雨露うろ)” の例文
そのあたりを打見ますと、樵夫きこりの小屋か但しは僧侶が坐禅でもいたしたのか、家の形をなして、ようや雨露うろしのぐぐらいの小屋があります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
尋ね出してをつと道十郎殿の惡名をすゝがせん者をと夫より心を定め赤坂あかさか傳馬町でんまちやうへと引取られ同町にておもてながらもいとせま孫店まごだな借受かりうけ爰に雨露うろ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それは丸太まるたんで出来できた、やっと雨露うろしのぐだけの、きわめてざっとした破屋あばらやで、ひろさはたたみならば二十じょうけるくらいでございましょう。
家屋の目的は雨露うろしのぐので、人をふせぐのでないと云ふのが先生の哲学だ、戸締なき家と云ふことが、先生の共産主義の立派な証拠ぢやないか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「なにさま……」と、尊氏は雨露うろや泥にまみれた無数の旗を見まわして「——浮きつ沈みつの、流転るてんそのまま、波間の泡ツブでも見るようだわえ」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にや輪王りんのうくらゐたかけれども七寶しつぱうつひに身に添はず、雨露うろを凌がぬのきの下にも圓頓ゑんどんの花は匂ふべく、眞如しんによの月は照らすべし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
おしい事に、雨露うろ霜雪そうせつさらされ、むしばみもあり、その額の裏に、彩色した一叢ひとむらの野菊の絵がほのかに見えて、その一本ひともとの根に(きく)という仮名かながあります。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、どうせ、それは、蜘蛛くもの巣だらけでは有ったろうけれど、兎も角も雨露うろしのぐに足る椽の下のこもの上で、うまくはなくとも朝夕二度の汁掛け飯に事欠かず、まず無事にのんびりと育った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
乘組のりくみ人員じんゐんは、五人ごにん定員てんゐんで、車内しやないには機械室きかいしつほかに、二個にこ區劃くくわくまうけられ、一方いつぽう雨露うろしのぐがめにあつ玻璃板はりばんもつ奇麗きれいおほはれ、床上しやうじやうには絨壇じゆうたんくもよし、毛布ケツトーぐらいでますもよし
雨露うろをさえしのがせていただけば……」
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
上 種子たね一粒いちりゅう雨露うろに養わる
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
きのうまでは、甲山こうざんの軍神といわれた、信玄しんげんの孫伊那丸も、いまは雨露うろによごれた小袖こそでの着がえもなかった。足はいばらにさかれて、みじめに血がにじんでいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗吉は学資もなしに、無鉄砲に国を出て、行処ゆきどころのなさに、その頃、ある一団の、取留めのない不体裁なその日ぐらしの人たちの世話になって、辛うじて雨露うろしのいでいた。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何か知らんとすかして見れば、樵夫きこりが立てましたか、たゞしは旅僧たびそう勤行ごんぎょうでもせし処か、家と云えば家、ほんの雨露うろしのぐだけの小屋があります。文治は立止って表から大声に
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その日から食には飢え、野伏のぶせりや敵の斥候におびやかされ、暮れては雨露うろのしのぎにも困り、明けては血にそんだ白い足をたがいに励まし励まし逃げるのであった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨露うろに朽ちて、卒堵婆そとばは絶えてあらざれど、傾きたるまま苔蒸こけむすままに、共有地の墓いまなお残りて、松の蔭の処々に数多く、春夏冬は人もこそわね、盂蘭盆うらぼんにはさすがにもうで来る縁者もあるを
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし短檠たんけいの光に照らされたその風貌ふうぼうをみるに、色こそ雨露うろにさらされて下人げにんのごとく日にやけているが、双眸そうぼうらんとして人をるの光があり、眉色びしょくうるしのごとく
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なかちかけた額堂の欄間らんまには、琵琶びわを抱いた蝉丸の像や、関寺小町せきでらこまちの彩画や、八けい鳥瞰ちょうかん大額おおがくなどが、胡粉ごふん雨露うろの気をただよわせ、ほこり蜘蛛くもの巣のうちにかけられてあった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その夜の泊りも、ひどい山宿やまやどだった。雨露うろをしのぐだけの掛屋根、むしろがあるだけの猪小屋ししごや
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宋朝そうちょう初期のころには、紫雲しうん薫香くんこう精舎しょうじゃの鐘、とまれまだ人界の礼拝らいはいの上にかがやいていた名刹めいさつ瓦罐寺がかんじも、雨露うろ百余年、いまは政廟せいびょうのみだれとともに法灯ほうとうもまた到るところほろびんとするものか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ここだな」仙洞御所せんとうのごしょの前に立って、弁円は杖をとめた。御門垣から少し離れた所には、例の松虫、鈴虫の詮議せんぎに関する厳達が高く掲示されてあり、その板も、もう雨露うろに墨がながれていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてふたたび、東京とうけいさしての旅また旅をかさねてゆくうち、はからずも、ここ瓦罐寺がかんじと呼ぶ奇峭きしょう怪峰かいほうの荒れ寺に、一夜の雨露うろしのがんと立ち寄って、彼は、世にあるまじき人間のすがたを見た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして枯林こりんの廃寺に一時雨露うろしのいでいたわけだ、と話す。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)