真実ほんとう)” の例文
旧字:眞實
この山奥に悪者が住んでいるという噂は聞いたことがあるが誰でも真実ほんとうにしたものがなかった。またこういう噂は聞いたことがある。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これからは私アもう、父様のおっしゃったことを真実ほんとうにしないからようござんす。一体父様は私をそんなに可愛がって下さらないわ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
ねえ熊城君、ジナイーダはたしか自分のいた修道院がトラヴィスト派だと云ったね。しかし、真実ほんとうは、刷新カルメル教会派なんだぜ。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
産後から体が真実ほんとうでないお銀は、電車に乗るとじきに胸がむかついた。電車は暗い方から出て来て、明るい方へ入ったり出たりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
軍隊の様子を白状しろって、ますます酷くさいなむです。実に苦しくって堪らなかったですけれども、知らないのが真実ほんとうだから謂えません。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……私も出て行ってしまえば、もうおすまをどうしようとも思いませんから安心して下さい。……真実ほんとうにおすまはどうしているんです。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
理屈などはうでもよい、栄といふ男と野枝といふ女とが附着くつつかねばならなかつた真実ほんとうの特殊の事情を告白する事が出来なければ嘘だ。
「金の代りに生きているようなものだね。よし/\、しくずしに天命をまっとうする算段をするさ。いよ/\真実ほんとうにやめるかな」
一年の計 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
一本のから一日におよそ一ポンドの採収が出来ると云ふのが真実ほんとうなら大した利益のあるはずである。人夫には馬来マレイ人と支那人を使用して居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
真実ほんとうに、お前はどうかしてる。己がこれ程言うじゃねえかよ。己を助けると思って、機嫌克きげんよくして行ってくれ。なあ、一生のお頼みだに」
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お前さんは真実ほんとうにお仕合しあわせだ、お袖さんが何もかもおしだからといふから。ナゼそんな事をと聞ひて見ると、隣の花ちやんがいつてたそうだ。
小むすめ (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
昼のうち検屍けんしに来た係り同心には、幾太郎の無実を細々と説明した上、「真実ほんとうの下手人は、今晩中に挙げてお目にかけます」
何だか真実ほんとうに可愛がってくれる人が欲しくなった。だけど、男の人は嘘つきが多いな。金を貯めて呑気な旅でもしましょう。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
……それならば先刻さっきから見たり聞いたりした色々な出来事は、やっぱり真実ほんとうに、私の身の上に関係した事だったのか知らん。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
忌々いまいましいとは思うけれど、ばばあの云うことはたしか真実ほんとうである。市郎も少しくひるんだが、ここで弱味を見せては落着おさまりが付かない。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そうしたら伯母さんが怪訝けげんな顔をして、「それはおかしい。チーちゃんというのは私の家の娘ではありません。あの子の真実ほんとうの妹でございますよ」
ただ遠巻きに探りを入れているだけで、どうもそこへは話が入って行きません。こんなにも真実ほんとうのことは怖ろしいものかとつくづく思いました。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
何か自分一人で買って来たときには、妻や子にさえ、真実ほんとうの値段は言わずに、二割、三割、時には二倍、三倍もの掛け値を言って話すのだった。
しかるに、こちらでは、真実ほんとう精神統一せいしんとういつはいれば、人間にんげんらしい姿すがたせて、そばからのぞいても、たったひとつのしろっぽいたまかたちしかえませぬ。
真実ほんとうね。あらこんな襟買つとつて下すつたの、いいわね、けれどをかしいでせう。印度洋で焼けて来た顔だもの。』
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
悪「いえ真実ほんとう盗賊どろぼうではございません、其処がわたくしうちでございますから、嘘だと思うなら往って御覧なすって下さい」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こう書いてみて駒井は、果してこれが真実ほんとうだろうか、どうかと怪しみました。フランソア・ザビエル師は、天文年間、初めて日本へ渡って来た宣教師。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
……それはそうと、それは真実ほんとうでしょうね。もし行って見てなかったら、すぐ戻って来てあなたを殺しますよ。こっちだって生命がけの仕事なんだから
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
外でもありませんが、今から一年前に一人の患者がここへやって来て、僕が今いったように、ぶちまけて真実ほんとうのことを教えて下さいとお願いしたんです。
誤診 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
セエラの『偉がらなかった』のは真実ほんとうでした。彼女は思いやりがあって、つつましやかな少女でした。で、持っているものは、惜気おしげもなく分けてやりました。
といって、それを幸いに、その嘘を真実ほんとうにしようなぞという気はもうとう起らなかった。彼にはあまりにも自己本位な兄の性根がありありと見えいていた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
