茫乎ぼんやり)” の例文
私も茫乎ぼんやり立って大勢の人の向いて居る方を眺めますと、南の空に火の粉がボーボー舞い上って、立って居る所は風上で有りましたが
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
代助は今読み切ったばかりの薄い洋書を机の上に開けたまま、両肱りょうひじを突いて茫乎ぼんやり考えた。代助の頭は最後の幕で一杯になっている。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一屑低い雲は、濃い影の堤のやうに並んで、水の四方を取り圍み、遠い方をばとりとめのない茫乎ぼんやりしたものにさせてゐた。
松岡はそれを聞きすますと自分の部屋へ取って返して、茫乎ぼんやりと時を過した。その内に木炭をカンヷスになすり始めた。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
あとにお春はしばしが程は、悪夢を見ている人のようにただ茫乎ぼんやりとしたまま坐っていたが、やがて前へと身を投げて、よよと哀しくき崩れました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
茫乎ぼんやりとして、水の影の如く薄れて——ああしたことを、この自分が、本当にしたのであろうかというように思えた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
まじ/\してたが、有繋さすがに、つかれひどいから、しんすこ茫乎ぼんやりしてた、なにしろしらむのが待遠まちどほでならぬ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
婆は唯茫乎ぼんやりして甚蔵の寝顔を見て居る、爾して犬は獰猛な質に似ず、余の膝へ頭を擦り附けて居る。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
此莊園でラクダルはゴロリところがつたまゝ身動みうごきもろくにず、手足てあしをダラリのばしたまゝ一言ひとことくちひらかず、たゞ茫乎ぼんやりがな一日いちにちねんから年中ねんぢゆうときおくつてるのである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
早や夜明け方となつて東はほんのりと白んで、空を見ると二十三日の片はれ月が傾ひて、雲はヒラ/\と靉靆たなびき、四面は茫乎ぼんやりして居るのです。私は月を見もつて行きました。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
浅田は食事の間にも折々、茫乎ぼんやり箸を休めて殺された婆さんの事を考えていた。婆さんは六十を越したいっこく者で、永い間雇人もおかずに、比較的広い家に、たった一人で暮していた。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
其の間にだん/\氣が茫乎ぼんやりして來て、半分は眠りながらうと/\してあるいてゐた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
すべて如何いかなる惡獸あくじゆうでも、人間にんげん眼光がんくわうするどそのめんそゝがれてあひだは、けつして危害きがいくわへるものでない、そのひかり次第々々しだい/\おとろへて、やが茫乎ぼんやりとしたすきうかゞつて、たゞ一息ひといき飛掛とびかゝるのがつねだから
代助は今読みつたばかりうすい洋書を机の上にけた儘、両ひぢいて茫乎ぼんやり考へた。代助のあたまは最後のまくで一杯になつてゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其時そのとき茫乎ぼんやりと思ひ出したのは、昨夜ゆうべの其の、奥方だか、姫様ひいさまだか、それとも御新姐ごしんぞだか、魔だか、鬼だか、おねやへ召しました一件のおやかただが、当座はただかっ取逆上とりのぼせ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
只幾分か頭脳が茫乎ぼんやりして来まして所謂軽度の意識溷沌こんとんに陥り追想力が失われる様で有ります。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
茫乎ぼんやりとして何時いつまでも絵姿のおもてに見入っています——此の後姿を眺めていた呉羽之介は、露月に対する憤りが納まってくるに従って、ふと一種別な恐怖にとらわれはじめた。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
余は目録を持ったまま此の様な事を思って暫し茫乎ぼんやりとして居たが
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
今の所謂いわゆる文壇が、ああ云う人格を必要と認めて、自然に産み出した程、今の文壇は悲しむべき状況の下に呻吟しんぎんしているんではなかろうかと考えて茫乎ぼんやりした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小机こづくゑに、茫乎ぼんやり頬杖ほゝづゑいて、待人まちびとあてもなし、ことござなく、と煙草たばこをふかりとかすと
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今の所謂文壇が、あゝ云ふ人格を必要と認めて、自然に産み出した程、今の文壇は悲しむべき状況のもとに呻吟してゐるんではなからうかと考へて茫乎ぼんやりした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それからなんのことだらうとかんがママたやうにもおもはれる、いまめるのであらうとおもつたやうでもある、なんだか茫乎ぼんやりしたがにわかみづなかだとおもつてさけばうとするとみづをのんだ。もう駄目だめだ。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
じつ視詰みつめて、茫乎ぼんやりすると、ならべた寐床ねどこの、家内かないまくら両傍りやうわきへ、する/\とくさへて、みじかいのがる/\びると、おほひかゝつて、かやともすゝきともあしともわからず……なか掻巻かいまきがスーとえる
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「相変らず茫乎ぼんやりしてるじゃありませんか」と調戯からかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
懐中かいちゅう紙入かみいれに手を懸けながら、茫乎ぼんやり見ていたと申します。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「相変らず茫乎ぼんやりしてるぢやありませんか」と調戯からかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
呆れたものいいと、唐突だしぬけの珍客に、茶屋の女どもは茫乎ぼんやり
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)