瀬戸物せともの)” の例文
にわかに二階で、瀬戸物せとものをひっくりかえしたようなガチャンガチャンという物音が聞えてきました。つづいてドーンと床をころがるような音がします。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あちこちに大きな瀬戸物せとものの工場や製糸場ができました。そこらの畑や田はずんずんつぶれて家がたちました。いつかすっかり町になってしまったのです。
虔十公園林 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
クロの行方ゆくえを知るよしもないので、瀬戸物せともののかけらに御洗水みたらし清水しみずをすくってきて、この床下ゆかしたへ身をひそめ、ただ一ねんにいのり、一念に目を洗っているのだった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皇帝の住んでいる御殿ごてんは、世界でいちばんりっぱな御殿でした。なにもかもが、りっぱな瀬戸物せともので作られていました。それには、ずいぶんお金がかかっていました。
同じように瀬戸という一個の固有名詞は「瀬戸物せともの」という普通名詞に転じている。「唐津からつ」というのも、その土地を知らない人には焼物との意よりほかないであろう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
といいかけて、出家は瀬戸物せとものの火鉢を、えんの方へ少しずらして、俯向うつむいて手で畳を仕切った。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ただし日本では今一つ、同じ変化を助け促した瀬戸物せとものというものの力があった。白木しらきわんはひずみゆがみ、使い初めた日からもう汚れていて、水ですすぐのも気休めにすぎなかった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
敬太郎けいたろうは下宿の門口かどぐちくぐるとき何より先にまずこの洋杖に眼をつけた。というよりもみちすがらの聯想が、硝子戸ガラスどを開けるや否や、彼の眼を瀬戸物せともの傘入かさいれの方へ引きつけたのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さればおみせ旦那だんなとてもとゝさんかゝさんをも粗略そりやくにはあそばさず、常々つね/\大切たいせつがりてとこにおへなされし瀬戸物せともの大黒樣たいこくさまをば、れいつぞや坐敷ざしきなかにて羽根はねつくとてさわぎしとき
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
庭先にわさきのつちなかに、おおぶりな瀬戸物せともの金魚鉢きんぎょばちが、ふちのところまでいけこんであつて、そのはちのそばで、セルの和服わふく片足かたあしにだけ庭下駄にわげたをつつかけた人間にんげん死体したいが、べたにいつくばつている。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
せいするの時節じせつ到來たうらいなし目もあてられぬ有樣にてなはつきの儘白洲しらす中央ちうあう引据ひきすゑられたり次に久八並びに小手塚三次又神田三河町二丁目家持いへもちしち兩替りやうがへ渡世とせい伊勢屋五兵衞富澤町の古着ふるぎ渡世とせい甲州屋吉兵衞新吉原江戸町二丁目丁字屋半藏代文七右半藏かゝ遊女いうぢよ文事丁山同人どうにん妹富こと小夜衣石町二丁目甚藏店六右衞門麹町三丁目瀬戸物せともの渡世とせい忠兵衞ならびに同人妻富右町役人共一同御呼出およびだしと相成り右一件願ひ人赤坂傳馬町二丁目長助店道十郎後家みつせがれ道之助右光店請人たなうけにん同所清右衞門右家主長助すべかゝり合の者のこらずにて廿有餘人呼出しに相成さて大岡越前守殿千太郎父吉兵衞養父五兵衞兩人の名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
赤耀館の大時計がにぶい音響をたてて、四時を報ずると、兄の居間にあたって突然奇妙な声がきこえ、それに続いて瀬戸物せともののこわれるような鋭い音がしました。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その白いいわになったところの入口に、〔プリオシン海岸かいがん〕という、瀬戸物せともののつるつるした標札ひょうさつが立って、向こうのなぎさには、ところどころ、ほそてつ欄干らんかんえられ
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
平たい敷石しきいしをしいた屋根の上に——そこの欄干らんかん瀬戸物せとものでできているように見えます——白い大きな風鈴草ふうりんそうをさした、きれいな花瓶かびんが置いてありましたが、そのそばに美しいペーが
この真田伊賀守さなだいがのかみの領土では、繭糸一揆まゆいといっきだの、千曲川ちくまがわの運上騒動だの、また、領主がお庭焼の陶器にって、莫大な費用の出所を、百姓の苛税かぜいに求めたので起った須坂の瀬戸物せともの一揆だのと
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
瀬戸物せとものぼたんいた白木綿しろもめん襯衣しやつて、手織ておりこは布子ぬのこえりから財布さいふひもたやうななが丸打まるうちけた樣子やうすは、滅多めつた東京とうきやうなど機會きくわいのないとほやまくにのものとしかれなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
今日の小さな白い瀬戸物せともののチョクなるものは、つまりこの「めいめい盃」のさらに進化したもので、勿論二百年前の酒飲みたちの、夢にも想像しなかった便利な器だが、一方そのために酒の飲み方が
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
〔プリオシン海岸〕という、瀬戸物せともののつるつるした標札が立って、向うの渚には、ところどころ、細い鉄の欄干らんかんも植えられ、木製のきれいなベンチも置いてありました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)