生暖なまぬる)” の例文
そして、その病室全体が、急に生暖なまぬるく歪んで来ると、ほろりと熱い泪が、目のふちの繃帯に吸い込まれて、あたりがパッと暗くなった。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そこから暗く生暖なまぬるい、まるで何かの胎内ででもあるかのような——それでいて、妙にあかみを帯びた闇が始まっていた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
霜月しもつき末頃すゑごろである。一晩ひとばん陽氣違やうきちがひの生暖なまぬるかぜいて、むつとくもして、火鉢ひばちそばだと半纏はんてんぎたいまでに、惡汗わるあせにじむやうな、その暮方くれがただつた。
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おまけに、竃の上にかまけてあって、湯がたぎらしてあるせいか、妙にその臭いが生暖なまぬるくたゞよって来る。
何の抑揚もなく、丁度生暖なまぬるい葛湯を飲む様に只妙にネバネバする声と言葉で、三度も四度も繰かえされてはどんな辛棒の良いものでもその人が無神経でない限り腹を立てるに違いない。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
もはやそんな生暖なまぬるい想像はくつがえされるべきことであろう。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
生暖なまぬるい、かぜあたつて、が、ぐら/\としましたつけ……産所さんじよたふれてしまひました。嬰兒あかんぼんでうまれたんです。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
て、よくはわからぬ、其処等そこらふか、ほこらふか、こゑつたへる生暖なまぬる夜風よかぜもサテぼやけたが、……かへみちなれば引返ひきかへして、うか/\と漫歩行そゞろあるきのきびすかへす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
生暖なまぬるい、なまぐさい、いやにつめたく、かび臭い風が、さっと渡ると、こぼすやうに月前げつぜん灰汁あくかかつた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たにそこにもちないで、ふわりと便たよりのないところに、土器色かはらけいろして、なはてあぜばうあかるいのに、ねばつた、生暖なまぬる小糠雨こぬかあめが、つきうへからともなく、したからともなく、しつとりと
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
室内しつない一面いちめん濛々もう/\としたうへへ、あくどい黄味きみびたのが、生暖なまぬるつくつて、むく/\あわくやうに、……獅噛面しかみづら切齒くひしばつた窓々まど/\の、隙間すきま隙間すきま天井てんじやう廂合ひあはひから流込ながれこむ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
肩と鳩尾みずおちに手を懸けて後抱うろろだきに引起す、腕を伝うて生暖なまぬるきもの、たらたらたら。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
室内に籠りたる生暖なまぬるき風むんむとおもてちて不快こころわるきこといわん方無し。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さつとおとして、やなぎ地摺ぢずりに枝垂しだれたが、すそからうづいてくろわたつて、れるとおもふと、湯氣ゆげしたやうな生暖なまぬるかぜながれるやうに、ぬら/\と吹掛ふきかゝつて、どつくさあふつてつたが、すそ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)