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一瞥
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いちべつ
ふりがな文庫
“
一瞥
(
いちべつ
)” の例文
じろりと鋭い
一瞥
(
いちべつ
)
をくれたかと見えるや、果然、知恵の袋の口があいたとみえて、さえまさった声がたちまちずばりと放たれました。
右門捕物帖:26 七七の橙
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
彼は
縄梯子
(
なわばしご
)
に取りすがって、舷檣の頂きに登ろうと
努
(
つと
)
めた。それはあたかも去りゆくものの最後の
一瞥
(
いちべつ
)
を得んと望むかのように——。
世界怪談名作集:09 北極星号の船長 医学生ジョン・マリスターレーの奇異なる日記よりの抜萃
(新字新仮名)
/
アーサー・コナン・ドイル
(著)
いつもの彼であれば、芸人
冥利
(
みょうり
)
、
讃嘆
(
さんたん
)
のささやきを呟いてくれる、そうした人たちの方へ、礼ごころの
一瞥
(
いちべつ
)
はあたえたかも知れない。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
老公の頬に、すこし
紅
(
くれない
)
がさした。
巻
(
かん
)
の
紐爪
(
ひもづめ
)
を解き、くるくると繰りひろげる。らんとした眼がずうっと、それに、並ぶ名を
一瞥
(
いちべつ
)
した。
梅里先生行状記
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
美奈子は電車が、
平素
(
いつも
)
の二倍もの速力で走っているように思った。彼女は、最後の
一瞥
(
いちべつ
)
を得ようとして、思い切って顔を持ち上げた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
▼ もっと見る
私は
漸
(
やうや
)
くほつとした心もちになつて、巻煙草に火をつけながら、始めて
懶
(
ものう
)
い
睚
(
まぶた
)
をあげて、前の席に腰を下してゐた小娘の顔を
一瞥
(
いちべつ
)
した。
蜜柑
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ただ当時の余はかくのごとき情調に支配されて生きていたという消息が、
一瞥
(
いちべつ
)
の
迅
(
と
)
きうちに、読者の胸に伝われば満足なのである。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ですから、あの室に入って夫の屍体を
一瞥
(
いちべつ
)
すると同時に、私の眼は、まるで約束されたもののようにヴィデさんに向けられました。
潜航艇「鷹の城」
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
北斎のあらゆる方面の代表的作品とまた古来日本画の取扱ひ来りし題材
並
(
ならび
)
にその筆法とを
一瞥
(
いちべつ
)
の
下
(
もと
)
に通覧せしむる
辞彙
(
じい
)
の如きものなり。
江戸芸術論
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
その落ち着いた
一瞥
(
いちべつ
)
の威厳のみで既に、ものすごい一群の者らをして、彼を殺すに当たって尊敬の念を起こさしめるかと思われた。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
斯う云ふ場合、誰れもが感ずるらしい、気の引けるやうな、又、罪深いやうな心持ちをしながら、私は斜めに、彼の女をそつと
一瞥
(
いちべつ
)
した。
アリア人の孤独
(新字旧仮名)
/
松永延造
(著)
猶
(
なお
)
、新時代の先駆者たりし北村君に就いては、話したいと思うことは多くあるが、ここにはその短い生涯の
一瞥
(
いちべつ
)
にとどめておく。
北村透谷の短き一生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
黒いスーツに黒い
外套
(
がいとう
)
、それを細つそりした身に上品に着こなしてゐる。席につくなりA氏に
一瞥
(
いちべつ
)
を与へるでもなく、窓外へ眼をそらした。
三つの挿話
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
自分等が
一瞥
(
いちべつ
)
している関東東部の近世初期の開発地などには、以前の垣内制を
憶
(
おも
)
わしめるような屋敷地取りの方式がなお折々は見出される。
垣内の話
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
妾は恐怖のために大声を挙げて叫びました。そして妾は佐野の許しを乞うような
一瞥
(
いちべつ
)
を意識して舞台に倒れてしまったのです。
バルザックの寝巻姿
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
賑やかに
洩
(
も
)
れ聞こえてくる階下の応接間の笑い声に、苦々しげな
一瞥
(
いちべつ
)
を与えると、物足りなそうに引き揚げて行くのであった。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
院長
(
いんちょう
)
は、その
老人
(
ろうじん
)
と、
