突伏つっぷ)” の例文
横臥したいと思ったが寝る所がないから机の上に突伏つっぷして右に左に頭をもたせてみたが胸苦しさは増すばかりで全身は汗ばんで来た。
病中記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
家老たちも、御父君秀康卿以来の癇癪かんしゃくを知っているために、ただ疾風はやての過ぎるのを待つように耳を塞いで突伏つっぷしているばかりであった。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その時に私は、毛布の上に突伏つっぷしながら、あなた様と私との運命が、みじめに打ちくだかれて行く姿をハッキリとまぼろしに見ました。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
年内の御重宝ごちょうほう九星売が、恵方えほうの方へ突伏つっぷして、けたけたとたまらなそうに噴飯ふきだしたれば、苦虫と呼ばれた歯磨屋はみがきやが、うンふンと鼻で笑う。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでつい、「やっぱり休養ですか」と云うと、相手も「ええ休養です」と答えたなり元のとおり湯槽ゆぶねの側に突伏つっぷしていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
両手を上へ伸ばして、突伏つっぷしになっていたお庄は、だるい体を崩して、べッたりと坐りながら、大きい手で顔をでたり、腕をさすったりしていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一時間ばかりつと里子は眼を泣きらして僕の居間に帰て来ましたから、『如何どうしたのだ。』と聞くと里子は僕のそば突伏つっぷして泣きだしました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
蒲団ふとんの上に突伏つっぷすように坐り込んだなりで、物を考えているよりは、哀れみを乞うているに似たこの姿がいじらしい。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この時ルパンは相手から手を放し、その傍に突伏つっぷして、息も絶え絶えに声を呑んで男泣きに泣いた。
この勉へ宛てた手紙を読んで了った時、三吉は何か事業しごとでも済ましたように、深い溜息ためいきいた。お雪は畳の上に突伏つっぷしたまま、やや暫時しばらくの間は頭を揚げ得なかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ふっと眼を上げると、向うには鶴子がやぐら突伏つっぷして好い気もちにスヤ/\寝て居る。炬燵の上には、猫がのどらさず巴形ともえなりに眠って居る。九時近い時計がカチ/\鳴る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
澤はその家の崩れ落ちる瞬間に、逃げ遅れた乙子をかばって畳の上に突伏つっぷした養子の姿を見た。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
私は小隊長の脚下の床に突伏つっぷして、ただわけもなく泣いた。
青い行燈とその前に突伏つっぷした、雪女の島田のまわりを、ぐるりぐるりと廻るうちに、三ツ目入道も、ぬいと立って、のしのしと踊出す。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ピッタリと大卓子テーブルの上に突伏つっぷした。頭の中は煮えるように……額は氷のように……てのひらは火のように感じつつ、あえぎに喘ぎかかる息を殺した。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
振舞酒ふるまいざけの余勢で巻舌まきじたをつかってみましたが、からきり物になりません。提灯を切り落されると地面に突伏つっぷして
さい蒲団ふとんと小さい枕がやがて宵子のために戸棚とだなから取り出された。その上に常の夜の安らかな眠に落ちたとしか思えない宵子の姿をながめた千代子は、わっと云って突伏つっぷした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
畳に突伏つっぷすがごとく会釈をすると、お妙も、黙って差置いた洋燈の台擦だいずれに、肩を細うして指のさきを揃えて坐る、たもとが畳にさらりと敷く音。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちに日が暮れると、花の咲いているのが見えなくなりましたので、ミミは草の中に突伏つっぷしてウトウトとねむりながら、月の出るのを待ちました。
ルルとミミ (新字新仮名) / 夢野久作とだけん(著)
水主かこ楫取かじとりもその高波の下を潜って、こけつまろびつ、船の上をかけめぐっていたのが、この時分には、もう疲れきって、帆綱にとりついたり、荷の蔭に突伏つっぷしたりして
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あつらえられたを調えて、再び良人の前に行った時、警部長は、天窓あたまつかむようにして、堅く卓子テエブル突伏つっぷしていた。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お母様は畳の上に両袖を重ねて突伏つっぷしておられました。そうして声を押えて泣き続けておいでになりましたが、不思議と一言も云い訳をしようとはなさいませんでした。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
