわからない。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すぐ起きる了簡りょうけんではあるが、なかなかすぐとは起きられない。肩が痛む腰が痛む、手の節足の節共にきやきやして痛い。どうもえらいくたぶれようだ。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
どんな金高にもへられない程の嫌やな思ひをさせてさんざつぱら女を苦しめておきながら見事面白がられてる了簡りょうけんでゐる生粋の間抜共を見るたびにね。
ウォーレン夫人とその娘 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
タダの奉公人でも追出すような了簡りょうけんで葉書一枚で解職を通知したぎりでましているというは天下の国士を任ずる沼南にあるまじき不信であるというので
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
町通りを行き過ぎた多市を見かけて、万吉もヒラリと土蔵のかげを離れた。手紙と交換に阿波入りの事情や甲賀世阿弥よあみの身の上などを探り取ろうという了簡りょうけん
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武力にうったえて、弱い者から飲み代を、稼ごうと言う了簡りょうけんを考えると、人間の風上に置けない気がした。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
事もあろうに月々三百八十円ずつの保証人になろうというのは大した了簡りょうけんで、世間でそれほどまでに買ってくれるかどうかは考えてみてもわかりそうなものであったが
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
わしもこの四五日せわしいんで、聞いてみるひまもなかったが、全体お前の了簡りょうけんはどういうんだな」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自分の本当の了簡りょうけんで、自分の嗜好で、自分の見識で習いますときに、たとえ先生が一人であっても、習う者が百人おりましたら、百人とも違った字ができるはずであります。
なんじは人の前に立ち、少しでもよく自分を思われたいと、自分の真価以上に看板かんばんをかけたい了簡りょうけんなるか、相手の人にめられたいと思っておりはせぬか、あるいは何か求むる所があって
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
諸人のかしらをもする者ども、軍法だてをして床几しょうぎに腰を掛け、采配さいはいを持って人数を使う手をも汚さず、口の先ばかりにていくさに勝たるるものと心得るは大なる了簡りょうけん違いなり、一手の大将たる者が
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
どうするか覚えていろと、はてくやしまぎれに良くない了簡りょうけんを起しました。
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
第一、と言いかけるを押しとどめて、もういいわ、お前はお前の了簡りょうけんきらうさ。わしは私で結交つきあうから、もうこのことは言わぬとしよう。それでいいではないか。顔を赤め合うのもつまらんことだ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
「悪い了簡りょうけんを起こしまして」
「どうする了簡りょうけんじゃ」
炬燵櫓こたつやぐらまたいだ同然、待て待て禁札を打って、先達が登山の印を残そうと存じましたで、携えました金剛を、一番突立つったてておこう了簡りょうけん
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
高柳君はとこのなかからい出した。瓦斯糸ガスいと蚊絣かがすりの綿入の上から黒木綿くろもめんの羽織を着る。机に向う。やっぱり翻訳をする了簡りょうけんである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは驚いた、そんな了簡りょうけんで金貸しができるものか。今度来たら私のところへ取次いで下さい、私が掛合うから。いや、そんな間緩まぬるいことを
それについてはお隣の源次郎様をと内々ない/\殿様にお勧め申しましたら、殿様が源次郎はまだ若くッて了簡りょうけんが定まらんからいかんと仰しゃいましたよ
見っともない恰好の鼻でも了簡りょうけん一つでは美しい感じを他人に与える。うっかり出来ないと思われるに違いありませぬ。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
旦那さん悪さをしてはいけまへんといったのは、吾々われわれ風体ふうていを見て万引をしたとう意味だから、サア了簡りょうけんしない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
縁談の儀は旧好をぎ、しんを厚うし候ことにて、双方よかれと存じ候事に候えども、当人種々娘ごころを案じめぐらせし上にもこれあり候か、了簡りょうけん違いつかまつり
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わしは藩政にかかわりない隠居、わしの頼みでも成らぬことがよく分ったであろう。それで了簡りょうけんせい
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その頃江戸川べりに住んでいた私は偶然川畔かわべり散策ぶらついていると、流れをりて来る川舟に犢鼻褌ふんどし一つで元気にさおをさしてるのが眉山で、吉原よしわら通いの山谷堀さんやぼりでもくだ了簡りょうけん
一般には云われないまでもそういう了簡りょうけんの人もまるでないとは云われないようである。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しておくれ。私はそんなだいそれた了簡りょうけんではない。ゆんべあんなに泣いたは全く私が悪かったから、全く私がとどかなかったのだから、お増や、お前がよく申訣をそういっておくれ……
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
なに、今になって退くような奴らは、皆大学様の御左右ごさうをうかがって、万一お家お取立てになった場合、真先にお見出しにあずかろうという了簡りょうけんから、心にもない義盟に加わってきたのだ。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
それでもね、妹が美しいから負けないようにって、——どういう了簡りょうけんですかね、兄さんが容色きりょう望みでったっていうんですから……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金時計だの金鎖が幾つも並べてあるが、これもただ美しい色や恰好かっこうとして、彼のひとみに映るだけで、買いたい了簡りょうけんを誘致するには至らなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つまり一世一代の了簡りょうけんが、そのいでたちにまで現われて、今度の仕事は冗談じゃない、という気にもなったのでしょう。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「……ヨシッ……わかった……泣くな泣くな……畜生めら……そんな了簡りょうけんで、あの赤い鳥を連れて来腐きくさったんだナ……ヨシッ……二人とも一緒に来い……」
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ついては、水戸みとの隠居(烈公)は年来海外のことに苦心して、定めしよい了簡りょうけんもあろうから、自分の死後外国処置の件は隠居に相談するようにと言い置いたという。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夜になればお賤の処へしけ込んでおり、お前が塩梅が悪くっても、子供が虫がおこっても薬一服呑ませる了簡りょうけんもない不人情な新吉、金をれば手が切れるから手を切ってしまえ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
Yはマダ人間が出来ておらんからぐ誘惑される。チンコロのようにオモチャにされたんで罪を犯す了簡りょうけんがあったんじゃない。島田の許へ連れてってあやまらせたが、オイオイ声を
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
どう腹の中でこねかえしても、つまりおとよさんは憎くない。いよいよおとよさんがおれを思ってるに違いなけりゃ、どうせばよいか。まさかぬしある女を……おとよさんもどういう了簡りょうけんかしら。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
同僚の噂咄うわさばなしはわが注文書の腹稿となり、色の黒き大の男がふしくれ立ちたるその指に金の指輪はちと不似合いと自分も心に知りながら、これも西洋人の風なりとて無理に了簡りょうけんを取り直して銭を奮発し
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
が、こうした事に、ものれない、学芸部の了簡りょうけんでは、会場にさし向う、すぐ目前、紅提灯べにぢょうちんに景気幕か、時節がら、藤、つつじ。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だからなるべくこれを避けて時と心の余裕を得ようとする。文学者も今まではやはりそう云う了簡りょうけんでいたのです。そう云う了簡どころではない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
年の若いうちに度々そんなことはあったっけ、僅かの金で小吉を瑕物きずものにはできぬ故、何とか了簡りょうけんしてみてやれと言った。