親爺おやぢ)” の例文
親爺おやぢは幾度か叱り飛ばしてやつと芋畑に連れ出しはしたが、成斎はいたちのやうにいつの間にか畑から滑り出して、自分のうちに帰つてゐた。
実際を云ふと親爺おやぢの所謂薫育は、此父子のあひだに纏綿するあたゝかい情味を次第に冷却せしめた丈である。少なくとも代助はさう思つてゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
きちさんとふのは地方町ぢかたまちの小学校時代の友達で、理髪師とこやをしてゐる山谷通さんやどほりの親爺おやぢの店で、れまで長吉ちやうきちの髪をかつてくれた若衆わかいしゆである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
乞食野郎奴こちきやらうめ親爺おやぢやがれ、われこた醫者いしやれてくぜにつてけつかつて、此處ここさは一でもやがんねえ畜生ちきしやうだから、ろう。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その話はさつき児玉の親爺おやぢさんから聞いたが……(児玉の方をちよつと見る)先生もあゝいふし、僕はこれから方針を変へようと思ふんだ。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「知つてるとも。ケチで高慢で、女道樂がひどくて、五十になるまで、よく罰も當らずに生きて居ると思ふやうな親爺おやぢだ」
いんにや、ゴパックはあんな風にやあ、踊らねえだ! ちやんと、覚えといて貰ひてえだよ、ほんとに、てんでなつちやゐねえや。あの親爺おやぢめ、何を
宿の主人が名人とやらで、それに教はつて釣り始めたのですが、三度四度と行くうちにいつか主人より私の方が餘計釣る樣になりました。親爺おやぢ負惜しんで曰く
樹木とその葉:33 海辺八月 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
始末は大抵たいてい極つてゐるさ。此間こなひだお前の親爺おやぢに會つた時にもあの家の内幕を一寸微見ほのめかしてゐたよ。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
子供は、何故こんな事を聞かれるのかと心配相な顏をし乍ら、自分は早くから寢てゐたからよくは聞かないが、家の親爺おやぢと何か先生の事を話してゐたやうだつたと答へた。
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
これの親爺おやぢはもと矢張り此所の造船場でわつしの組下にをりやして、百六番船の試運転の時に惨死やられやしたもんで、十二の時からわつしが引き取つて仕込んだんでごわす。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
富岡は、焼酎を飲みながら、じいつと、娘へ小言を云つてゐる親爺おやぢの文句を聞いてゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
博士だつて、そこらの八百屋の親爺おやぢだつて、何しろ避難民は一体に玄米の握飯を
フアイヤ・ガン (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
されば彼伊勢屋千太郎は養子の身なれば仲間一同へほどよくわけを爲し逃歸にげかへらんとなせども養父五兵衞が平生仲間交際つきあひさらになさずたぐひ無き吝嗇りんしよく者なれば養子千太郎を連行つれゆきて伊勢五の親爺おやぢに氣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「どうぞ堪忍かんにんしてやつて下さいましよ。親爺おやぢやお酒をくらつて居るんでさ」
たぶんあそこの親爺おやぢだらう…… 息子むすこかな
詩四章 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
そばにや親爺おやぢ眞面目まじめがほ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
左様さうです」と代助は答へてゐる。親爺おやぢから説法されるたんびに、代助は返答に窮するから好加減な事を云ふ習慣になつてゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
成程なるほど。」と蘿月らげつ頷付うなづいて、「さういふ事なら打捨うつちやつても置けまい。もう何年になるかな、親爺おやぢが死んでから………。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「鹽鮭見たいな親爺おやぢの子をウジヤウジヤこしらへたところで、世の中が薄汚くなるばかりぢやありませんか、ね、親分」
子息むすこの才能の総和が親爺おやぢのそれに匹敵するのはうにか辛抱出来るが、大久保甲東の息子達のやうなのは一寸……。
子供は、何故こんな事を聞かれるのかと心配相な顔をし乍ら、自分は早くから寝てゐたからよくは聞かないが、うち親爺おやぢと何か先生の事を話してゐたやうだつたと答へた。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
高野専務は二十年来田沢の乾分こぶんとして働き、今日の地位を築いたのであるから、十分「親爺おやぢ」の気心を呑み込み、その言説の当不当を真正面からあげつらふやうなことはしない。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
内儀かみさん、夫婦ふうふそろつてなくつちやれるもんぢやありあんせんぞ、親爺おやぢだつてお内儀かみさん自分じぶんあま女郎ぢよらうつて百五十りやうとかだつていひあんしたつけがそれけえりに軍鷄喧嘩しやもげんくわかゝつて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
『いまペンキ屋の親爺おやぢを毆つて飛出して來たよ。』
樹木とその葉:03 島三題 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
せめて、もう四五年早く決心して、強硬に親爺おやぢ
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
親爺おやぢ自慢じまんはさみらす。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
代助に云はせると、親爺おやぢの考は、万事中途半端ちうとはんぱに、或物あるものを独り勝手に断定してから出立するんだから、毫も根本的の意義を有してゐない。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一頻ひとしき戯書いたづらがきが済むだ頃、信常氏は「さうだすつかり忘れてゐたつけ、親爺おやぢから委託ことづかものがあつたんだ。」
「喜三郎といふのが居ますよ。伊勢屋の死んだ女房の親爺おやぢで、佛喜三郎と言はれる好い人間で」
算盤そろばん乃公おれの頭をなぐつた親爺おやぢにしろ、泣いて意見をした白鼠しろねずみの番頭にしろ、暖簾のれんを分けてもらつたおとよ亭主ていしゆにしろ、さうふ人達はおこつたり笑つたり泣いたり喜んだりして
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いよ/\親爺おやぢとは絶交しました。但し、おふくろが今まで通り内証で仕送りをしてくれる筈ですから、別に慌てることもないわけです。奥さんが留守のせゐか、いやにうちなかが散らかつてますね。
世帯休業 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
折角せつかく親爺おやぢ記念かたみだとおもつて、つてやうなものゝ、仕樣しやうがないねこれぢや、場塞ばふさげで」とこぼしたことも一二あつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「あゝして親爺おやぢが禁酒論者なのに、忰の僕が飲んだくれぢや世間体が悪いからね。」
「こちとらには百文も貸す氣遣ひはねえが、旗本や御家人泣かせで名高い親爺おやぢだ」
平太郎が親爺おやぢの石塔を建てたから見にて呉れろとたのみにきたとある。行つて見ると、木も草も生えてゐない庭の赤土の真中まんなかに、御影石みかげいしで出来てゐたさうである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「柳屋の親爺おやぢが來てゐるが、逢つて見ないか」
「ぢや訊くが、お前の親爺おやぢ職業しやうばいは何だね。」
今度こんど手紙のついでに聞いて見て呉れ、さうして十円も掛けて親爺おやぢの為にこしらへてやつた石塔をほめて貰つてくれと云ふんださうだ。——三四郎は独りでくす/\笑ひ出した。千駄木の石門より余程烈しい。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
番太の親爺おやぢは心得たことを言ひます。
「朝野屋の親爺おやぢですよ」
あの高慢ちきな親爺おやぢ