魂胆こんたん)” の例文
旧字:魂膽
今度こそこの鼻蔵人がうまく一番かついだ挙句あげく、さんざん笑い返してやろうと、こう云う魂胆こんたん悪戯いたずらにとりかかったのでございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
つはメントール侯の日常を知っている娘さんたちを味方につけて、翌日以後大いに利用しようという魂胆こんたんだったということである。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
計算計算といって長びいているのは、たんに仕事を長びかせるための渡瀬の魂胆こんたんではないかと邪推しだしたらしいのを渡瀬は感じた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私共は、いちいち七兵衛の魂胆こんたんしゃべってしまいたいと思いますが、こんなところでひょっとして人の耳に入っても大事はございませんか
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
反対の理由は、ざっと右の通りだ。尤も中に多少の魂胆こんたんもあろうが、大部分は本当に土に生き土に死ぬ自作農の土に対する愛着からである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
所由いわれを聞き「なるほど解りやした、当節かたりがはやるから、それで二重どりをさせねえ魂胆こんたん、よくしたものでごぜえやすねえ」
春久ガシャワーヲ浴ビニ来サセテクレト云ウノハ、タヾソレダケノコトデナク、何カ魂胆こんたんガアルノデハナイカ。或ハ颯子ノ入レ智慧カトモ思ウ。
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
後の禍いを除いてからを発し、協皇子を立てて御位を継がしめようという魂胆こんたんに密議は一決を見たようであります。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さてはこの母親の言ふに言はれぬ、世帯せたい魂胆こんたんもと知らぬ人の一旦いつたんまどへど現在の内輪うちわは娘がかたよりも立優たちまさりて、くらをも建つべき銀行貯金の有るやにそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
そんなことをして此方こつちをさん/″\おどかして置いて、お仕舞しまいに高い祈祷きとう料をせしめようとする魂胆こんたんに相違ないのだ。そのくらゐの事が判らないのかな。
、誰か手練の者に射させようという魂胆こんたんかも知れませんな。とにかく、扇は射た方がよろしゅうござりましょう
ともかく、一すん延しにしてその間にしかるべき応急手段をめぐらそうという魂胆こんたん。タヌは、四分の三身トロワ・キャアという仕立か外套に腕を通し運転用手袋クーリスパンをはきながら
……由良一座に代って若宮一座というものが出来る。……そうした魂胆こんたんの、そうしたむほんの企ての着々運ばれていることを聞いてさらに一層おどろいた。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
女房なぞは今ではすっかりタクトを心得込んで家賃を負けさせようとの魂胆こんたん物凄く、年中菊の話ばかり持ち出して「大家の小父おじさん」なぞと甘ったれていたが
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
おや今度もまた魂胆こんたんだ、なるほど実業家の勢力はえらいものだ、石炭の燃殻もえがらのような主人を逆上させるのも、苦悶くもんの結果主人の頭が蠅滑はえすべりの難所となるのも
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お前さんが、あの人を堕落させて、そのうえ、罪でも犯させてわらってやろうという魂胆こんたんは、そりゃおとっつぁんのことを考えりゃ、けっして無理とはいわないよ。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それに反して多四郎は、この素的すてきもない黄金を自分一人でせしめたいものだと魂胆こんたんを巡らしているのであった。多四郎は四方を見廻したがグイと懐中ふところへ手を入れた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ソコデ母子のあいだと云うものはちゃんと魂胆こんたんが出来て仕舞しまって、ソレカラいよいよ出ようと云うことになる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「そのうちお糸さんにおごらせる魂胆こんたんなんだろ。日新亭のハヤシライスが食べたいってよく泣いたのは誰だっけね。」私は子供の頃、ハヤシライス位うまいものは知らなかった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
どう、魂胆こんたんしたか、闇太郎、その夜はそのまま、浅草田圃たんぼの仕事場にもどって行くのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
西洋人でない事はきまって居るけれどもどういう魂胆こんたんがあって来て居るか訳が分りゃあしない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
小坂家の玄関に於いてっと羽織を着換え、こん足袋をすらりと脱ぎ捨て白足袋をきちんといて水際立みずぎわだったお使者振りを示そうという魂胆こんたんであったが、これは完全に失敗した。
佳日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
右京を窮地きゅうちおとしいれた上、吉弥を亡きものにして、京之助に家督を継がせる魂胆こんたんをめぐらし、着々それを、実行していた事を平次に証明されて、今さら驚きあきれるばかりでした。
とすると、この一見馬鹿馬鹿しく見える出来事には、何か深い魂胆こんたんがなければなりません
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人殺しの嫌疑を誰かに掛けると云う魂胆こんたんでは有るまいか、若し其の魂胆とすれば、秀子を憎む者の所為に違いない、前後の事情が自然と秀子へ疑いの掛かる様になって居るから。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「何と? 長庵が参った。きゃつまた、何ぞ悪だくみをしおって、このわしに、一泡ふかせようの魂胆こんたんでがなあろう。ウフフ、誰がその手に乗るものか。ドレ、ひとつ見てやれ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
