永劫えいごう)” の例文
貴方は、たぶんその符合を無限記号のように解釈して、永劫えいごう悪霊の棲む涙の谷——とくらいに、この事件を信じておられるでしょう。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
睡蓮はその淋しいところで互いに溜息をつきあい、長いものすごい頸を天の方へのばし、永劫えいごうの頭をあちこちとうなずかせている。
蜉蝣かげろう生涯しょうがい永劫えいごうであり国民の歴史も刹那せつなの現象であるとすれば、どうして私はこの活動映画からこんなに強い衝動を感じたのだろう。
春六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
東郷家には、五郎左衛門の死後、何の沙汰もなく、もちろん八雲の縁ぐみ届けも、そのまま永劫えいごうに闇から闇への運命になっている。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
既にかく鎖国と決する上は、和の一字は、永劫えいごう未来、御用部屋に封禁して、再び口外するなかれ。満坐の方も果してその覚悟あるや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その地獄絵巻の実在を、自分の死によって裏書きして、小生等を仏教の所謂いわゆる永劫えいごうの戦慄、恐怖の無間地獄に突き落すべく……。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「愚かな申し条じゃオースチン老師! 誠に大砲の鋳造法を我に教えぬとあるからは、未来永劫えいごうこの城から一歩も他へは出しませぬぞ!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして原因結果の規則は未来永劫えいごうに続くものである。いわゆる種が実となり実が種となってどこまでも継続して行くものである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
永劫えいごうのむかしより無窮の未来へ向けて流れる光の河に身を浸しあなたさまと同じ息づかいで、生命の虹を吸うので御座います。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
恐るべき永劫えいごうが私の周囲にはある。永劫は恐ろしい。或る時には氷のように冷やかな、凝然としてよどみわたった或るものとして私にせまる。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これはわざと尊大そんだいぶってしたことか、たぶん、しんまいの影を、永劫えいごうじぶんに頭のあがらぬものにしておくつもりか、どちらかなのでしょう。
そこに集まっている者はすべてが、永劫えいごうの昔から、無限の未来まで、そこで寝ころんででもいるというような感じを与えた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
永劫えいごうの罰を被って焦熱地獄の中にありながら突然出口を認めた魂にして始めて、その時ジャン・ヴァルジャンが感じた心地を知り得るだろう。
かくて人生は永劫えいごうの戦場である。個人が社会と戦い、青年が老人と戦い、進取と自由が保守と執着に組みつき、新らしき者が旧き者としのぎけずる。
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
そして、寺に帰った和尚は、本堂の前を深く掘らせて、の鉄鉢を埋めさし、永劫えいごうあいだ世に出ることをいましめたのであった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
君が片身と残したまえるわが命こそ仇なれ。情ある羅馬の神に祈る。——われを隠したまえ。恥見えぬ墓の底に、君とわれを永劫えいごうに隠したまえ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
和尚は道成寺へお帰りになると、本堂の前をふかく掘らせて、鉄鉢をそのまま埋めさせ、未来永劫えいごう、この蛇が世に出ることをかたく禁じられた。
ただ、青い海に浮んだ白い大都市が、燦然さんぜんと、迫ってきた、あの感じが、いつもぼくに、ある永劫えいごうのものへの旅を誘います。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「じゃア勝手にしろ」という気になったのではあるまいか? それなら、僕から行かなければ永劫えいごうに会えるはずはない。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
永劫えいごう暗黒やみほうむり去られることになった——とこういう因果話のはしはしが、お露の亡霊からいつ果てるともなく、壁へ向ってつぶやかれるのであった。
さし代ッたなりに同じ話柄はなしの種類のかわッたのが、後からも後からも出て来て、未来永劫えいごう尽きる期がないらしく見えた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
その姉がもはやあのとおり年寄りになったのに、この一月までも達者でおられた父さえ今は永劫えいごうにいなくなられた。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
彼は大地のうずたかい堆積や限なき永劫えいごうよりも一瞬の間にせよ闇黒の深さを破って輝く星の光を愛することを知っている。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
般若の宗教、それは断じて、ほろびた過去の宗教ではないのです。昔も今も、今日も明日も、いや未来永劫えいごうに光り輝く、人生の一大燈明なのであります。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「ああ、七年添寝をしていたあの肉体からだは、もう知らぬ間に他の男の自由になっていたのだ。ああもう未来永劫えいごう取返しのつかぬ肉体になっていたのか!」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それでも彼女は、それを彼らに恨まず、だれにも恨まず、神から永劫えいごうの罰を受けたそれらの不幸な人々にたいして、憐憫れんびんの情でいっぱいになっていた。
