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じぶんたち
『ナニ、そんな
事を
云つても
駄目だ』と
猫が
云ひました、『
自分達だつて
皆な
斯うして
居たつて
狂人なんだ。
私も
狂人。お
前も
狂人』
私達はその日一
日歩き
廻つた。
夕方には、
自分達の歩いてゐる所は一
体どこなのだらうと思ふほどもう三
半器官が
疲れてゐた。
さうして
二人が
默つて
向き
合つてゐると、
何時の
間にか、
自分達は
自分達の
拵えた
過去といふ
暗い
大きな
窖の
中に
落ちてゐる。
そうすりゃあいつ
等は、
僕がこんなにみっともない
癖して
自分達の
傍に
来るなんて
失敬だって
僕を
殺すにちがいない。だけど、その
方がいいんだ。
一
方は
自分達の
仲間から
親しい
人を
失うのでございますから、
沈み
切って
居りますのに、
他方は
自分達の
仲間に
親しき
人を
一人迎えるのでございますから、
寧ろ
勇んでいるような
昂奮しないでお
聽きなさいツ。ではこれから
自分達の
行く
道が、どんなに
嶮しい、
文字通りの
荊棘の
道だつてことが、
生々しい
現實として、お
孃さん、ほんとにあなたにわかつてゐるんですか……
なぜならば、少しもそれらの
運動や
宣言に
共鳴を感ずることが出來ませんでしたから。ひそかに
自分達の考へはもう
舊いのだろうと
肯きました。さうしてその舊さに
滿足を感じ、
光榮を感じました。
耳を
枕から
離して
考へると、それはある
大きな
重いものが
裏の
崖から
自分達の
寐てゐる
座敷の
縁の
外へ
轉がり
落ちたとしか
思はれなかつた。
と、
言うのでした。それは
自分達が
世界の
半分ずつだと
思っているからなのです。ある
日牝鶏は
子家鴨に
向って
天狗の
頭目も『
自分達は
人間になり
切れなかった
魂でござる……。』と、あっさり
告白して
居りました。
私はそれをきいた
時に、
何やら
天狗さんに
対して
気の
毒に
感じられたのでございました。
そこで二人は大家へ行つて
部屋の
様子をきき正した。
私達はもう家そのものはどうでも良かつた。たゞ
自分達の
疲れた
身体に一時も早く
得心を
与へるために直ぐその家を借りようといふ
気になつた。
其云ひ
方が、
自分達の
淋しい
生涯を、
多少自ら
窘める
樣な
苦い
調子を、
御米の
耳に
傳へたので、
御米は
覺えず
膝の
上の
反物から
手を
放して
夫の
顏を
見た。