芸妓げいしゃ)” の例文
旧字:藝妓
「隠したって駄目だよ、証拠は銀流しのかんざしだ、柳橋で芸妓げいしゃやっこを殺したのを手始めに、四人まで手にかけた、お前は鬼のような女だ」
女郎や芸妓げいしゃじゃあるまいしさ、そんな殺文句がわれるものかね。でも、旦那の怒りようがひどいので、まあ、さんざあやまってさ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「毛ぶかい人は、情が深いって! 貴君なんか薄情なのよ。」まるで、年増芸妓げいしゃのような言葉を、はずかし気もなくズケズケいった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ところでその今の母親と言うのは前身もと芸妓げいしゃ上りと言う事で、まだ色も香も相当残っとる年増盛りじゃが、そのような女にも似合わず
「へへん、何やろかいな。アイヌにも芸妓げいしゃはんがありまへょか。」神戸富豪のNさん。九州男のYが「金持ちなんてん下俗げさくうしてなん。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
万吉さんにも、一度話したことがあるけれど、おっかさんはお才といって、仲之町なかのちょうでは売れた芸妓げいしゃ、たいそうきれいなひとでした——。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
随分怜悧りこう芸妓げいしゃでも、い加減に年を取った髯面ひげづら野郎でも、相手にせずに其処へ坐らせて置いて少し上品な談話でも仕て居ると
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
少し離れたところの、もみの木蔭に隠れていた芸妓げいしゃの福松は、兵馬が立戻って来ることの手間がかかり過ぎることに気をみ出し
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
深川の芸妓げいしゃ羽織衆はおりし/\と称えるような事になりましたので、貰わぬ者まで自分で染めて黒縮緬の羽織を着たという、誠に華美はでなことで。
或はまた堅気かたぎの娘さんなのか、井関さんのせんだっての口振りでは、まさか芸妓げいしゃなどではありますまいが、何しろ、全く見当がつかないのです。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大和魂やまとだましいかためた製作品である。実業家もらぬ、新聞屋も入らぬ、芸妓げいしゃも入らぬ、余のごとき書物とにらめくらをしているものは無論入らぬ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今から考えると、それは芸妓げいしゃ娼妓しょうぎの世話をする、つまり人身売買業ともいうべき口入屋くちいれやだったのである。年増女はじろじろと私の顔をながめた。
一緒にいた芸妓げいしゃあがりらしい女と、母親との折合いがわるくて、このごろ後釜あとがまに田舎から嫁が来ているという事情などもお銀はよく知っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もとより、芸妓げいしゃは美しいものとして、そのほかの悪いことは知っていようはずもないのに、なぜだか、なんとも言えない泣きたい思いを堪えていた。
此処ここは深川仲町の、松島屋という芸妓げいしゃ屋のひと間である。松吉という、その姐さん芸妓が主で、ほかには飯炊きのお仙というばあやがいるだけだった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「それも堅気の上りとか何とかいうなら仕方がねえ、手めえだって芸妓げいしゃをしているんじゃァねえか。——うそにも愛嬌稼業しょうばいをしているんじゃァねえか。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
そして彼らの素行の堕落がどれだけ世の子女の風儀に悪影響を及ぼしているかは「代議士は芸妓げいしゃを買うものです」
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
朝寝坊の芸妓げいしゃ家では、台所に近い三畳で女中のお滝がようよう蚊帳かやをはずしているところであった。
半七捕物帳:19 お照の父 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
芸妓げいしゃはやっぱり貞之進のを取って、これが善いのですよと煙草の珍しい方を取った積りの詞が、貞之進は訳無しに嬉いようで、入物ぐるみそっと芸妓の手近へ推遣って
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
卒業式、卒業の祝宴、初めて席にはべ芸妓げいしゃなるものの嬌態きょうたいにも接すれば、平生へいぜいむずかしい顔をしている教員が銅鑼声どらごえり上げて調子はずれのうたをうたったのをも聞いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
千代子は今茲ことし十七歳、横浜で有名な貿易商正木なにがしの妾腹に出来たものだそうで、そのめかけというのは昔新橋で嬌名の高かった玉子とかいう芸妓げいしゃで、千代子が生まれた時に世間では
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
従って、シンミリと寂しかるべき怪談会は、意外にもにぎかな陽気な集会となって、芸妓げいしゃ達の白い顔や、芸人達や料理屋の主人と云ったような、いなせな連中が気勢を添えてくれた。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
なにしろ、君、触込が触込だから、是方こっちでも、朝晩のように宿舎やどやへ詰めて、話は料理屋でする、見物には案内する、酒だ、芸妓げいしゃだ——そりゃあもう御機嫌ごきげんの取るだけ取ったと思い給え。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
打鶏ダーチー⦅私娼買い⦆にも少しきて了ったし、書厲⦅芸妓げいしゃ家⦆へ行くのも平凡だし、ダンスホールや酒場へ行ったところで、変わった興味もあるまいし、ひとつ開封路かいぽうろの春華舞台へでも行って
彼女は村の生れでなく、うわさによればさるさむらい芸妓げいしゃに生ませた女らしい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
掛稲かけいね、嫁菜の、あぜに倒れて、この五尺の松にすがって立った、山代の小春を、近江屋へ連戻った事は、すぐにうなずかれよう。芸妓げいしゃである。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