取
(
と
)
り
次
(
つ
)
いだ
看護婦
(
かんごふ
)
とを
鋭
(
するど
)
く
一瞥
(
いちべつ
)
してからいかにも、こんなものを……ばかなやつだといわぬばかりに
三月の空の下
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
いかに多くの像や形や細工物を工夫しても、ただ通りがかりの人の気まぐれな
一瞥
(
いちべつ
)
をとらえるだけのことしかできないのだ。
ウェストミンスター寺院
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
私の家来のフラテはこの水をさも
甘
(
うま
)
そうにしたたかに飲んでいた。私は
一瞥
(
いちべつ
)
のうちにこれらのものを自分の
瞳
(
ひとみ
)
へ刻みつけた。
西班牙犬の家:(夢見心地になることの好きな人々の為めの短篇)
(新字新仮名)
/
佐藤春夫
(著)
わたしが軽騎兵への返事に、非常な
憤慨
(
ふんがい
)
の
一瞥
(
いちべつ
)
をくれたので、ジナイーダは手をたたくし、ルーシンは「でかした!」と
絶叫
(
ぜっきょう
)
する
騒
(
さわ
)
ぎだった。
はつ恋
(新字新仮名)
/
イワン・ツルゲーネフ
(著)
一瞥
(
いちべつ
)
しただけであったけれど、切り戸から地上へ転がし出された、若い男の死骸が異様なものであったことが、紋也の眼には焼きついていた。
娘煙術師
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
うっとり聞き入っている邦夷が、そうかあいつが、か、と、
傍目
(
わきめ
)
にちらりと
一瞥
(
いちべつ
)
して、それが安倍誠之助の面上にぴしりと
鞭
(
むち
)
のようにおちた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
ホテルから東京駅へのタキシのなかから
一瞥
(
いちべつ
)
した最後の東京。雨が降っていた。窓を打ってななめに走る水。丸ビルを撫で上げる自動車の
頭灯
(
ヘットライト
)
。
踊る地平線:01 踊る地平線
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
その男の顔がさっと変ったとき、
前簾
(
まえすだれ
)
のすき間から月のように匂う生絹の顔をちらと見入った。生絹もその時不幸な
一瞥
(
いちべつ
)
を合わせたのであった。
荻吹く歌
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
尾形警部は沈痛な面持で、療養所長の証明書を
一瞥
(
いちべつ
)
しました。大きな四角い字で次のような字句が記されてあったのです。
赤耀館事件の真相
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
そこには若い医員が一パイに並んで診察をしていたが、その中の一人が、松浦先生の話をきくと、X光線の図には
一瞥
(
いちべつ
)
だも与えないで冷笑した。
いなか、の、じけん
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
欣弥は受け取りたる紙幣を
軽
(
かろ
)
く
戴
(
いただ
)
きて
懐
(
ふところ
)
にせり。時に通り懸かりたる夜稼ぎの車夫は、怪しむべき月下の密会を
一瞥
(
いちべつ
)
して
義血侠血
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
一瞥
(
いちべつ
)
しつ「篠田の奴、実に
怪
(
け
)
しからん
放蕩漢
(
はうたうもの
)
だ、
芸妓
(
げいしや
)
を
誘拐
(
かどわか
)
して妾にする如き
乱暴漢
(
ならずもの
)
が、
耶蘇
(
ヤソ
)
信者などと澄まして居たのだから驚くぢやないか」
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
ペテロが師を知らずと言ったとき、イエスは振り返って鋭き
一瞥
(
いちべつ
)
を彼に与え給うた(ルカ二二の六一)。これによってペテロは救われたのです。
イエス伝:マルコ伝による
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
惺々
(
せいせい
)
は惺々を愛し、好漢は好漢を知るというのは小説の
常套
(
じょうとう
)
文句だが、秀吉も
一瞥
(
いちべつ
)
の中の政宗を、くせ者ではあるが好い男だ、と思ったに疑無い。
蒲生氏郷
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
わたくしはしばらくその前を動かなかった。やがて迫って来る時間に気づいて、中尊の阿弥陀像に
一瞥
(
いちべつ
)
をくれたまま、急いでその室を立ち去った。
古寺巡礼
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
巡査は我々の通る横町の左側、交番の前に立って、茅町を根津の方へ走る人力車を見ていたが、我々には只無意味な
一瞥
(
いちべつ
)
を投じたに過ぎなかった。
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
赤彦君の顔面は今は純黄色に変じ、顔面に
縦横
(
じゆうわう
)
無数の
皺
(
しわ
)
が出来、
頬
(
ほほ
)
がこけ、
面長
(
おもなが
)
くて、
一瞥
(
いちべつ
)
