法度はっと)” の例文
村では法度はっとまで出してこのしきたりを厳しく守り続けているといいます。地方に見られる日本の風俗として、美しいものの一つです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
……この娘にだって、御邸内では法度はっとでも、外には、許嫁いいなずけか、好きな男くらいはあるだろう。人にかくして書くふみもあろうじゃないか
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「情状不憫ふびんにも思うが、天下のご法度はっとをまげることは相成らぬ。遠島申しつけられるよう上へ上申するから、さよう心得ろ!」
だが、其氏神祭りや、祭りの後宴ごえんに、大勢の氏人の集ることは、とりわけやかましく言われて来た、三四年以来の法度はっとである。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
そして、わざと自転車の前に法度はっとする子どもさえあった。そんなことがたびかさなると、その日家へ帰ったときの先生は、お母さんにこぼした。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
松倉勢まつくらぜいの敗報が、頻々と伝えられる。しかし、藩主忠利侯ただとしこうは在府中である上に、みだりに援兵を送ることは、武家法度はっとの固く禁ずるところであった。
恩を返す話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
平民殿様はすっかり下々のことを呑込のみこんでおります。「不義は御家のきつ法度はっと」などは、この御殿では通用しません。
「古傷に触れるはよくないこと、拙者としても本意でござらぬ、しかしこれとて止むを得ぬ儀、構わず卒直に申し上げる。……館の法度はっとを破られたそうで?」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
浪人共を召抱えても法度はっと厳正に之を取締れば差支無いが、元来地盤が固く無い処へ安普請をしたように、規模が立たんで家風家法が確立して居ないところへ
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
室子の家の商品の鼈甲は始め、玳瑁たいまいと呼ばれていた。徳川、天保の改革に幕府から厳しい奢侈しゃし禁止令が出て女の髪飾りにもいわゆる金銀玳瑁はご法度はっとであった。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
つまり、二人以上の重量が法度はっとで、それが加わると、松毬コーンの頂飾が開いて、この粉末が溢れ出すのだよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「とにかく殺生禁断はいい」主馬が酔ったような声で、「こういう家があり、いつでも安心して肉が食えるのは、あの法度はっとのおかげだからね、……なにか云うんだ」
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこに、道有り、作法有り、不義は御家の法度はっととやら、万一そういうことがしったい致しました時には、憚りながら、ぽんぽんながら、この良庵が捨ておきませぬ。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
お家の法度はっとを破って男をこしらえて、逐電ちくでんした不届き至極な奴め、眼に入り次第成敗いたしてくれん! とたけりたつようなことばかり並べたてて、表面をつくろっていました。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
秀吉が奥州を「大しゆ」と書きしことさへ思ひ出されてなつかし、蕪村の磊落らいらくにして法度はっと拘泥こうでいせざりし事この類なり。彼は俳人が家集を出版することをさへいとへり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「我が日の本の魂が、り固まったる三尺の秋水しゅうすい。天下法度はっと切支丹きりしたんの邪法、いで真二まっぷたつに……」
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なにしろ通貨をあつかう場所なので、金局の平役以下、手伝い、小役人、吹所の棟梁、手伝い、職人らはみな金座地内の長屋にすみ、節季せっきのほかは門外に出ることは法度はっと
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この小さな日本を六十幾つにしきって、ちょっと隣へ往くにも関所があり、税関があり、人間と人間の間には階級があり格式があり分限ぶんげんがあり、法度はっとでしばって、習慣で固めて
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
あたかもおやかた法度はっとを犯して裏庭から御台みだいのおなさけで落ちてくように、腕車くるまで歌枕に送られたが、後を知らず、顔色も悪く未明に起きると、帯を取って、小取廻ことりまわしさきを渡して
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天下御法度はっとの現金輸送という奴で、紙幣のまま封込ふうじこんだ添手紙が新聞社宛に托される。
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
大略公園地の法度はっとに準じ、賦金ふきんまたは有志の寄附金等をもって、都会の地ごとに壮麗・宏雄なる公堂を建築し、衆庶公楽のところとなし、かみ (ママ)皇上よりしもは平民に至るまで
国楽を振興すべきの説 (新字新仮名) / 神田孝平(著)
角町や○○町は銀行不首尾以来お法度はっとになっている。お父さんを見送りに行った帰りも、卓造君が一緒だったので漸く日のある中にお神輿を上げたくらいだから、常に警戒を要する。
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
蔭間は法度はっとになっているが、そこは裏があって、吉町へ行けば、古川に水絶えずで、いくらでも呼んで遊べる、ことに、この金筒のお倉婆あ、その方に最もつてがあるとのことだから