忠太郎と名乗って出て、お登世へ譲る水熊の身代しんだいに眼をつけて、半分貰う魂胆こんたんなんだ。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
あまりのことに私はびっくりしてしまいました。今迄の大平さんの親切はこうした魂胆こんたんから出て居たのかと思うと、奈落の底へつき落されたような、言いようのない悲しさが胸に迫りました。
好色破邪顕正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
なる程お玉という娘の父親は竜神松五郎という海賊かも知れませんが、そんな奴には種々いろいろ魂胆こんたんがありまして、人の知らねえ機関からくりも御座いますから、再調さいしらべの役目を私奴わたくしめにお云附いいつけ下せえまし
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
既に先年合祀ごうしを強行して、いわゆる基本財産の多寡を標準とし、賄贈わいぞう請託を魂胆こんたんとし、邦家発達の次第をかんがうるに大必要なる古社を滅却し、一夜造りの淫祠を昇格し、その余弊今に除かれず
それには何かいやしい魂胆こんたんがあるのではないかと思った。で、是が非でも学校に引きかえしたいという気でいた。しかし、また一方では、皮肉とも好奇心ともつかぬ一種の感情がうごいていた。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
安江に金でもあれば出資させようという魂胆こんたんだったらしい。その前はまだ戦争中で、甘いもののない時代に、ブドウ糖と称する黄色い菓子をもってきた。それは食べると口の中が黒くなった。——
雑居家族 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
藤田嗣治はオカッパ頭で先ず人目をくことによってパリ人士じんしの注目をあつめる方策を用いたというが、その魂胆こんたんによって芸術が毒されるものでない限りは、かかる魂胆は軽蔑さるべき理由はない。
魂胆こんたんの在る所です、其れ程に仕組まねば我が同志を欺くことは出来ないのだ、現に見給へ、既に除名とまつて居る教会の親睦会しんぼくくわいへ、かも山木の別荘で開いた親睦会へ出席したのは何故なぜであるか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
口から出まかせにしゃべくってこっちをおどしあげ、お布施でもたんまりせしめようという魂胆こんたんでしょうが、それにしては、すこしやり方があくどすぎるようです。
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その辺の魂胆こんたんはまだ貴様にはわかるまい、わかってもらう必要もないのだが、貴様の今に始めぬ色師自慢から思いついたのは、酒井左衛門尉の御寵愛ごちょうあいこうむった尤物ゆうぶつ
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その考えごとにとらわれるには、お粂の胸の中だけに、かなり深刻な魂胆こんたんりされています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども先生には、どのような深い魂胆こんたんがあるのか、わかったものでない。油断がならぬ。
不審庵 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「だって、才覚が出来る前にはそれぞれ魂胆こんたんもあれば工面くめんもあるじゃありませんか」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
糸の先につり針がついて、そいつがどこからか伸びて来て、右近の結髪かみに掛り、グウッと上へ持ち上げようとしている……まさに何者かが、喧嘩師茨右近先生を釣り上げようという魂胆こんたん
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こいつを使って堕胎だたいをやらせようというのが、柿丘秋郎の魂胆こんたんだった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それには何か魂胆こんたんがあるらしいことは、庄造もうす/\気が付いてゐながら、甲子園の野球だの、海水浴だの、阪神パークだのと、福子に誘はれるまゝに、何処へでもふら/\と喰つ着いて行つて
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
優婆塞優婆夷の合唱にかくれて、ひそかに始末する魂胆こんたんであった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そこを、僕らが渡ろうという魂胆こんたん
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
我々はまたそこにつけ込んで酒井をらそうとしている、その辺の魂胆こんたんはまだ貴様にはわかるまい、わかって貰う必要もないのだが、貴様の今に始めぬ色師自慢から思いついたのは
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「兄さんはその底に何か魂胆こんたんがあるかと思って、疑っていらっしゃるんですよ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「今の脅し文句も、じつは、あのお方にお聞かせ申そうの魂胆こんたんだったのさ。」
この押入れの前に呆然ぼうぜんたちつくして居るか、穴あればはいりたき実感いまより一そう強烈の事態にたちいたらば、のこのこ押入れにはいろう魂胆こんたん、そんなばかげた、いや、いや、それもある
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
それには何か魂胆こんたんがあるらしいことは、庄造もうす/\気が付いてゐながら、甲子園の野球だの、海水浴だの、阪神パークだのと、福子に誘はれるまゝに、何処へでもふら/\と喰つ着いて行つて
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
厳に、局外中立を標榜ひょうぼうしている彼が、これはいったい何の魂胆こんたんか。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)