目敏めざと)” の例文
夜更よなか目敏めざとい母親の跫音あしおとが、夫婦の寝室ねまの外の縁側に聞えたり、未明ひきあけに板戸を引あけている、いらいらしい声が聞えたりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
勘次かんじは一にち仕事しごとへてかへつてては目敏めざと卯平うへい茶碗ちやわん不審ふしんおもつてをけふたをとつてた。つひかれ卯平うへいふくろ發見はつけんした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
要監視人ようかんしにん通告書」という紙がっていて、そこに、「間諜かんちょうフン大尉の件」という見出しのついていたのを、目敏めざとく読みとった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
勇士は霜の気勢けはいを知るとさ——たださえ目敏めざと老人としよりが、この風だから寝苦しがって、フト起きてでもいるとならない、祝儀は置いた。帰るぜ。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや、ひじをどうなすって? 怪我をなすっていらっしゃるじゃァありませんか」折江は目敏めざとく、良人おっとの肘の下が蚯蚓腫みみずばれになっているのを見付けた。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「一と間置いてこの私が寢てゐる。尤も年が若いから私もあまり目敏めざとい方ではないが、——この樣子だと寢首を掻かれるのも知らずにゐるかも知れぬて」
女は恐そうに男の眼が異様に輝くのを眺めながら、おどおどと言って、男が承諾するかどうかを目敏めざとく読んだ。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
目敏めざとく見付けた乳母は、「さあ、やつと宵の明星さまがお手を触れて下さいました」といつて、ふうはりかの女を抱き取つて家へ入り、深々と寝床に沈めてれた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
目敏めざとい将軍家は直ぐにそれに気がいたが、何喰はぬ顔をして、伊豆の素振そぶりを見てゐた。
目敏めざとい新聞記者連に取り巻かれそうになりましたので、慌てて馬車を引返して、ちょうどお宅に面しております未決監の、まかない部屋の勝手口から命からがら逃げ込む始末で御座いました。
霊感! (新字新仮名) / 夢野久作(著)
菜のたぐいの花を着けているからその類のものだろうと、別に食べる気でも食べさせる気でも無かったが、真鍮刀でその一茎を切って手にして一行のところへもどって来ると、鼠股引は目敏めざとくも
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
冬が近くて、天山はもうまっ白になり、くわが黄いろにれてカサカサちましたころ、ある日のこと、童子がにわかに帰っておいでです。母さまがまどから目敏めざと見付みつけて出て行かれました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
静子が目敏めざとく見つけて、ためらっている彼の意識から「遠慮」をはぎとってしまった。彼は微笑して尾沢に会釈した。一つの火鉢を中心に、尾沢と静子ともう二人見知らぬ青年が坐っていた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
僕が前の縁先に立つと奥に居たお祖母ばあさんが、目敏めざとく見つけて出てくる。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
足早に出て行く主人の姿を、二疋の犬は目敏めざとくも認めて追駆けた。びたのこぎり桑剪くはきばさみとをかたげた彼が、二疋の犬を従へて、一種得意げに再び庭へ現れたのは、五分とは経たないうちであつた。
僕は帰りにほこりだらけの茶の間を爪先つまさきで通り抜けて玄関へ出た。その時ついでに二人の寝ている座敷を蚊帳越かやごしにのぞいて見たら、目敏めざとい母も昨日きのうの汽車の疲が出たせいか、まだ静かなねむりむさぼっていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
瑠璃子夫人は、さすが目敏めざとく彼を見ると、ぐ立ち上った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
と奥さんは目敏めざとく銀二郎君の微笑を見つけた。
心のアンテナ (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
お桐は目敏めざとく之を見付けて
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
それでも瀬を造って、低い処へ落ちる中に、流れて来たものがある、勇美子が目敏めざとく見て、腕捲うでまくりをして採上げたのは、不思議の花であった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いてえのか」おつぎは目敏めざとくそれをこゝろもとなげにいつた。おつぎはやつれてしづんだ卯平うへいそばると、つひ自分じぶんしづんでしまつてたゞ凝然ぢつすくんだやうにつてるよりほかはなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あんな大穴を開けるのを、目敏めざといのが自慢の私が知らないはずはありません
いつも目敏めざとくマユミを監視して、一知に聞えよがしに訓戒した。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
猿のやうに目敏めざとい家光は、それを見免みのがさなかつた。
高縁へ腰をにじって、爪尖下つまさきさがりに草鞋わらじの足を、左の膝へもたせ掛けると、目敏めざとく貴婦人が気を着けて
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目敏めざといのが自慢の私が知らない筈はありません
が子目敏めざときふるまひぞ。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
たしかに、カチリと、かんざしの落ちた音。お拾いなすった間もなかったがと、御老体はお目敏めざとい。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
目敏めざとそうな人物が、と驚いて手をかざすと、すすきの穂をゆすぶるように、すやすやと呼吸いきがある。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この犬、一挙一動よく主婦のこころを知る、今その座を立ったのを見ててっきり二階へあがるのだと目敏めざとく先へ立って飛出したのであるが、段を六ツばかり駈上ると、振返って猶予ためらって待っている風情。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)