ふたつ)” の例文
旧字:
このふたつの情はたとえその内容において彼此ひし相一致するとしても、これを同体同物としては議論の上において混雑を生ずる訳であります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の新なる悔は切にまつはるも、いたづらに凍えて水を得たるにおなじかるこのふたつの者の、相対あひたいして相拯あひすくふ能はざる苦艱くげんを添ふるに過ぎざるをや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
虎の児を善搏とづけ生長する内、母獣ふたつながら病んで臨終に両児を戒め、汝らは同じ乳を吸うて大きくなったから同胞に等し
わたくしは思想と感情とにおいても、ふたつながら江戸時代の学者と民衆とのつくった伝統に安んじて、この一生を終る人である。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お洲美さんは、うっとり目をき、膝をすべって、蹴出しを隠した菅笠に、ふたつの白いものをて、くすぐったそうに、そッと撫でて
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ゆえに保護と指図とはふたつながらその至るところをともにし、寸分も境界を誤るべからず。保護の至るところはすなわち指図の及ぶところなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
其碑は李邕りようが文を撰み自ら書した。然るに李邕にふたつの雲麾の碑がある。一は李思訓りしくんの碑にして一は此碑である。思訓と秀とは同姓同官である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
打スレバ則チ棒ヨリモ利アリ、刺ストキハ則チ刃ヨリモ利アリ、ふたつナガラ相済あひすくフ、一名ヲこんフ、南方ノ語也、一名ヲ白棒ト曰フ、北方ノ説也。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その預言者なるは、なお松陰が尊王的の打撃者たるが如し。しこうしてそのふたつながら国家的概念を以て充満するに至りては、則ちそのを一にせずんばあらず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
軍略政策ふたつながらその宜しきを得ざればとうてい為し能わざりしならん、彼のピートル大帝は巨人なり、しかれどもたれか彼を以て君子仁人となすものあらんや
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
権義に係る理想よりして国家の権力と個人の権利とをふたつながらこれを認め、かの仏国の革命主義を攻撃しつつ一方には国家権力の鞏固をもって個人の権利を保護することを説くものなり。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
紐解ひもときの賀のすんだ頃より、父親の望みで小学校へ通い、母親の好みで清元きよもと稽古けいこ生得うまれえさいはじけの一徳には生覚なまおぼえながら飲込みも早く、学問、遊芸、ふたつながら出来のよいように思われるから
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お話はふたつに分れまして、大工町の藤屋七兵衞の宅へ毎夜参りまして、永禪和尚がお梅と楽しんで居ります。すると丁度真夜中の頃に表の方から来ましたのは眞達と申す納所坊主…とん/\
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
間が浅い凹地くぼちになつて、浮世の廃道と謂つた様な、塵白く、石多い、通行とほり少い往還が、其底を一直線ましぐらに貫いてゐる。ふたつ丘陵おかは中腹から耕されて、なだらかな勾配を作つた畑が家々の裏口まで迫つた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
為す所多ければ巧拙ふたつながらいよいよ多きを見る。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この二馬は一和してとどまる、これふたつながら荒くて癖が悪く、いつつなを咬み切る、罪を同じゅうし過ちをひとしゅうする者は必ず仲がよいと答え
ふたつながら、その処を得せしめなば、政を施すにも易く、学を勉むるにも易くして、双方の便利、これより大なるものなかるべしと信ずるものなり。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼はあながちに死を避けず、又生をいとふにもあらざれど、ふたつながらその値無きを、ひそかいさぎよしとざるなり。当面の苦は彼に死を勧め、半生の悔ははぢを責めて仮さず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こは火の如き婦人の熱情のために心身ふたつながら溶解し去らるるならんと、ようやく渠を恐るる気色を、早くさとりたる大年増は、我子ともすべき美少年の、緑陰りょくいん深き所をいといて
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一国の文明は、政府のせいと人民の政とふたつながらそのよろしきを得てたがいに相助くるに非ざれば、進むべからざるものなり。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ふたつながら予その場に臨んでためしたが波風が呼声を聞いて停止するでなく、人が風波のやむまで呼び続けるのだった。
真中まんなか鰐鮫わにざめくちをあいたやうなさきのとがつたくろ大巌おほいは突出つきでると、うへからながれてさツはや谷川たにがはが、これあたつてふたつわかれて、およそ四ぢやうばかりのたきになつてどツちて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
またふたつ小鰭こひれとなって痕跡を止め、英仏等の盲虫ブラインド・オルム、アジアやアフリカの両頭蛇アムフィスパイナは、全く足なく眼もちょっと分らぬ。
人間の事には内外両様の別ありて、ふたつながらこれを勉めざるべからず。今の学者は内の一方に身をまかして、外の務めを知らざる者多し。これを思わざるべからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
真中にまず鰐鮫わにざめが口をあいたような先のとがった黒い大巌おおいわ突出つきでていると、上から流れて来るさっとの早い谷川が、これに当ってふたつわかれて、およそ四丈ばかりの滝になってどっと落ちて
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
虎に殺された者のしかばねを一族の墓地に埋めぬとある、また正月ごとに林地の住民ぶた一疋に村の判をした寄進牒きしんふだを添えて林中に置くと、虎が来てふたつながら取り去る
議論と実業とふたつながらそのよろしきを得ざるべからずとのことは、あまねく人の言うところなれども、この言うところなるものもまたただ議論となるのみにして
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
因って剣を操りて王を刺し代って王となり竜女を後と立てたはなしふたつながら本話に縁が甚だ遠い。
教育の旨は、形体と精神とふたつながらこれを導きて、その働の極度にいたらしむるにあり。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
故にふたつながら昨今始まった語でなく、悪眼は今よりおよそ千五百四十年前、邪視は今よりおよそ千百三十年前既にあったと知らる(『高僧伝』巻一、『宋高僧伝』巻三)。
ふたつながら労して効なきのみならず、かえって全国の成跡を妨ぐるに足るべきのみ。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
カリフォルニアとメキシコの産キロテス属など、短き前脚のみ存し、支那、ビルマ、米国等の硝子蛇グラス・スネークや、濠州地方のピゴプス・リアリス等諸属は前脚なくて、後脚わずかにふたつ小刺こはり
ふたつながら胆が薬用さるるからマルコの大蛇と鱷と同物だとは、不埒ふらちな論法なる上何種の鱷にもマルコが記したごとき変な肢がない。予おもうにマルコはこの事を人伝ひとづて聞書ききがきした故多少の間違いは免れぬ。
図版にはふたつながら淡青に彩しあり。