おかしいな、すると誰か真実ほんとうに用事があったのかしら、しかしそれにしても名前を云わないというのは変だ。
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
『エ? 何を仰います? 恐ろしい運命?……あなたはそう御考えになりますか、あなたは真実ほんとうに……』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
尊家は仙方延寿丹せんぽうえんじゅたん、または江戸の水とやら申す化粧水を売り出し、引札を書き、はなはだしきは御著作の中にその効能を広告なさるということですが、真実ほんとうですか。
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
真実ほんとうはもう一日寝かしておくといいのですけれども、どうしても起きるといって、きかないのです」
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
家出なり何なりして以前の不満な境遇に出来る丈け辛抱して真実ほんとうにどうする事も出来なくなつてそれより他に行く道がないとなつて充分に覚悟の上に出た人ならば
男性に対する主張と要求 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
彼は、アメリカ人風に、面と向って不意にあびせかけられた真面目な真実ほんとうの御世辞をいかにするかという事については普通な国民性の頼りなさのすべてを持っていた。
いつになれば朝夕お傍に居られるような運びになりましょうかなぞと責め立てて困りまする、と云ってあかい顔をさせたりして、真実ほんとうに罪のない楽しい日を送っていた。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
泥を採ることを止めさせようとすると、村の人は泳ぎが下手でございますから、溺れて死にますと云うと、王様は鼈を呼び出して、赤兄公が云うことが真実ほんとうかと聞いた
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
或るものは自分はヴィクトリア公園の熱帯樹の下を黒奴ニグロの中年の紳士と日傘をさして歩いていた彼女を見かけたことがあると真実ほんとうらしく話して、彼女が洋妾ラシャメンだろうと云う。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
……単純でいいのだ! 野蛮でいいのだ! 反逆性があって、真実ほんとうならそれでもう充分なのだ!
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分はそれから、精霊が人間をつれてゆくと云ふ事が真実ほんとうかどうか、真実ならば、精霊がつれて行つた霊魂の代りに、他の霊魂を置いてゆくと云ふ事があるかどうかを訊ねた。
いよ/\となればかねて少し居合の心得もあるから、如何どうしてれようか、これは一ツ下からねてりましょうと云うかんがえで、一生懸命、イザとえば真実ほんとう所存つもりで行くと
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
すると、この家の主婦は悲しい悲しい目にあったことがもとで、十五年このかた、ああして寝たッきりであるという返事。しかし、彼にはどうもそれが真実ほんとうだとは思われなかった。
狂女 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
真実ほんとうの大仕事はそれからだというのは、未だ、一時この家を借りた医師が何者であるか
土から手が (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
真実ほんとうにわたしによく似た方もあるもの、この人なれば、仲間うちのものが、下町風に身をやつした自分とも思い違えて、こちらの袖に物をかくすほどのことは無理からぬこと、さぞや
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
お前はそんなら真実ほんとうに私を離縁する心かへ、知れた事よといつもの源七にはあらざりき。
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
真実ほんとうらしい。——いや信じきった様子が、渡辺天蔵の狼狽うろたえた顔いろに見て取れた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを私は単に私に会いたくない口実だと思ったんだが、それはまったく真実ほんとうのことだったんだね。ただ病気が重いと云うだけじゃなかったんだ、その時はもう死にかけていたんだよ。
真実ほんとうかみ(時方は出雲権守いずものごんのかみでもあった)さんの手紙を女房へ渡しに来るのさ」
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それを彼女が彼女一人の胸に秘めていて呉れるなら、さして恐しいこともないのですが、どうして彼女が、謂わば真実ほんとうの夫のかたき、菰田家の横領者を、このままに見逃して置くものですか。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あなたは親と云ってくれる者を一人ももたずに育って来た人間の淋しさを御存じですか。あなたは何と考えていらっしゃるかも知れませんが、私はただ真実ほんとうの父に会いたいばかりなのです。
殺された天一坊 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
できるもんかしらて言ったって、それが真実ほんとうなら仕方ないじゃありませんか。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
お前さんと同棲いっしょになってから三年になるが、その間真実ほんとうに食うや食わずで今日はと思った日は一日だって有りやしないよ。私だって何も楽を仕様しようとは思わんけれど、これじゃあんまりだと思うわ。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
漆戸が死んだことも、遺骸を火葬場へ持って行って、その代りに、骨壺を貰って来たことも、皆、まだ真実ほんとうではないような気がしています。泣いても悔んでも、漆戸は生き帰ってはくれません。
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)