しひ)” の例文
かれがまだ故郷にゐた時、姉や友達につれられて、山へしひを拾ひに行つたことが度々あるが、その椎の實の味を思ひ出す樣な味がする。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
枳殼垣の外にはしひの樹が二三本、それは近所の洗濯物の干場に利用されてあります。表へ廻ると、直助とお辰はけろりとして迎へました。
また“まづたのむしひの木もあり夏木立”とみ、余生をここに息づいたのみか、大坂で病んで死んだが、遺言によって、遺骸も
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
へいからおつかぶさりました、おほきしひしたつて、半紙はんしりばかりの縱長たてながい——膏藥かうやくでせう——それ提灯ちやうちんうへかざして、はツはツ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しひの木はこのつつましさの為に我我の親しみを呼ぶのであらう。又この憂鬱な影の為に我我の浮薄ふはくを戒めるのであらう。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
如何なる亂暴な運命の力の爲めの支配よりも圭一郎が新しい住處をじ畏れたことは、崖上のしひの木立にかこまれてG師の會堂の尖塔が見えることなのだ。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
六月半ば、梅雨晴つゆばれの午前の光りを浴びてゐるしひの若葉のおもむきを、ありがたくしみ/″\とながめやつた。
椎の若葉 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
そうすれば、椎の小枝を折ってそれに飯を盛ったと解していいだろう。「片岡のこのむかしひ蒔かば今年の夏の陰になみむか」(巻七・一〇九九)もしいであろうか。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
本當ほんたう此處こゝちや毎日まいんちのやうにからおつこつたつち怪我人けがにんんだよまあ、しひからおつこつたのくりからおつこつたのつて、子供こども怪我けが大概てえげえさうなんだから、をとこつちや心配しんぺえさねえ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
立ち寄らんかげと頼みししひもとむなしき床になりにけるかな
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
庭のに月の光のありしときかへでの影もしひとありにし
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しひの落葉はつもりたり。
偏奇館吟草 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
うらの菜園さゑんしひの木に
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
五葉は黒ししひの木の
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
塀の内からはしひの大枝に飛び付くことなどは思ひも寄らないとなると、忍び込んだ曲者は、何處から逃げ出したか、平次も其處までは謎が解けません。
あんまりですから、主人あるじ引返ひつかへさうとしたときです……藥賣くすりうり坊主ばうずは、のない提灯ちやうちん高々たか/″\げて、しひ梢越こずゑごしに、大屋根おほやねでもるらしく、仰向あをむいて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しひの木の姿は美しい。幹や枝はどんな線にも大きい底力を示してゐる。その上枝をよろつた葉も鋼鉄のやうに光つてゐる。この葉は露霜つゆじもも落すことは出来ない。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いへにあればいひ草枕くさまくらたびにしあればしひる 〔巻二・一四二〕 有間皇子
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
もんが、また……貴方あなたおもてでもなければくゞりでもなくつて、土塀どべいへついて一𢌞ひとまは𢌞まはりました、おほきしひがあります、裏門うらもん木戸口きどぐちだつたとまをすんです。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
竹から竹を傳はつて枳殼垣からたちがきを越え、しひ滑降すべりおりて、下の往來に立つたのは、思ひも寄らぬ見事な體術です。
彼はひとり籐椅子に坐り、しひの若葉を眺めながら、度々死の彼に与へる平和を考へずにはゐられなかつた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しひ松浦まつうら」のあつた昔はしばらく問はず、「江戸の横網よこあみ鶯の鳴く」と北原白秋きたはらはくしう氏の歌つた本所ほんじよさへ今ではもう「歴史的大川端おほかははた」に変つてしまつたと言ふ外はない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「お孃さんの許婚の秋月勘三郎、お孃さんとの間を割かれて、氣が變になつて居ますよ。これは武藝も相當で、しひの木の上から槍の穗くらゐは飛ばし兼ねませんね」
外から覗くやうに冠さつたしひの木の大枝があつて、それを傳つて來れば少し身輕なものなら、外の往來から、樂々と塀の上の忍び返しを越せることがわかつたのです。
しひの木や銀杏いてふの中にあるのは、——夕ぐれ燈籠とうろうに火のともるのは、茶屋天然自笑軒てんねんじせうけん
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しひ わたしもそろそろをほごしませう。このちよいと鼠がかつた芽をね。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
土手の向うには土手が又一つあり、そこにはなかば枯れかかつたしひの木が一本ななめになつてゐた。あの機関車——3271号はムツソリニである。ムツソリニの走る軌道は或は光に満ちてゐるであらう。
機関車を見ながら (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
本所ほんじよ会館は震災ぜん安田家やすだけの跡に建つたのであらう。安田家は確か花崗石くわかうせきを使つたルネサンス式の建築だつた。僕はしひの木などの茂つた中にこの建築の立つてゐたのに明治時代そのものを感じてゐる。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しひの木
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)