附纏つきまと)” の例文
(前略)不運は何故なぜかくまで執拗しつえうに余に附纏つきまとふことに候や。今春は複々また/\損失、××銀行破産の為め少しばかりの預金をおぢやんに致し候。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
過ぐる月日の間、自分に附纏つきまとう暗い影は一日も自分から離れることが無かったが、今はその暗い影も離れたと書いてよこした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの時、元気で私達の側に姿を見せていた人達も、その後敗血症でたおれてゆくし、何かまだ、惨として割りきれない不安が附纏つきまとうのであった。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
対手あいてういう覚悟で居ようとは、重太郎は夢にも知らぬ。彼は母に甘える小児しょうにのような態度で、あくまでもお葉に附纏つきまとった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あなたと一緒に来た高野弥兵衛というのに附纏つきまとわれ困っているが、あれはよくない男だというような物語がある。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
少くとも多くの人は貧乏が大嫌いで、その嫌いなものが生憎附纏つきまとって来るので困苦しているのだから、貧即不幸なんぞという妄信ぐらいは除却するようにしたいものだ。
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この作者はいつもこんな奇体な小説ばかり書く。読んで行くうちに、夢の中で正体の分らないもののために脅されているような気持がどうしても附纏つきまとってくるのである。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
伊豆の三宅島みやけじまなどには山に住む馬の神がみいったという話もあって、過度に素朴なる口碑は諸国に多く、そうでなければ不思議な因縁がその女の生まれた時から附纏つきまと
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
人生には悽惨せいさんの気が浸透している。春花、秋月、山あり、水あり、あか、紫と綺羅きらやかに複雑に目もあやに飾り立てているけれど、するところ沈痛悲哀の調べが附纏つきまとうて離れぬ。
美しいゆゑに余計に醜い娘達の異形いぎょうが、追々宗右衛門の不思議な苦難の妄執となつて附纏つきまとつた。
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
……その後、時を定めず、場所をえらばず、ともするとその二人の姿を見た事があるのです。何となく、これは前世から、私に附纏つきまとっている、女体じょたいの星のように思われます。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
グヰンの方が余計にリケットを愛していつも附纏つきまとっていたので、近頃は甥も少しく鼻についていたらしかったのです。前の晩、私共は看護疲労づかれで夜中の一時過ぎにやすみました。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
それから後にも家族連れの海水浴にはとかく色々の災難が附纏つきまとったような気がする。
海水浴 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
矢張やはりをとここひしく、其学生そのがくせい田舎ゐなかから細君さいくんれてるまで附纏つきまとつたとふだけの、事実談じじつだんぎぬのであるが、ふみ脊負揚しよいあげ仕舞しまつていた一が、なんとなくわたし記憶きおくのこつてゐる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
貴方の御迷惑もかまはずにやつぱりかうして附纏つきまとつてゐるのは、自分の口から箇様かような事を申すのも、はなは可笑をかしいので御座いますけれど、私、実に貴方の事は片時でも忘れは致しませんのです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その白蛇の様な肌を、何かの用で工場へ来合きあわせた吉蔵が一目見て、四十男の恋の激しさ、お由に附纏つきまとう多くの若い男を見事撃退して、間も無く妾とも女房とも附かぬものにしてしまったのである。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
秋の暮には由来伝統的な観念が附纏つきまとっている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
人知れず犯人に附纏つきまとって来るものなのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
長いこと附纏つきまとわれた暗い秘密を捨てようとする心は、未だそれを捨てもしてない前から、既にもうこうした翹望ぎょうぼうを起させた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その清冽なものは、彼がそれから二日後、骨壺を抱えて郷里の墓地の前に立ったときも、附纏つきまとってくるようだった。
死のなかの風景 (新字新仮名) / 原民喜(著)