五百余人の剣士が一斉いっせいにヒヤヒヤとした時、意外にも文之丞の身はクルクルと廻って、投げられたように甲源一刀流の席に飛び込んで逸見利恭の蔭に突伏つっぷしてしまいました。
僕はまたひげがさ、(水上みなかみさん)て呼ぶから、何だと思って二階からのぞくと、姉様ねえさん突伏つっぷして泣いてるし、髯は壇階子だんばしご下口おりぐち突立つったってて、憤然むっとした顔色かおつき
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それだから経机の上へ突伏つっぷして、いつまでも眠ることもしないで泣き暮していました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
見ると下駄や草履ぞうりを並べた表の八畳の次の六畳のあががまちの中央に下駄の鼻緒だの、古新聞だのが取散らしてある中に、店の主人一木惣兵衛(六十四歳)が土間の方を向いて突伏つっぷしている。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
旅行たびはどうしてしたでしょう。鹿落の方角です、察しられますわ。霜月でした——夜汽車はすいていますし、突伏つっぷしてでもいれば、誰にも顔は見られませんの。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卓子テーブルの緑色の羅紗らしゃの上に両手を投げ出したまま突伏つっぷしているのであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
蘇枋染すおうぞめしぼって叩きつけたようなその真中に突伏つっぷした年増の遊女——それは昨晩、間の山節をここで聞いた女、また手紙と金とをお玉にそっと渡して頼んだ女、ここではお登和と呼ばれている女——
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と延一は、ギクリと胸を折って、抱えた腕なりに我が膝に突伏つっぷして、かッかッと咳をした。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
洪水おおみずのように涙を流しながら、今までの主人の横暴を一々数え上げて行きましたが、そのうちにとうとう口が利けなくなって、ベッドの上に突伏つっぷしますと、それまで黙って聞いておりました主人は
奥様探偵術 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
みどりは腕を組んで固くそこに突伏つっぷしてしまいました。
枕は袖の下に一個ひとつ見えたが、絹の四布蒲団よのぶとん真中まんなかへ敷いた上に、掛けるものの用意はなく、また寝るつもりもなかったらしい——貴婦人の膝に突伏つっぷして、こうぐっとかいなつかまって
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水髪やしのぶしずく、縁に風りんのチリリンと鳴る時、芸妓げいこ島田を俯向うつむけに膝に突伏つっぷした。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すっと、そこへ、友染模様が浮出たと見ると、店口の敷居へ、結綿島田ゆいわた突伏つっぷした。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殊に小火ぼやを出した物語。その時の焼っ焦、まだ脱ぎえず、と見て取る胸に、背後うしろに炎を負いながら、土間に突伏つっぷして腹をひやした酔んだくれのおもかげさえ歴々ありありと影が透いて、女房は慄然ぞっとする。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口も利けず……民也もその身体からだへ重なり合って、父の寝た枕頭まくらもと突伏つっぷした。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鮮血なまちの、唇を滴々たらたらと伝ふをて、武士さむらいと屑屋はひとのめりに突伏つっぷした。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お町の肩を、両手でしっかとしめていて、一つ所にかたまった、我が足がよろめいて、自分がドシンと倒れたかと思う。名古屋の客は、前のめりに、近く、第一の銅鍋の沸上った中へおもてして突伏つっぷした。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
駈出したものも軒下に突伏つっぷしたり、往来に転んだきりだったり。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雲から吐出されたもののように、坂に突伏つっぷした旅人りょじんが一人。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お福ッ子は倒れたなり、突伏つっぷしていましたッて。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
俊吉は突伏つっぷした。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)