曉方あけがた)” の例文
新字:暁方
曉方あけがたからの雨はひる少し過ぎにあがつた。庭は飛石だけ先づ乾いて、子供等の散らかした草花が生々としてゐる。池には鯉が跳ねる。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
今朝も曉方あけがたに歸つて來て、物置の梯子はしごから屋根へ飛付き、格子を外してそつと入つた事を話して了つた方が宜くはありませんか
曉方あけがたのはつきりした夢の中で私は彼女がソーンフィールドの門を私の前にめ、別の路に行けとゆびさしてゐるのを見た。
くも時雨しぐれ/\て、終日ひねもす終夜よもすがらつゞくこと二日ふつか三日みつか山陰やまかげちひさなあをつきかげ曉方あけがた、ぱら/\と初霰はつあられ
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
明日あしたは歸れまい、明日は雨かも知れないと意味深く顏を見合して、其れなりぐつすり寢込んでしまふと、やがて曉方あけがたから突然變る氣候の寒さを感じてふと目を覺す。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
曉方あけがたになると、せまい家のなかから、寢間着ねまきのまま出て來ては、電柱に恁りかかつて、うつらうつら眠るかど平家ひらやの少女も、蚊帳のなかに手足を伸ばしてゐるのだらう。
夏の夜 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
【即ち事を】曉方あけがたの夢しば/\未來の出來事を告ぐ(地、二六・七—一二並びに註參照)
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
もさゝず曉方あけがたに平川天神の裏門通りにて行逢ゆきあひたりと云忠兵衞とかの方へおもむき證據人に必ず立と云處を突留つきとめ其上玄關げんくわん委細ゐさいを申し立もし取上てくれぬ時は駈込かけこみ願ひをすべし又幾度いくたび駈込かけこみ願ひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
紫水晶色アメチストいろ薔薇ばらの花、曉方あけがたの星、司教しけうのやうな優しさ、紫水晶色アメチストいろ薔薇ばらの花、信心深い柔かな胸の上におまへは寢てゐる、おまへは瑪利亞樣マリヤさまに捧げた寶石だ、噫寶藏はうざう珠玉しゆぎよく僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
……かうけて曉方あけがた近く……
カンタタ (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
それは宵だつたり曉方あけがただつたり、此方こつちの監視の隙を狙つての縱横無盡の活躍で、全く手のつけやうがなかつたのです。
つとこずゑしづまつたとおもふと、チチツ、チチツとててまたパツとえだ飛上とびあがる。曉方あけがたまでがなかつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ロチスター氏は厚い窓掛を引いて麻布リネンの日除けを引き上げ、出來るだけの外光を入れた。そして私は曉方あけがたがもうすつかり近づいてゐるのを見て驚きもし歡びもした。
夏の一夜ひとよをある女と、小舟に明した曉方あけがたに、自分の方を振返つては頻に微笑む女の樣子の美しさ氣高さ、さては目覺める自然の美に打たれ、愛の心をも解して呉れたのかと思へば、何たる滑稽ぞ
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
かみのべ腫物しゆもつの上に貼置はりおきけるに其亥刻頃よつごろより痛む事甚だしく曉方あけがたに成て自然しぜんつひうみの出る事夥多敷おびたゞしく暫時しばらく有ていたみわすれたる如くさりければ少しづつうごかし見るに是迄寢返ねがへりも自由に成ざりし足がひざ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
晩飯も拔きまして、葛根湯かつこんたうを二杯も呑んで、一寢入りとすると、曉方あけがた御店から小僧が飛んで來ました。旦那樣が——
かぜんでもあめにもらず……はげしいあつさにられなかつた、唯吉たゞきち曉方あけがたつてうと/\するまで、垣根かきね一重ひとへへだてながら、産聲うぶごゑふものもかなかつたのである。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
曉方あけがたに私は起きた。一時間か二時間、私は寢室で自分の持物を整理するのにせはしかつた。短い留守の間、それらを其處に殘して置かうと思つて、抽斗ひきだしや衣裳戸棚を片附けたのである。
「小屋で殺された晩も、本人の又六は緑町の自分の家で、曉方あけがたまでのみを使つて居たつて——近所の衆は言つたらう」
前兆ぜんてうだつたぜ——おらたしか前兆ぜんてうだつたとおもふんだがね。あのまへばんから曉方あけがたまでの椋鳥むくどりさわぎやうとつたら、なあ、ばあさん。……ぎやあ/\ぎやあ/\夜一夜よつぴてだ。——おまへさん。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
左衞門河岸の半九郎の家へ着いて間もなく、四方は次第に明るくなつて、初夏の曉方あけがたらしい清々しさでした。
曉方あけがたなんどにや、やつとえた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
全く飛んだ災難で——昨夜と申しても、今朝曉方あけがたでございました。物音に眼を覺すと、枕元に大きな男が、ニヤニヤし乍ら突つ立つて居るぢやございませんか。
それにお袖も一晩寢付けなかつたやうで、——もつと曉方あけがたから疲れが出て私もついウトウトしました、眼を覺した時はもう陽は高くなつて、お袖は起きて居りました
消えてゐたにしても、夜中に吹き消したものか、油がなくなつて、曉方あけがた消えたものか——いや行燈の皿に油は殘つてゐるやうだから、滅多に獨りで消える筈はない。
それつきりでございます。——變な音がしたので起き出しました。曉方あけがた近かつたと思ひます。雨戸を
與三郎の殺された晩は、そつと家を拔出して曉方あけがた歸つてゐるし、お此の殺された日は、晝頃から人目に隱れて、田圃たんぼ傳ひに江戸の方へ行つたと村の者がいつてましたよ。
それに曉方あけがたまでたしかに床の中に人が居たやうだから、——な、女中さん、それに相違あるまい
曉方あけがた近く、物音を聽いたやうに思ひます。でも、すぐ眠つてしまひました」
曉方あけがたの冷えを勘定に入れて大火鉢へ埋火二杯、煙草盆と茶と、菓子と、足の踏みどころもなく配つた上、百日蝋燭らふそくを點けた大燭臺おほしよくだいが四、二つは榮三郎の左右へ、女中のお千代が護つてひか
「泥棒が入つたのは宵か、夜中か、それとも曉方あけがたかえ、叔母さん」
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
大成功で御船手屋敷まで引いて來たのは曉方あけがた近くでした。
「泥棒の入つたのは曉方あけがただと言つたね、番頭さん」
「それも如才じよさいなく訊きました、すると、何よりの道樂はつりだけ、昨夜も夜釣に行つて曉方あけがた歸つたといふことでしたよ、こいつは突つ込みやうがありませんよ、尤も連れがあつたわけでないから、疑へば疑へるわけだ」
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)