つかみ得たかと思うと、さらりと抜けられる。求めんともせざるかような女のためには、それからそれと附纏つきまとわれる。女の方でも必ずしも附纏う気はないのだ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
市郎が冬子の兄忠一と連立つれだって、の柳屋に遊んだのは、今から三四ヶ月前のことで、それもただ一度、別に深い馴染なじみというでもないのに、其後そのごはお葉がかく附纏つきまとって
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
近所の蒔田まきたという電気器具商の主人が来て修繕した。彼女はその修繕するところに附纏つきまとって、珍らしそうに見ているうちに、彼女にいくらかの電気の知識がり入れられた。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
色情狂いろきちがいで、おまけに狐憑きつねつきと来ていら。毎日のように、差配のうちの前をうろついて附纏つきまとうんだ。昨日もね、門口の段に腰を掛けている処を、おおきな旦那が襟首を持って引摺ひきずり出した。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしその根本には甘味偏重の幼稚なる感じの如き財利偏重、貧乏大嫌いの幼稚なる考が強迫観念の如く附纏つきまとうている。真の幸福というものはそんなところから獲得されるものでは無い。
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
すると其処そこにはA夫人の他に従兄いとこのリケットがいた。彼は常々A嬢に取入ろうとして執拗に附纏つきまとっている。A老人は予々リケットの不良性を持っている事を知って、家には出入を禁じてあった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
しかし何かこう食足りないような外来の旅客としての歯痒はがゆさは土地の人に交れば交るほど岸本の心に附纏つきまとった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
切符売場の、テント張りの屋根は石塊いしくれで留めてある。あちこちにボロボロの服装をした男女がうずくまっていたが、どの人間のまわりにもはえがうるさく附纏つきまとっていた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
男と女と二人で微酔機嫌ほろよいきげんで店を出かけたうちの男の方が、東海道下りから甲州入りまで附纏つきまとって来たがんりきの百蔵に相違ないから、お絹は自分のかおを隠そうとしました。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
近所の蒔田まきたという電気器具商の主人が来て修繕した。彼女はその修繕するところに附纏つきまとって、珍らしそうに見ているうちに、彼女にいくらかの電気の知識がり入れられた。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
が、蛇の申子もうしごと噂された程のお杉の執念は、あくまでも夫に附纏つきまとうて離れなかった。彼は幾度いくたびかお杉を置去おきざりにして逃げようと企てたが、何日いつも不思議にの隠れ家を見付みつけ出された。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
貧を嫌がり、その嫌がるところの貧に附纏つきまとわれ勝なところから、貧即不幸と感ずるのもこの理によるのである。が、貧と不幸とは必ずしも徹頭徹尾取離すことの出来ぬ関係にあるものでは無い。
貧富幸不幸 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
吾儕われわれには死んだ阿爺おやじ附纏つきまとっているような気がする……何処へ行って、何をても、きっと阿爺が出て来るような気がする……森彦さん、貴方はそんなこと思いませんかネ
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やはりおせきに附纏つきまとつてゐるやうに、かれの影を踏みながらおどり狂つてゐるので、要次郎も癇癪かんしやくをおこして、足もとの小石を拾つて二三度たたきつけると、二匹の犬は悲鳴をあげて逃げ去つた。
彼は背後に、附纏つきまとう書斎からの視線をのがれるように急いで中学の門へ這入って行く。そうして、その小さな門をくぐった瞬間から、ともかくあの書斎からつき纏って来たものと別れることが出来た。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
あるとき千羽鶴の模様のある女生徒の着物を見て、得意そうに「この鶴、千ワせんわアリヤス」と言ったという逸話いつわが、この子にいつまでも附纏つきまとって、級友たちは「千ワ、千ワ」といって揶揄からかっていました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
授業の始まるまで、丑松は最後の監督を為る積りで、あちこち/\と廻つて歩くと、彼処あそこでも瀬川先生、此処こゝでも瀬川先生——まあ、生徒の附纏つきまとふのは可愛らしいもので
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お雪が三吉のもとへ嫁いて来るについては種々いろいろな物が一緒に附纏つきまとって来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)