道化どうけ)” の例文
それは、いつも人をびあつめるこっけいな道化どうけたあいさつとは、まるっきりちがった調子ちょうしでした。見物人けんぶつにんたちはへんな気がしました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
しかし師直は辛抱づよく彼のさかなになりながらも、折々、道化どうけにことよせては、辛辣しんらつに相手を揶揄やゆの手玉に取り、しかも決して怒らせない。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてはいつも失望して出て来た。りきれた襦袢じゅばんをつけてる古い道化どうけ役者を見るために、金と時間とを費やしたことが多少恥ずかしかった。
巧みな道化どうけ役者にも似合わない、豆蔵の緑さんは、十八の娘の様に、併し不気味な嬌羞きょうしゅうを示して、そこの柱につかまったまま動こうともしない。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その女掏摸すりと並びながら、手代てだいふうの若い男が行く。相棒であることはいうまでもない。どこか道化どうけた顔つきである。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
多少の道化どうけたるうちに一点の温情を認め得ぬものは親の心を知らぬもので、また写生文家を解し得ぬものであろう。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
飴売あめうり土平どへい道化どうけ身振みぶりに、われをわすれて見入みいっていた人達ひとたちは、っていたような「おせんがた」というこえくと、一せいくびひがしけた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ところで、此時私が、自分と云うものをハッキリ意識していたらば、ワザワザ私は道化どうけ役者になりやしない。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
いつから、手を通していたのであろうか、首のところで、ボタンをとめて、私は父の道化どうけた憲兵の服を着ていた。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
この道化どうけた医師は、口中医某というのであるが、それから後、将軍は口中医の伺候を首長くして待った。そして、彼がくると何事を措いても七面鳥を庭へ呼び
『七面鳥』と『忘れ褌』 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
道化どうけ芝居はたくさんです」と、Kはきわだって低い声でいい、ごろりと横になり、ふとんをかぶった。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
それは彼らが散文的だからでは決してない。反対に彼らは、荘重な幻影を道化どうけた幻と変えるまでである。
しかしいちばんおもしろかったのはダアク一座のあやつり人形である。その中でもまたおもしろかったのは道化どうけた西洋の無頼漢が二人、化けもの屋敷に泊まる場面である。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たゞ何とのう四方山よもやまの世間話をいたしましたり、又は諸国の昔話、浄瑠璃、草紙の類などを面白おかしゅうこしらえて、道化どうけた身ぶり手真似などを加えて申し上げますと
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
カルーソーは少し歌い過ぎるけれども、「いや道化どうけはもう真平まっぴらだ」などの悲壮味は比類もない。
落葉散りしき、尾花おばなむらいたる中に、道化どうけの面、おかめ、般若はんにゃなど、ならび、立添たちそい、意味なき身ぶりをしたるをとどむ。おのおのその面をはずす、年は三十より四十ばかり。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弥次郎は中村鶴蔵で、喜多八が中村伝五郎であったが、どちらも現在の俳優のうちにはちょっとその類型を見出だしにくい芸風の人々で、取り分けて鶴蔵は先天的の道化どうけ役者であった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
硝子窓につぶされ、へこんだ鼻をしているその顔がまるで、泣きだしそうな羞恥しゅうちゆがんでおり、それをえて、友達と笑い合っては、道化どうけ人形をおどらせ、あなたは、こちらの注意をこうとしていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
広告ひろめ道化どうけうち青みつつ火事場へいそぐごときあり。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
……さあれ、今となって、三介どのを責めたてても、それは、われらの名分を、みずから道化どうけたものにするだけのものに終ろう。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子馬の声に音を合わせる娯楽場の音楽、退屈してる金持の馬鹿ばか者どもをいや頓狂とんきょう声で喜ばせるいやしいイタリー道化どうけ役者、または、商店の陳列品の低劣さ
赤と白のだんだらぞめのとんがりぼうしに、おなじ道化どうけ服をきて、顔をまっ白にぬり、ほおに赤いまるをかいた男が、しわがれ声で映画の説明をしています。
魔法博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかし保吉の心の中には道化どうけの服を着たラスコルニコフが一人、七八年たった今日こんにちもぬかるみの往来へひざまずいたまま、ひらに諸君の高免こうめんを請いたいと思っているのである。………
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
