高坏たかつき)” の例文
八五薄酒うすきさけ一杯ひとつぎすすめ奉らんとて、八六高坏たかつき平坏ひらつきの清らなるに、海の物山の物りならべて、八七瓶子へいじ土器かわらけささげて、まろや酌まゐる。
紋綸子もんりんずの大座布団を敷き、銀糸の五つ紋の羽織りに上田織りの裏付けの袴をはいた殿さまが、天目茶碗と高坏たかつきを据え、り身になって
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
其処へ何も知らない乳母は、年の若い女房たちと、銚子てうし高坏たかつきを運んで来た。古い池に枝垂しだれた桜も、つぼみを持つた事を話しながら。……
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
信長はまた健啖けんたんだった。茶室でも一通り満腹したろうに、広間へ移ってからも、彼の前に供えられる木皿きざら高坏たかつきはみなからになってゆく。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しばらく休息の時を与えるため、接待役の僧が一室に案内し、黒い裙子くんしを着けた子坊主こぼうず高坏たかつきで茶菓なぞを運んで行って一行をもてなした。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たとへばつきといふひらたいおわんのようなもの、それにふたのついたもの、またそのつきたかだいのついた高坏たかつきといふようなものなどたくさんありますが
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
特にわんだとか木皿だとか高坏たかつきだとか、または蓋物や印籠いんろうの如きものなど、全く見分けのつかないものさえあります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
御利益ごりやくを持ちまして日本にっぽんへお帰しを願います…おや旦那彼処あすこ高坏たかつきのような物の上に今坂だか何だか乗って居ります、なんでも宜しいお供物くもつを頂かして
神饌所では俯伏うつぶせにした黒塗りの高坏たかつきに雪洞の光と自分の顏とが映つたが、道臣は恐ろしいやうに思つて、映つた自分の顏を正視することが出來なかつた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
父宮へも浅香木の折敷おしき高坏たかつきなどに料理、ふずく(麺類めんるい)などが奉られたのである。女房たちは重詰めの料理のほかに、かご入りの菓子三十が添えて出された。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
壁の一側に楉机しもとづくえを置き、皿や高坏たかつきに、果ものや、乾肉がくさぐさに盛れてある。一甕の酒も備えてある。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
さあ菓子も挟んではやらぬから勝手に摘んで呉れ、と高坏たかつき推遣りて自らも天目取り上げ喉を湿うるほしたまひ、面白い話といふも桑門よすてびとの老僧等には左様沢山無いものながら
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「鈍太郎」「ひつつき烏帽子」「高坏たかつき」なんかの新しい狂言風のものは厭でした。尤も狂言風のものでも、「棒しばり」「身替座禅」なんかは面白く、好きな踊りの方でせう。”
七代目坂東三津五郎 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
寝床へ置いても泣出すのでひざの上で寝かせ、高坏たかつきを灯台として膝の前にともし、自分は背中を衝立ついたて障子にもたせかけて、百日の間は乳母うばにも預けずに世話をしたなどとあるのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
盃も一般のとは変っていて、高坏たかつきに似て、足のついた、かなり大きなものである。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、その時襖が開いて、前髪立ちの美貌の男が、高坏たかつきを捧げてはいって来た。熊太郎の前へ恭しく坐り、高坏を置いて座を辷ったが、どうやらその時片頬を歪めて、ニヤリと笑った様子であった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
茝庭は抽斎の最も親しい友の一人ひとりで、二家にかの往来は頻繁ひんぱんであった。しかし当時法印の位ははなはとうといもので、茝庭が渋江の家に来ると、茶は台のありふたのある茶碗にぎ、菓子は高坏たかつきに盛って出した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
浮べて世にもくすしき高坏たかつきこそ
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
作られて行く硝子の高坏たかつき
