流暢りゅうちょう)” の例文
いずれは海外の勤務からでも帰って来たのであろう、軽薄そうな三十二、三の社員が言うのであった。もちろん流暢りゅうちょうな英語であった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
併し家持は少年にして斯く流暢りゅうちょうな歌調を実行し得たのであるから、歌が好きで、先輩の作や古歌の数々を勉強していたものであろう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
なお、くどく言えば、その流暢りゅうちょうな日本語の技倆に驚かされたのではない、その言葉を操る口元と、かおを見て、あっと動揺したのです。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
豚は語学も余程よほど進んでいたのだし、又実際豚の舌はやわらかで素質も充分あったのでごく流暢りゅうちょうな人間語で、しずかに校長に挨拶あいさつした。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
何年何月何日にどうしたこうしたとあたかも口からまかせに喋舌しゃべっているようである。しかもその流暢りゅうちょうな弁舌に抑揚があり節奏せっそうがある。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
知らない外国語を流暢りゅうちょうに喋る——そんなことがと、一時は耳を疑いながらまえへ廻って、座間はマヌエラをじっと見つめはじめた。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「規矩男さんは、なかなかしっかりしていらっしゃいますね」と云って、あまり早く問題を提議したような流暢りゅうちょうでない気持がした。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「深く聞くことは存じませぬが、ただわけもなく好きなのでございます」お綱は自分でも気がつかない間に少し流暢りゅうちょうになりながら
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老医師の口から、ちょうど滑らかな物の上を水の玉が徐々にべり落ちでもするかのようにいかにも流暢りゅうちょうに流れ出るのであった。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
身心流暢りゅうちょうして苦学もまた楽しく、したがって教えしたがって学び、学業の上達すること、世人の望外ぼうがいに出ず。その得、三なり。
大抵胃の工合ぐあいの悪いときであるらしいが、そういう夢の中ではきまって非常に流暢りゅうちょうにドイツ語がしゃべれるのが不思議である。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
円味まるみを帯びた柔かな声で流暢りゅうちょうにリーダーを読みおわった先生は、黒い閻魔帳えんまちょうをひらいて、鉛筆でそっと名列の上をさぐっている。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
H. G. Wells が、流暢りゅうちょうな、直接な文章を書く人として知られて居るらしいが、種類に於て、まるで異うと思う。
わしは薄気味悪くなって、その場を立去ろうと思っていると、賊はじっとわしを見つめたまま、突然太い声で、しかも流暢りゅうちょうな日本語で叫んだ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
流暢りゅうちょうな東京弁で一気にまくし立てられるばかりか、その隼のような、じっと見据えられる眼に出遇っては、儀作はもはや一言も口がきけなかった。
荒蕪地 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
相更あいかわらずベンケイの応対は旨いもので、流暢りゅうちょうな日本語でやっている。一本気で、ぷんぷん怒っている師匠もを折って
かの青年は、鉛筆を受け取ると、それを不思議そうに一べつして後、なんの躊躇もなく、木片の上に流暢りゅうちょうに書き始めた。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
蕪村の文章流暢りゅうちょうにして姿致しちあり。水の低きにくが如く停滞する所なし。恨むらくは彼は一篇の文章だも純粋の美文として見るべき者を作らざりき。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
流暢りゅうちょうさの代りに、絶対に人に疑をいだかせぬ重厚さを備え、諧謔かいぎゃくの代りに、含蓄がんちくに富む譬喩ひゆつその弁は、何人なんぴとといえども逆らうことの出来ぬものだ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
あたかもころがるようになめらかで流暢りゅうちょうであって、これを読むものの心持をしてたのしく快くさせるものである。
もしこの言葉と同じ意味の事柄を流暢りゅうちょうな東京弁か、本当の大阪や京都弁で、ある表情を含めて申上げたら、男は直ちに柔順に承諾するであろうと考える。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
すると美しい看護婦は、いくらか安心したようにほのかの微笑を浮かべ乍ら威厳のある外人の顔を見た。と外人も微笑を浮かべ、流暢りゅうちょうの日本語で、斯う云った。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
室内は寂然ひっそりした。彼の言は、明晰めいせきに、口きっしつつも流暢りゅうちょう沈着であった。この独白に対して、汽車のとどろきは、一種のオオケストラを聞くがごときものであった。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中国語に堪能な岸隊長は、船員たちのかおをぐっとにらみつけながら、流暢りゅうちょうな言葉で、臨検の挨拶をのべた。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大概な女たちが植民地英語しかしゃべれない中で彼女一人が正確な英語を、それも殊更ことさらむずかしい単語や云い廻しを使い、仏蘭西フランス語も独逸ドイツ語も流暢りゅうちょうに話した。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「おやおや、お菓子、もうなんにも無いですね……」と割に流暢りゅうちょうな日本語で店の売子に言葉を掛けながら、私の手を出しかねていたバウム・クウヘンを指して