いとしい人の美しい幻影に打ちかされ、永劫えいごうの迷いを抱きつゝ死んで行ったのであろうと、考えるより外はない。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かのインフェルノの煉獄の永劫えいごう呵責かしゃくの相伴者として描き出されたものであることを、想いおこされるのであった。
曲り曲った果しも知らぬ夢の細道、行っても行っても永劫えいごうに尽きることなき狂気の細道、折枝はふと怖くなった。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その水一つ隔てた高い土手のかなたの大江戸城を永劫えいごうに護らせんために、副将軍定府の権限と三十五万石を与えてここに葵柱石あおいちゅうせきの屋敷をも構えさせたのに
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
金二十銭也のことで、天下の三井財閥にお金を貸してあると、未来永劫えいごう威張ることが出来るとしたら、これは、返してもらわない方がよっぽどありがたい。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
つまり、そこには人々の寄進にかかるたくさんの聖像があって、その前にはやはり寄進にかかる燈明が、永劫えいごうに消ゆることなくともされていたからであった。
未来永劫えいごう、日本の国の政治の権力が、徳川の手にあるべきはずもなく、あらしめねばならぬ名分もないのだ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たとい餓え死に寒え死にするにしても仏教に随って死ぬのはこれ永劫えいごうの歓びである(随聞記第一、第三)。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
すべて汝らのやからに属するものことごとく来たってわが呪いに名をしょせよ。わしは今わしの魂魄こんぱく永劫えいごうに汝らの手に渡すぞ。おゝ清盛よ。奈落ならくの底で待っているぞ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
かかるものなくして、永劫えいごうな美に繋がれる機縁がどこにあろうか。協団は活ける力であって、死せる概念ではない。私はこれを一つの着想において説くのではない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
何故に無銘であったか? それは実に「永劫えいごうの社会的処罰」を受けた者の墓碑であったからである。
レ・ミゼラブル:01 序 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
日や聖霊に感じてはらんだり脇腹から生んだりする奇蹟は男の方の永劫えいごう出来ない芸ではありませんか。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
ファルスとは、否定をも肯定し、肯定をも肯定し、さらに又肯定し、結局人間に関する限りの全てを永遠に永劫えいごうに永久に肯定肯定肯定して止むまいとするものである。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
彼は永劫えいごう瞥見べっけんするけれども、目には舌なく、言葉をもってその喜びを声に表わすことはできない。彼の精神は、物質の束縛を脱して、物のリズムによって動いている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
その時、尼うらんで永劫えいごうここの男が妻に先立って若死するようとのろうて絶命した。そこを比丘尼はぎという。その後果して竜神の家つねに夫は早世し、後家世帯が通例となる。
長崎屋から、くわしゅう聴いているらしいが、そなたが思いのままに腕を振ってくれさえすれば、未来永劫えいごう、この二人で、そなたの一生のうしろ見は必ずして上げますぞ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
かえって伝説化された彼女らの面影は、永劫えいごうにわたって人間生活に夢と詩とを寄与きよしている。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
然らば浮世絵は永遠に日本なる太平洋上の島嶼に生るるものの感情に対して必ず親密なる私語ささやきを伝ふる処あるべきなり。浮世絵の生命は実に日本の風土と共に永劫えいごうなるべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「身どもら、不運にして、先祖の地をまもるあたわず、すなわち、棄てて蝦夷地にはしる、されば、生命ある限り二度と再び立ち戻るを得ず、つつしんで永劫えいごう袂別けつべつをもうす」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
………恋とは夢だ。……「夢」とはまったき放心だ。その正しい極限では一切が虚無となる。一切が存在しなくなる。それは未来永劫えいごうを一瞬に定着する詩人の凝視を形成する場所だ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
わたしゃ影でもいといはせぬと、すがるおとせをまた抱きしめて、女房にょうぼ過分な、こうなる身にも、露の影とは、そなたの卑下よ、消ゆるわれらに永劫えいごう未来、たった一つの光はそなた。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
永劫えいごうにわたって夢に夢を見る。そのことはこの世界の本性にかなっている。いたずらにそんな夢想に溺れて出口を忘れているといわれてもやむをえない。出ることができれば出もしよう。
病気に対する恐怖——これは永劫えいごうに尽きないであろう。いかなる時代においても病気と犯罪は発心ほっしんの二大機縁である。薬師信仰を医術の発達せぬ時代の迷信と思っては間ちがいだ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
ほとんどそのこころを解し得まい※また人の老やすく、色の衰え易いことを忘れて、今の若さ、美しさは永劫えいごう続くように心得て未来の事などは全く思うまい、よし思ッたところで、華かな
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)