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しかも、そのまん中に、花も葉もひからびた、合歓ねむを一枝立てたのは、おおかた高坏たかつきへ添える色紙しきしの、心葉こころばをまねたものであろう。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして、彼が腰を立てるのと、良正が、そこらの高坏たかつき銚子ちょうしを踏んづけて、仰向けに、ひっくり返ったのと、一しょであった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、漁師が大きな魚をもってきたのをよろこんで、高坏たかつきに盛った桃を与え、そのうえさかずきを与えて十分おのませになった。
さあ菓子もはさんではやらぬから勝手につまんでくれ、と高坏たかつき推しやりてみずからも天目取り上げのど湿うるおしたまい、面白い話というも桑門よすてびと老僧わしらにはそうたくさんないものながら
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
御前へ女二にょにみやのほうから粉熟ふずくが奉られた。じんの木の折敷おしきが四つ、紫檀したん高坏たかつき、藤色の村濃むらご打敷うちしきには同じ花の折り枝が刺繍ぬいで出してあった。銀の陽器ようき瑠璃るりさかずき瓶子へいし紺瑠璃こんるりであった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
高坏たかつき、茶碗、皿、壺、鉢など見たいと思ったものがえんにずらりとならぶ。その現物と一々照し合せ、画を描いて寸法を定め注文にとりかかる。天目てんもく白磁はくじとの両方である。凡てで幾百個になったのか。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
満座はとたんに、爆笑となって、高坏たかつきが仆れるやら、その隙に、目ざす妓を抱えるやら、そろそろ、無礼講らしい。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でございますから、或時は机の上に髑髏されかうべがのつてゐたり、或時は又、しろがねの椀や蒔繪の高坏たかつきが並んでゐたり、その時描いてゐる畫次第で、隨分思ひもよらない物が出て居りました。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「わけあって人手のない家となってしまいましたので、ゆき届いたおもてなしをすることもできません。わずかに粗酒一献いっこんさしあげるだけでございます」といって、高坏たかつき平坏ひらつきの美しいうつわ
と、おりんが立って高坏たかつきを運ぶと、末席ばっせきにいた次郎も、ちょこちょこと銚子を持って神楽師たちの前にかしこまり
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でございますから、或時は机の上に髑髏されかうべがのつてゐたり、或時は又、しろがねの椀や蒔絵の高坏たかつきが並んでゐたり、その時描いてゐる画次第で、随分思ひもよらない物が出て居りました。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
吉光の前は、高坏たかつきや、膳のものを用意させて、自分も十八公麿まつまろを抱いて、まどかな月見の席につらなっている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
覚束おぼつかない行燈の光の中に、象牙のしやくをかまへた男雛をびなを、冠の瓔珞やうらくを垂れた女雛めびなを、右近のたちばなを、左近の桜を、の長い日傘をかついだ仕丁しちやうを、眼八分に高坏たかつきを捧げた官女を、小さい蒔絵まきゑの鏡台や箪笥を
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たくさんなしょくのあいだを美しい人々が高坏たかつきやら膳やら配ってまわる。みな一門の人々であろう、範宴と僧正とを中心にして十人以上の人々がいながれている。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家の中には、下衆女げすおんな阿濃あこぎのほかに、たれもいない。やがて、しとみをおろす。結び燈台へ火をつける。そうして、あの何畳かの畳の上に、折敷おしき高坏たかつきを、所狭く置きならべて、二人ぎりの小酒盛こざかもりをする。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
膝のまえに、菓子の高坏たかつきがおいてあるが、手もふれてない。盃に酒がついであるが、飲みほしてもない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
古風な高坏たかつきに、とろりとねばるような手造りの地酒。さかなは、めいめいの前の木皿へ取り分けられてある。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、この同年輩の若者も、客間につくと、ほどよく客振りを保って、やがて運ばれてくる折敷おりしきさかな高坏たかつき銚子ちょうしなどを前にしても、酔うまでは、なかなか遠慮めいた風趣ふうしゅも示す。
光広はべつの大きな杯を高坏たかつきへ乗せて、ふたりの間へ置き
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)