蹂躪じゅうりん)” の例文
彼が主力をひっげてこれへ来るまでの間に、柴田勢が放火したり、田畑や穀倉こくそうなどを蹂躪じゅうりんした地域はかなりの広さにわたっている。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてこれはあらゆる自然的感情の最大の蹂躪じゅうりんであろうから、財貨の共有に対するこれ以上の有力な反対論はあり得ないのである。
太子のあれほど祈念された「和」の精神は再び群卿ぐんけいによって蹂躪じゅうりんされはじめた。仄かに輝き出た飛鳥の黎明も太子の薨去をもって終ったかにみえる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
国峰をほふってひた押しに攻め寄せた武田軍は、外塁を蹂躪じゅうりんして城外へせまったが、そのとき大手の攻め口に新しく堅固なほりが掘られてあるのを発見した。
一人ならじ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
青谷技師は激しく抵抗したが、署長の忠実なる部下の腕力のために蹂躪じゅうりんされてしまった。彼の両手には鉄の手錠がピチリという音と共にはまってしまった。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自らのてるものを以て、諸君は何をしているか? サヴァイイで? ウポルで? ツツイラで? 諸君は、それを豚共の蹂躪じゅうりんに任せているではないか。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
なんでも、前線へ給水、補弾等の目的を達する装甲そうこう輸送車であると同時に、あらゆる地形、障害物を無視し、蹂躪じゅうりんして進む戦闘車の役割をもつとめるとのこと。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
個々としての人性は蹂躪じゅうりんせられ、生活範囲は制限せられ、遂には絶対の権威を以て圧倒されてしまう。この時、機械や機関は決して生命のない無機物ではない。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
小さいけれども、詩の国のようなこの荘厳を蹂躪じゅうりんするのは、人を殺害するよりも遥かに惜しい気がした。
鼻に基く殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それは貴賤上下に通じて、古来今日まで変らぬ、この里のおきてなのであるが——最近、そのおきてを蹂躪じゅうりん——でなければ、除外例の特権を作らせた階級がある。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
然るが故に、新聞雑誌の議論にかぶれたる新しき女の、ともすれば貞操蹂躪じゅうりんの訴訟に金銭をんとしてかへつて弁護士の喰物となるも、色よりは慾のあやまちなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
また自分は自分の身体からだの持ち主であるのに、それを暴力で蹂躪じゅうりんされた結果、意外な男の妻になるようなことも軽率で、その女を侮蔑ぶべつしたくなるが、姫宮も元来弱い
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼女を他の部屋へ運び出すと、裸にしてそこの真っ白いベッドの上に革紐かわひもで固く縛りつけた。彼女はもはや、そのまま朝田の蹂躪じゅうりんに任すよりほかに仕方がなかった。
猟奇の街 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
フランスの貴族たち、王党の人たちは、自分たちが貴族であり王党でさえいられるならと、大革命のとき、外国から軍隊を招きいれて、あんなに祖国を蹂躪じゅうりんさせた。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
人となり温柔なるモーセは民の蹂躪じゅうりんするところとなりつつも、彼らのために罪の赦しを神に乞い求め
成経 野武士らはわしの懇願こんがん下等かとう怒罵どばをもって拒絶した。そして扉を破って闖入ちんにゅうし、武者草鞋むしゃわらじのままでわしのやかた蹂躪じゅうりんした。わしはすぐに飛び出て馬車に乗った。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
神の怒はいつ現われるのであるか、——正義の蹂躪じゅうりんされた時である。怒の神は正義の神である。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
人間の道を蹂躪じゅうりんして何時いつまで永い娑婆があると思う? お前は自分の身が危うくなると、暗号を刷らせた仲間の印刷屋まで殺してしまったろう、それで証跡を隠せると思うのは大間違いだ。
青い眼鏡 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その無礼に対しておまえが謝罪を要求するなら貞操蹂躪じゅうりんの裁きの下に牢獄に下ることと、わたしは自分で生命を断つことと、この二つの何れの代価をも差出すことを用意していることを語った。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その記事のうちに、何か夫人がかねて神月にラブをしていたというような意味が書いてあったといって、嚊々かかあめ恐しくいきどおって、名誉を蹂躪じゅうりんされた、世の中へ顔出しも出来ないてッたようなことを云って
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
インドの大敵を蹂躪じゅうりんした武功にまさる事万々とプリニウスが頌讃した。
家も、安楽椅子も、飾つきの卓も、蓄音機も、骨董や、金庫も、すべて、ナラズ者の南兵の掠奪に蹂躪じゅうりんされてしまうだろうと居留民たちは考えさせられた。残虐な共産系が南兵には多数まじっている。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
剣閃けんせん、雨に映え、人は草を蹂躪じゅうりんして縦横に疾駆する。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その騎兵主義もはや威力はなく、弓隊を持たないので、みすみす敵をして、難なく分倍河原ぶばいがわらの陣地も彼の蹂躪じゅうりんにまかせてしまった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この男の意志を蹂躪じゅうりんし、彼からは全然独立した・意地の悪い存在のように、その濃紺の背広のカラーと短く刈込んだ粗い頭髪との間に蟠踞ばんきょした肉塊——宿主やどぬしの眠っている時でも
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