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは国際法から見て局外中立の法度はっとを破るものであるから、敵視せらるるに至ることはもちろんである、万一、これを破るものは軍法によって捕虜とせられ、その積み荷は没収せられ
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ロミオ 其樣そのやうまづしうあさましうくらしてゐても、おぬしぬるのがおそろしいか? うゑほゝに、逼迫ひっぱくに、侮辱ぶじょく貧窮ひんきうかゝってある。無情つれなこの浮世うきよ法度はっとはあっても、つゆおぬしためにはならぬ。
利欲の誘いにかかれば、法度はっとも暴風雨も、ものの数ではなかったのである。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
勿論、武家法度はっとのうちにも武士は歌舞伎を見るべからずという個条はないようですが、それでも自然にそういう習慣が出来てしまって、武士は先ずそういう場所へ立寄らないことになっている。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
優婉ゆうえんで、美しい。「掟きびしき白玉の、露にも濡れしことはなく」——色恋を法度はっととして遮断されていた初心うぶな御殿女中が、はじめて知った男への恋慕のきびしさに、とりのぼせる所作事しょさごとらしい。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
七月、タバコ法度はっと之事、いよいよ禁ト云々、火事其外ツイエアル故也。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
「そうじゃありませんがね。ここではお茶漬はご法度はっとなんですよ」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「めッそうもない。沙門しゃもんのお方に酒を売るのは御本山の法度はっとなんで、そんなことしたら、てまえはこの土地に住めなくなります」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとより直訴は天下のご法度はっと沸然ふつぜんとしてわきたったのは当然なことです。声が飛び、人が飛んで、訴人はたちまち近侍の者たちが高手小手。
その左門を、自分が、父の敵として討つということは、ご法度はっとの、「又敵討ち」になろうではあるまいか
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
治部少輔しょうゆうの旧直領として厳しい御詮議だったというから、新領主の法度はっとは重いものに、違いない、家や田畑はどうなったろう、母や妻はどんな身の上に落ちたろうか
蜆谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ウム、玄々斎を当ってみよう。死相を占うのは法度はっとだ、構わないからうんと脅かしてみるがいい」
天正十八年末、徳川幕府は全国に亙って切利支丹、法度はっとたるべき禁令をいた。これより宗門の徒の迫害を受けること甚だしく、幾多の殉教哀史をとどめて居ること世人の知るが如くである。
島原の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
綱吉が武家法度はっと十五ヶ条で大名旗本が遊里に入ることを禁じてから、吉原で大名の姿を見かけたのは、五十年以来のことだったばかりでなく、取巻きの原武太夫以下、はらやの小八こはち、湯屋の五平
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そうなると、これからの時勢は、右の不言実行の法度はっとが厳しくなる!
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ならば、ひんまもるにもおよばぬ。法度はっとをかしてこれりゃれ。
「すると先ずお法度はっとですな?」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そうでなくとも、ああいう他国者の渡り芸人たちゃ仲間のしめしもきびしいが、うちわどうしの成敗法度はっともきびしいんだ。
むかし南陽の張津ちょうしんは、交州の太守となりながら、漢朝の法度はっとを用いず、聖訓をみな捨ててしまった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「間抜けだな、——不義はお家のきつい法度はっとだ、社内で変なことをすると、容赦もなく首だよ」
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
以上はおもなもので、他にも三十余カ条にわたる禁令法度はっとが列記されている。
「友食いばかりはご法度はっとだよ」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
主人が一つ一つの桐箱きりばこに入念な封印をほどこし御用倉へ厳重に納めてしまいましたゆえ、心はあせっても手が出せず、何をいうにも不義はお家の法度はっと
先頃、この魯粛を伴うて、暗夜、ひそかに江をさかのぼり、北岸の敵陣をうかがいみるに、水陸の聯鎖れんさも完く、兵船の配列、水寨すいさいの構築など、実に法度はっとによくかなっている。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしおみのに云われてみると、そういう法度はっとがあったようにも思えた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この始末は「寛政重修諸家譜かんせいちょうしゅうしょかふならびに「二川随筆ふたかわずいひつ」に詳しく見えましたが、私のあらそいは厳重な法度はっとで、長坂家は断絶、井上外記の子半十郎正景、稲富喜太夫の子喜三郎直久きさぶろうなおひさは、共に士籍を削って追放
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
長崎ながさき表に根城を構えて、遠くは呂宋るそん天竺てんじくあたりまでへもご法度はっとの密貿易におもむく卍組まんじぐみの一味にござりました。