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
音楽的な声がそれに配せられる楽器と結合して、その流暢りゅうちょうな各節に音楽の夢想と愁訴との反響を慎み深く混和してる、新しい一種類をつくり出すのが主眼である。
いくらか、巻き舌の、流暢りゅうちょうなフランス語で原書の講義をやっていた外人教師が、不意に私の方をみて
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
マッカレーは全然日本語に通じないようで、其の日本紳士は流暢りゅうちょうなる英語で通訳したそうである。
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
みちを行けば、美しい今様いまようの細君を連れてのむつまじい散歩、友を訪えば夫の席に出て流暢りゅうちょうに会話をにぎやかす若い細君、ましてその身が骨を折って書いた小説を読もうでもなく
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
二人が見物に対して丁重な敬礼を終ると、ナイン嬢が流暢りゅうちょうな英語での意味の事を述べた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、すこししゃがれた声で、流暢りゅうちょうにきいた。そっちを見ると、いぜんここに家があったじぶん、花畑になっていたらしい一角に、小さな赤黒いさびしげな花が、二、三本あった。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
最初に先生は、当の患者を連れて来て、一通りその病歴を御話しになり、子宮繊維腫と診断なさった理由を、いつもの通りの、歯切れのよい、流暢りゅうちょうな言葉で御述べになりました。
手術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
心の要求が言葉をつくった。然し今は物がそれを占有する。どもる事なしには私達は自分の心を語る事が出来ない。恋人の耳にささやかれる言葉はいつでも流暢りゅうちょうであるためしがない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
女の流暢りゅうちょうな言葉は上手の演説よりもなだらかにすべり出て、息をも継がせない勢であった。
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
流暢りゅうちょうさと身のしまりがなくなり、妙にだらしがなくなって、何か事を始めても、前後がすっかり食い違い、すべてが投げやりになって、いよいよ頻繁に深酒に浸るようになった。
団十郎の口の重いのに引きかえて、彼は極めて流暢りゅうちょうな江戸弁でそれからそれへと休みなしに話しつづけた。その愛嬌あいきょうに富んだ眼を絶えず働かせているのも、わたしの注意をひいた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
にや女史がその流暢りゅうちょうの弁舌もて、滔々とうとう女権拡張の大義を唱道せられし時の如きしょうも奮慨おくあたわず、女史の滞在中有志家を以て任ずる人の夫人令嬢等にはかりて、女子懇親会を組織し
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
流暢りゅうちょうな東京言葉にもお別れ。横浜を過ぎる頃から車内がひっそりして来る。山北のあゆ寿司を英子さんが買う。半分ずつ食べる。英子さんの旦那さんは大工さんだが無類にいいひとなり。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
その故は何かというに『鶉衣』の思想文章ほど複雑にして蘊蓄うんちく深く典故てんこによるもの多きはない。それにもかかわらず読過其調の清明流暢りゅうちょうなる実にわが古今の文学中その類例を見ざるもの。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は先達せんだッて台湾に三月ばかり行ッていて、十日前に京都へ帰ッて、外国人に会ッて英語をしゃべるのに、平生でもそう流暢りゅうちょうにしゃべるのではないが、ことにしゃべりにくかッた、そんなもので
人格の養成 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
と代表者が流暢りゅうちょうに話す。……のところは分らない。以下すべて精神訳にする。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それで『源氏物語』を見てとてもこういう流暢りゅうちょうなる文は書けないと思い、マコーレーの文を見てとてもこれを学ぶことはできぬと考え、山陽の文を見てとてもこういうものは書けないと思い
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そうなると、恋愛小説の会話もどきの、あれほど流暢りゅうちょうな都会弁も、すっかり田舎訛いなかなまき出しになって、お品の悪い言葉も薄いくちびるいて、それからそれへと果てしもなく連続するのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
手塚は流暢りゅうちょうにあやまった。がすぐ思いだしたようにいった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
すると、チャン君は、流暢りゅうちょうな日本語で、僕にそっと話かけた。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
むろん野々宮はこう流暢りゅうちょうには頼まなかったが、相手の三四郎が、そう流暢に頼まれる必要のない男だから、すぐ承知してしまった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お雪になかなかの読書力があって、読み方が流暢りゅうちょうなものですから、竜之助も引入れられて、こころよい心持で聞いていました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
流暢りゅうちょうで構梁のたしかな肩の頂面に、つんもり扇形の肉が首の附根の背後へ上り、そこから青白く微紅を帯びたくびもたげられた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
私はこの生意気千万な外国あちら帰りの流暢りゅうちょう英語へ臆面もなく昔寝床の中で独学した英語で聞いてくれた。見よ見よ! であった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)