“蹌(よろ)” の例文
何ものかに、押し返されるように、彼は、たたたと、後へ戻った——いや蹌(よろ)めいた。そして、樹の蔭にかくれて、あらい息を、肩で
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
立ち上つた勝平は、フラ/\と蹌(よろ)めいてやつと踏み堪へた。彼はその凄じい眸を、真中に据ゑながら、瑠璃子の方へヂリ/\と迫つて来た。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
とドンと突きましたから、小三郎はヨロ/\と蹌(よろ)けて泥だらけの杖を彼(か)の伽羅という結構な身装(みなり)へ当て、泥を附けましたので
そして、ありっ丈(た)けの力をこめて相手の頭上に恐しい一撃を加えた。鈍い骨の砕ける様な音と共に闖入者は蹌(よろ)めくと、そのまま床に倒れてしまった。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
コラサッと、この時、笊(ざる)を前のめりに、ひょろひょろと、横っ飛びに蹌(よろ)けかかった黒んぼがある。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
暗い雲の垂(た)れ下った雨催(あまもよ)いの宵(よい)であった。片側町の寂しい広場を歩いていると、歩行(あるき)べたのお銀は、蹌(よろ)けそうになっては、わざとらしい声を立てて笹村の手に掴(つか)まった。
黴 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ところが、そうして何度か蹌(よろ)めくにつれて、長方形をした壁灯の残像が幾つとなく網膜の上に重なってゆくのだ。ねえ支倉君、ここまで云えば、これ以上を重ねる必要はあるまい。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
二、三間も蹌(よろ)めいたあげく、腰をついたが、起ち上がるが早いか、後ろを見せて駈け出した。その迅さはちょっと六部を狼狽させた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
立ち上った勝平は、フラ/\と蹌(よろ)めいてやっと踏み堪(こら)えた。彼はその凄(すさま)じい眸を、真中に据えながら、瑠璃子の方へジリ/\と迫って来た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
亥太郎が拳骨を固めて大伴を打ちました時、流石(さすが)の大伴蟠龍軒もひょろ/\として蹌(よろ)めきましたが、此方(こちら)も剣術の先生で、スーッと抜きました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
白衣の行者は、やおら滝壺を這い上がって、水を含んだ黒髪を絞って後ろへ束ね、袖から雫(しずく)を垂らしながら、男の側に蹌(よろ)めいて来た。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一角が蹌(よろ)けながら、四畳半の床の上に横になった様子でございますから、そっと中仕切(なかじきり)の襖(ふすま)を閉(た)って、台所の杉戸を締め
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そう云(い)いながら、再び猿臂(えんぴ)を延して、瑠璃子の柔かな、やさ肩を掴(つか)もうとしたが、軽捷(けいしょう)な彼女に、ひらりと身体を避けられると、酒に酔った足元は、ふら/\と二三歩蹌(よろ)めいて
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
わっ——と逃げる子供の群れに突かれて、桑畑の畔(くろ)に蹌(よろ)めいて、痛そうに眼をうるませていた若い女が、ふと、足軽達の眼にとまった。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と担いで見ましたが、多助は肩に力がありませんから蹌(よろ)めきながら担ぎ出す。圓次は馬を引きながら、シャン/\/\/\/\と庚申塚へ掛って来る。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
再び猿臂(ゑんぴ)を延して、瑠璃子の柔かな、やさ肩を掴まうとしたが、軽捷な彼女に、ひらりと身体を避けられると、酒に酔つた足元は、ふら/\と二三歩蹌(よろ)めいて、のめりさうになつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
なにか、いいかけたと思うと、彼の引っ張っていた杖の先を離して、沢の石ころや草叢(くさむら)の中に、蹌(よろ)りと、音もなく俯(う)つ伏(ぶ)してしまった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と蹌(よろ)けながらぶらり/\行(ゆ)くのを、危いからお菊も後(あと)から雪洞を提げて外の方へ出ると花壇があります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と下ろした太刀は斜めに外(そ)れて、機を得た作左衛門の抜き撃ちは誤またずに、蹌(よろ)けた彼の腰車を、見事に摚(どう)と斬って伏せた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仲人(ちゅうにん)だと云うのに聞入れず私を打ちに掛ったから、まご/\すると打たれるから引外(ひっぱず)したら蹌(よろ)けたので
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
屋根の上の外記が、死を決して、雲霧へ、跳びかかろうとした瞬間に、その震動が、二人をぐらっと蹌(よろ)めかしたのである。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と無理に引摺(ひきず)り込んだから仕方なしにひょろ/\蹌(よろ)けながら上(あが)り口(ぐち)へ手を突くと、臀(しり)を持って押しますから、厭々上って来ると、柳田典藏は嬉しいが満ちてはっと赤くなり
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
犬千代が、槍を向け直した時、敵か味方か仰向けに、ぶっ仆(たお)れた者がある。その死骸につまずいて、犬千代も蹌(よろ)めいた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
通常の者なら蹌(よろ)けて倒れるところでございますが、小三郎は柔術も剣術も名人な人ゆえ力足(ちからあし)を踏止めて、懐中より一節切を抜出し、仙太郎の利腕をモロにグッと落しますと
と言っても、重蔵は例の跛行(びっこ)なので、ややもすると蹌(よろ)めくようになる。それを心なき往来の者は指差して笑っていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