芸妓げいしゃは秘密とはいう条、公然同様であるから略するとして、女給、家内女等を仮に第三級とする。但、これも公然といえば公然である。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
芸妓げいしゃというよりも令嬢といってもよいおとなしい顔だった。真青な無地の襟に黒地に白をぬいた飛白かすりのおめしが、ピッタリと合っていた。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すると夜風は身にしみて肌さぶく相成り、二階ではお酒が始まり芸妓げいしゃが騒ぎはじめますから、馬鹿々々しくなって堪りません。
外人は、分ったような分らないような顔をしてきょうがった。主人の理平も来た。千歳の女将も来た。芸妓げいしゃたちものぞきに来た。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芸妓げいしゃの福松は戸際まで送り出でたけれども、お大切にという声がつまってしまったものですから、そのまま奥へ引込んで出て来ませんでした。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「さア、船頭が芸妓げいしゃを殺す気なら、面倒臭くて不確かなかんざしなどを振り廻さずに、手っ取り早く足でも掴んで川の中へ沈めにかかりそうなものだ」
お雪は、ふと、美しい着物は着ていたが、なんにも、いたいものも購えなかった、芸妓げいしゃ時代の窮乏を思いうかべた。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そして、その時彼のそばに坐った眉の濃い一人の芸妓げいしゃの姿や、その声音こわねや、いろいろのなまめかしい仕草しぐさが、浮ぶのである。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
芸妓げいしゃとも白首しらくびともつかぬ若い女を二人ほど手元に引きつけて、それもいい加減に本性を露わしかけているのだった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
内儀さんは上州辺の女で、田舎で芸妓げいしゃをしていた折に、東京から出張っていた土木の請負師に連れ出されて、こっちへ来てから深川の方に囲われていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この間友人からこんな話を聞きました。その男の国での事でありますが、ある芸妓げいしゃがある男と深い関係になっていたのだそうで。その両人がある時船遊びに出ました。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
芸妓げいしゃも客数ほど来て、饒舌しゃべるわ/\春の潮の湧くが如く、拳を打ったり歌を唄ったり、ふたりで蚊帳かやの紐を釣ったとかいって足拍子のしたのは、若い妓が起って踊ったので
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
それにはすれ違う芸妓げいしゃでも箱丁はこやでも一人として知った顔がなく、一人として天下の西巻金平を問題にするものがありません。——みんな知らん顔でそばを通って行きます。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
逗留客が散歩に出る。芸妓げいしゃが湯にゆく。白い鳩がをあさる。黒い燕が往来おうらいなかで宙返りを打つ。夜になると、蛙が鳴く。ふくろうが鳴く。門附かどづけの芸人が来る。碓氷川うすいがわ河鹿かじかはまだ鳴かない。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おちついて飲めるうちといえば雪ノ井がただ一軒、芸妓げいしゃもいねえというんだからひでえ土地だ」そして吐きだすように付け加えた、「おれはまるでペテンにかかったような心持だぜ」
霜柱 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……何が美しいと云ったところで江戸の祭礼まつりかなうものはまず他にはありませんな。揃いの衣裳。山車だし屋台。芸妓げいしゃ手古舞てこまい。笛太鼓。ワイショワイショワイショワイショとたる天神をかつぎ廻ります。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お米さんにまけない美人をと言って、若主人は、祇園ぎおん芸妓げいしゃをひかして女房にしていたそうでありますが、それも亡くなりました。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
芸妓げいしゃはあまり有りふれているから略するとして、その次にありふれているのは女給、女案内人、やや高級なところではモデル女
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
僕は、我々と対等に話が出来るのは、芸妓げいしゃ……それも多少年増としま芸妓げいしゃばかりだと思っていたよ、だがどうしてもう芸妓げいしゃなんか話が古いねえ。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
アノ祖父おじいちゃんはね、恐ろしく怒ってるよ、お祖父ちゃんはね、アノんなやくざな者は無い、駄目だって、アノ芸妓げいしゃや何かに、アノ迷って
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
だっておかしかろうじゃないか、芸妓げいしゃを連れて道行をすれば、これがおたのしみでなくて、世間のどこにおたのしみがあるのだ、おたのしみを
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ほかではない、柳橋の芸妓げいしゃ殺し、石原の利助が呑込んで、布袋屋万三郎を挙げたんだが、どうも下手人らしくない」
魚河岸うおがしから集金に来ている一人の親方は、そこの広間で毎日土地の芸妓げいしゃ鼓笛つづみふえの師匠などを集めて騒いでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この豊原一の宏壮な旅館だからかとも思ったが、まるで芸妓げいしゃのような美服を著、粉黛ふんたいしている。内地の何処の旅館に泊ったってこんな事はない。一々嬌笑する。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)