沈痛の極度を示してゐた。
島木赤彦臨終記
(新字旧仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
大多数の男はあんな目で見られると、この上なく詩的な霊的な
一瞥
(
いちべつ
)
を受け取ったようにも思うのだろう。そんな事さえ
素早
(
すばや
)
く考えの中につけ加えた。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
扉を
邪慳
(
じゃけん
)
に締めるなら締めろ。そんなことは平気だ。窓ガラスを透して、
頬髯
(
ほほひげ
)
を
生
(
は
)
やした貴様の支配人
面
(
づら
)
が、唇をもぐもぐさせているのを
一瞥
(
いちべつ
)
する。
ぶどう畑のぶどう作り
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
まず女中が挨拶をするのに対して冷眼に
一瞥
(
いちべつ
)
をくれたままで、黙って返事をしなかった。そうしてしばらくしてから
漱石氏と私
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
今や吾人は現今わが邦の形勢を論ぜんとするに際し、吾人はまずこの父祖の社会に関し
一瞥
(
いちべつ
)
の労を取らざるべからず。
将来の日本:04 将来の日本
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
ビリング医師が
一瞥
(
いちべつ
)
して
施
(
ほどこ
)
すべき策のないことをブラドンに告げると、彼は医師に取り
縋
(
すが
)
って、何度も繰り返した。
浴槽の花嫁
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
Nは
暫
(
しばら
)
く趙を憎さげに見下していたが、私達の方に
一瞥
(
いちべつ
)
をくれると、そのままぐるりと後を向いて立去って了った。
虎狩
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
机の上には、大形の何やら横文字の洋書が、ひろげられていたのであるが、佐伯はそれには
一瞥
(
いちべつ
)
もくれなかった。
乞食学生
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
わかるかい? おれはじろりと相手を
一瞥
(
いちべつ
)
した。おまえはあの
女
(
ひと
)
を見たかい? 美人だろう。だがあの時の美しさはそんな風の美しさではなかったのだ。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
舞踊家も舞踊の研究者もいまだかつてこのわが国に特有な音楽的芸術としての連句に
一瞥
(
いちべつ
)
を与えようとしない。
連句雑俎
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
彼はその子供たちの寝姿を見てもなんの感情も起らないふうで、冷やかな
一瞥
(
いちべつ
)
を投げるとすぐに眼をそらした。
追いついた夢
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
平次の冷たい
一瞥
(
いちべつ
)
を喰うと、しばらく佐吉の身体は硬直したようでしたが、次の瞬間には身を
翻
(
ひるがえ
)
して奥へ——。
銭形平次捕物控:050 碁敵
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
けれどもその時、背後をふりかへつた娘の顔が、
一瞥
(
いちべつ
)
の瞬間にまで、ふしぎな電光写真のやうに印象された。
田舎の時計他十二篇
(新字旧仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
擂粉木
(
すりこぎ
)
と
擂鉢
(
すりばち
)
とを、
件
(
くだん
)
の日蓮宗派に属するお寺の坊さんが恭しく捧げて、祭壇の前へ安置した時、端坐していた道庵先生が、おもむろにそれに
一瞥
(
いちべつ
)
をくれて
大菩薩峠:29 年魚市の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
これは、我々が社会に
一瞥
(
いちべつ
)
を投ずれば、直ちに明らかに存在を認められる事実である。ところでこの事実のみが経済的産業生産の事実を生ぜしめるのである。
純粋経済学要論:01 上巻
(新字新仮名)
/
マリー・エスプリ・レオン・ワルラス
(著)
しかしここでは到底その全部を紹介することは出来ないから、極めて簡単な
一瞥
(
いちべつ
)
を与えてみることとする。
人口論:00 訳序/凡例/解説/序言/前書
(新字新仮名)
/
トマス・ロバート・マルサス
(著)
その丘の頂上にのぼりつめた時、わたしはクラリモンドの住む町に最後の
一瞥
(
いちべつ
)
を送るために見返りました。
世界怪談名作集:05 クラリモンド
(新字新仮名)
/
テオフィル・ゴーチェ
(著)
義経は、対面を終えた宗盛親子を受取ると、
一瞥
(
いちべつ
)
も与えられず、すごすごと都への道をたどるのであった。
現代語訳 平家物語:11 第十一巻
(新字新仮名)
/
作者不詳
(著)
“一瞥”の意味
《名詞》
一 瞥(いちべつ)
ちらりと見ること。
(出典:Wiktionary)
一
常用漢字
小1
部首:⼀
1画
瞥
漢検準1級
部首:⽬
17画
“一瞥”で始まる語句
一瞥驚倒