魯鈍なる群衆の雑踏を見ては、私に一中隊の兵士があれば彼らを蹂躪じゅうりんすることができるなどと思った。私の目の前をナポレオンと董卓とうたく将門まさかどとの顔が通っては消えた。強者になりたい。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
彼女の温泉場への第一の目的は、都会の場末で蹂躪じゅうりんされた肉体の、修整であり保養であった。そして彼女は健康な肉体にかえり次第、これまでの生活から足を洗ってしまいたいと考えていた。
機関車 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
(ああ、内地までも、敵機の蹂躪じゅうりんに合うのか!)参謀たちは、唇を噛んだ。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まず手に持っているのが槍だか竿だかわからないのに、その使いぶりときた日には格も法も一切蹂躪じゅうりんし去って野性横溢おういつ、奇妙幻出、なんとも名状することができないのがあまりに不思議でありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
武士たちはそれへの侮辱と蹂躪じゅうりんを一種の快とし、随所でほしいままを振舞った。ひとり前述の高ノ師泰だけにかぎっていたわけではない。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新羅三郎しんらさぶろう以来二十六せいをへて、四りん武威ぶいをかがやかした武田たけだ領土りょうどは、いまや、織田おだ徳川とくがわの軍馬に蹂躪じゅうりんされて、焦土しょうどとなってしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その花園を兵馬で蹂躪じゅうりんするやつがあれば、高時とて坐視していられぬ。高時と鎌倉とは一つものだ。守って見せる。見せいでか
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いまや私は、東国の郷里では、父祖以来の家園も将門に蹂躪じゅうりんされ、まったく孤独無援の心細い立場になりました」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
咲耶子は夜来やらい変事へんじをつぶさに話して、いまに、この谷へも、大久保長安おおくぼながやす手勢てぜいがきて、小太郎山のとりでどうよう、ぞんぶんに蹂躪じゅうりんするであろうとつげた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
謙信の馬蹄に蹂躪じゅうりんされた武田方の中枢部は、その愕きと陣形のみだれとを、容易に回復することができなかった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに、敵の首将信玄に対しては、なお遺憾な一太刀を残したにせよ、彼の中軍は蹂躪じゅうりんし尽したといえるので、年来鬱積うっせきしていた宿念の一端を放つとともに
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、新田の者の蹂躪じゅうりんも、そこらの森の浅瀬へちょっと踏み込んだまでにすぎない。彼らは、たちどころにまた、城戸内から散り散りになって逃げ出して来た。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに部下の兵若干じゃっかんとはいえ、鉄砲や素槍すやりをたずさえ、それらの兵は甲州全地を蹂躪じゅうりんして、皆どこかで鮮血を味わっている、いわゆる常ならぬ殺気の持主だった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが五、六十名の土匪のために、年ごとの収穫を掠奪され、若い女や家畜など、蹂躪じゅうりんし尽されても
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし彼が、積極的に玄蕃允盛政と力をあわすとしたら、茂山、足海の線でも、長途の兵たる秀吉方をして、ああまで思いのまま蹂躪じゅうりんさせるようなことはなかったろう。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして呂宋兵衛たちは、この村をいつくしたら、次の部落へ、つぎの部落を蹂躪じゅうりんしきったらその次へ、ぐんをなして桑田そうでんらす害虫のように渡りあるく下心したごころでいるのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呂布につづく高順、張遼の軍勢も、またたくうち橋を渡って、城門内を埋めてしまい、楼台城閣は炎を吐き、小沛の小城は今や完全に、彼の蹂躪じゅうりんするところとなってしまった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藩祖教景公のりかげこうこのかたここに五代、越前の名門庶流しょりゅう、あわせて三十七同族、世々恩顧おんこのさむらいを養うことも何十万、それがいま、祖先の地を敵兵に蹂躪じゅうりんされ、本城もちんとするのに
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
領内一円は、敵兵の蹂躪じゅうりんに委せてしまう。……阿鼻叫喚あびきょうかんだ……。親にはぐれて泣く子、子をさがしてよろぼう老人としより。悲鳴をあげて逃げまどう若い娘。誰にも顧みられずにちまたで焼け死ぬ病人。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかるに、蒋門神のため、その素地したじ蹂躪じゅうりんされ、しかも軍権力もあるため、無念をのんでいた折です。そこへはからず高名な足下そっかをここに見いだして、まさに雲をはらッて陽を見るの思いです。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寇州こうしゅうの地方より頻々ひんぴんたる早馬や落去らっきょの地方吏が門を打ち叩き、梁山泊の賊徒のために、州城は蹂躪じゅうりんされ、国財もことごとく奪われ、あまつさえ州の奉行高廉こうれん虐殺ぎゃくさつされたとのらせにござりまして
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この特権と信仰のとりでに対しては、どんな猛勇な兵も、そうやすやす、駈けあがって来ることはできまい——宝塔伽藍がらん蹂躪じゅうりんするまでのことはなし得まい——と、そう充分にたのんでいたふうもあった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふたりは無人の境を行くように、呂布の備えを蹂躪じゅうりんした。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)