じぶんでかんがえ出しました道化どうけたまいでござりまして、「糸よりほそい腰をしむれば」と、所作しょさをしておめにかけますと、たいていのかたは腹をかゝえてわらわれますので
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「なんのなんの」とそれを聞くと、金兵衛は手を振って払うようにしたが、「そんなたいした道草の種なら、済みませんなんて謝罪あやまりはしません。ただ道化どうけ者に逢っただけで」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ガラッ八は頬を吹く春の風を胸いっぱいに吸いながら、少し道化どうけた調子でこう言いました。
よくしゃべる道化どうけの舌に感服して、ほかに目的があって見物にまじっていた千束の稲吉も、思わず、にが笑いを噛んでいました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それらのかわいらしい顔つきのうちには、人から見られてると知ってる時ほとんどだれでもしずにはいられないような、無邪気な道化どうけた様子が交っていた。
鏡の前で、まるでサーカスの道化どうけ役者ででもあるように、顔にベタベタ白粉を塗りつける心持、あれは実際、一種異様の不思議な魅力を持っているものです。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「さあさあおのおの道化どうけなど云って、鳰鳥様に顔のひもを解かせ、殿の御感に預かれ預かれ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
膝っ小僧がハミ出して、道化どうけたうちにも、妙に打ちしおれた姿が物の哀れを覚えさせます。
春琴の繊手せんしゅ佶屈きっくつした老梅の幹をしきりにで廻す様子を見るや「ああ梅のうらやましい」と一幇間が奇声きせいを発したすると今一人の幇間が春琴の前に立ちふさがり「わたい梅の樹だっせ」と道化どうけ恰好かっこう
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、自分の道化どうけに浮かれて、いよいよ調子づいてきた宅助、ひとりでしゃべりまくしながら、あなたこなた、見ているうちに、どうしたのか
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてエルンストとロドルフとが、真面目まじめくさった道化どうけた様子で、「わが親愛なる魂よ、」と呼び合ってるところを、詰問してみたが、何にも聞き出しえなかった。
危ういところで向う岸へ這い上がって、しばらく道化どうけた顔をして見せます。
ホラ来々軒らいらいけんっていう支那料理があるでしょう。あすこの角の所に、まだ人通りも少い朝っぱらから、真赤まっかなとんがり帽に道化どうけ服の、よく太った広告ビラ配りが、ヒョコンと立っていたのです。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
でも無理に、五日市や八王子で、変梃へんてこなお道化どうけを三、四日売ってみましたが、予期どおりな悪評で、さんざんなていたらく。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのふしは感傷的なかつ道化どうけた気分のもので、あたかも哄笑こうしょうで句読づけられたかのようなごつごつした律動リズムをもっていた。その強烈な滑稽味にはとても抵抗できなかった。
調子は道化どうけておりますが、顔に漂う一抹いちまつの哀愁は覆うべくもありません。
初めから武蔵の引立役に道化どうけとして引出された以上、好い役割はなかろうと思っていたが、あれはひどすぎる。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある者は口笛を吹き、ある者は皮肉な喝采かっさいをした。最も気のきいた連中は「も一度ビス」と叫んだ。一つの低音バスが舞台前の一ぐうから響いてきて、道化どうけた主題を真似まねしはじめた。
などと、一角がいうので自分までが、いつか周馬を皮相に見、かれの道化どうけの所作を信じたことが不覚だった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無能な道化どうけにすぎないし、みずから信ぜずして口先で唱える範例にすぎないのである。
山刀を抜いて、突如、一人が踊り出すと、また二人、また三人、浮かれ腰をあげて、道化どうけた舞をしはじめる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道化どうけは青年につきものである、彼らが微々たる人物であればあるほど。換言すれば人から閑却さるればさるるほど、なおさらそうである。ことに女性にたいしては、ひどく骨を折る。
と言って、あの道化どうけの次郎が居ないでは、カルタも喧嘩にならないし、投扇興とうせんきょうもさっぱり興味がのりません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その入口には、奇怪な道化どうけの広告が並んでいた。群集はますます立て込んできた。
「むりをいうなよ。知るはずがあるもんか。つらになべズミを塗って、赤帽子ってえ恰好かっこうから見ると、ははん、百丈村の村祭りにござッた旅芸人の道化どうけ役者か」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
楽器配列の妙想も諧謔かいぎゃく的な機知も、演奏の乱雑なために道化どうけたものとなった。たまらないほど愚劣なものであった。音楽を知らない痴漢道化者の作品だった。クリストフは髪の毛をかきむしった。
いや、ないどころか、孟優が起ち上がって、これを座中の蛮将たちへ、道化どうけまじりに披露した。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)