話かわって飯島平左衞門は孝助を門外(もんそと)に出し、急ぎ血潮滴(した)たる槍を杖とし、蟹のように成ってよう/\に縁側に這い上がり、蹌(よろ)めく足を踏みしめ踏みしめ、段々と廊下を伝い
と、前の敵へ向けていた刀で、平八郎の腰を撲り、自分も、片足立ちに蹌(よろ)めいて、隅の板壁へ勢いよく体をぶつけた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
割合に肥(ふと)って居て頭が大きいから、駈けると蹌(よろ)けて転覆(ひっくりかえ)る事がありますが、一寸(ちょっと)見ると写し画(え)の口上云い見たいで、なんだか化物屋敷へ出る一ツ目小僧の茶給仕のようでありますが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
死骸がまだ蹌(よろ)めいているうちに、彼の剣は、もう次の何ものかを待っている。彼の髪は、鷲(わし)の逆毛(さかげ)のように立って、満山皆敵と観(み)るもののようであった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ナニー、安ヤイ下(おろ)せ、生意気なことを云うな、汝(てめえ)ッちは酒を喰(くら)ってヒョロ/\蹌(よろ)けて歩くから悪いんだ、其の瓢箪が百両百貫するもんか知らねえが、手前(てめえ)が打っ付けて置きゃアがッて何を
然し大地に立ってみると、大地が波のように揺れる気がして、物に掴(つか)まっていないと蹌(よろ)めくような眩(めま)いを覚えた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蹌(よろ)めく機(はず)みに又市が小鬢(こびん)をはすって頭(かしら)へ少し切込まれたが、又市は覚えの腕前返す刀に典藏が肱(ひじ)の辺(あたり)へ切込みますと、典藏は驚き、抜刀を持ちながらばら/\/\/\山から駈下(かけお)りました。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
猪牙舟に番(つる)んで従いて来た一艘(そう)の屋形船(やかた)がある。それがいきなり舳(みよし)をぶつけて来たかと思うと、猪牙舟の船頭はわざと、勢いよく数右衛門のそばに蹌(よろ)けて
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうも実に嬋娟窈窕(せんけんようちょう)たる美人だな、どうも盛んなる所美人ありと云うが、実にないな、彼(あ)のくらいな婦人は二人とは有るまい、どうもその蹌(よろ)けながら赤い顔をして行(ゆ)く有様はどうも耐(たま)らぬな
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蹌(よろ)めきながら又八は顔をかかえた。そして乳を離れてから今日まで見たことのない怖ろしい母の顔を彼は見た。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と受けましたが剛(ひど)い奴で、中指と無名指(くすりゆび)の間をすっと貫かれたが、其の掌で槍の柄を捕まえて、ぐッと全身の力で引きました。前次公は蹌(よろ)めいて前へ膝を突く処を、權六が血だらけの手で捕(おさ)え付け
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わら苞(づと)に巻いてある鉢だの皿だのは、くずれ落ちて粉々に砕けたし、日吉の体も、手車と一緒に蹌(よろ)めいた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と才槌を提(ひっさ)げて、蹌(よろ)めく足を蹈(ふ)みしめ、棚の側へ摺寄って行灯(あんどう)の蔭になるや否や、コツン/\と手疾(てばや)く二槌(ふたつち)ばかり当てると、忽ち釘締(くぎじめ)の留は放れて、遠州透はばら/″\になって四辺(あたり)へ飛散りました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし数歩にしてすぐ蹌(よろ)めいて仆れかけたのはぜひもない。脚も手も、節(ふし)のみ高い竹竿のような体である。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とひょろ/\蹌(よろ)けながら肩へ捉(つら)まる。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ダ、ダ、ダ、ダッ、と橋板を荒くふみ鳴らして、うしろへ蹌(よろ)けて行ったかと思うと、真鍮鐺(しんちゅうこじり)を抛(ほう)り飛ばして、腸(はらわた)をつかみ出すように引っこ抜いた刃渡りの鋭い匕首(あいくち)。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と蹌(よろ)ける途端に袂(たもと)や懐から瓜が出る。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
足もとの危ないのが危ないのへ絡(から)みつく。藤吉郎はその中に揉まれたまま、土間のうちへ蹌(よろ)めき込む。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひょろ/\と蹌(よろ)けました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ともすれば、信長の駒脚に、捨てられもせんと、近習の面々は、のめり蹌(よろ)めくばかり駈けた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あッ——蹌(よろ)めいてきた雲霧の首すじへ、二度目の十手が、その頸動脈を狙って走ったが、眼のわるい外記、手元が狂って針屋の雲霧に、かえってその腕くびを掴まれたと思うと
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
咄嗟(とっさ)、あぶなかったのは釘勘の頭蓋骨(ずがいこつ)でした。呼子笛(よびこ)を口から放した途端に、鬼神のごとく怒った日本左衛門が、身を蹌(よろ)めかせた反動を抜き打ちにかざした長船(おさふね)の大刀に乗せて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、五、六歩ほど、蹌(よろ)めきつつ歩き出したが、もう一度、典厩のほうを振返って
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾度か、瀬兵衛のすがたは、朱をあびて、蹌(よろ)めいたが、豹(ひょう)のごとく、躍ってはまた、敵を斃(たお)した。——というよりは、遂には、口をもって、敵の喉笛(のどぶえ)へ噛みつくような勢いだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次には、蹌(よろ)めいて、いきなりわが子の体へ、縋(すが)りついた。水を与え、名を呼んで、老母がその体を揺り動かすと、権之助は息をふき返した。——そして茫然と坐っている武蔵を見ると
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)