景物けいぶつ)” の例文
樣子やうすくと、汽船會社きせんぐわいしや無錢たゞ景物けいぶつは、裏切うらぎられた。うも眞個ほんたうではないらしいのに、がつかりしたが、とき景色けしきわすれない。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こんなのを通り抜けて出ることが出来れば、反物たんもの景物けいぶつに出すなどが大いに流行ったもので、怪談師の眼吉などいうのが最も名高かった。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
あわせて歳晩のちまたいろどる一種の景物けいぶつで、芝居を愛する人も愛せざる人も、絵双紙屋の店さきに立って華やかな双六のいろいろをながめた時
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれいまから數時間すうじかんのちまた年中ねんぢゆう行事ぎやうじのうちで、もつとひとこゝろあらたにすべく仕組しくまれた景物けいぶつ出逢であはなければならなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さなきだに不思議ふしぎ妖精界ようせいかい探検たんけんに、こんな意外いがい景物けいぶつまでもえられ、こころからおどろることのみおおかったせいか、そのわたくしはいつに疲労つかれおぼ
この一切の景物けいぶつは皆黄いろい蝋燭の火で照し出されてゐる。大きい影を天井にいんしてゐる蝋燭の火である。併しこんな物よりは若いよめのリイケの方が余程目を悦ばせる。
取敢えずこれだけの前芸は、米友がエッと言えば、見物がアッというだけの景物けいぶつでありました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
資本もとでとして是より見世の者へ云付代物しろものに色を付景物けいぶつ手拭てぬぐひ等を添てあきなひ或は金一分以上の買人かひてには袖口そでくち半襟はんえりなどをまけうりければ是より人の思ひ付よく追々おひ/\繁昌はんじやうなすに隨ひ見世を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
噴水からは、とびきり上等のぶどう酒がふきだしていました。パン屋で一シリングの堅パンひとつ買うと、大きなビスケットを六つ、しかもほしぶどうのはいったのを、お景物けいぶつにくれました。
六千坪の草原は半ば以上拓かれて、おもむきのある日本式の庭園になっていた。そしてその中に小さく建っている茅葺の家まで、庭園の一つの景物けいぶつとなっているのにも、伯父らしい用意がしのばれた。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
中硝子なかがらす障子しやうじごしに中庭なかにはまつ姿すがたをかしと絹布けんぷ四布蒲團よのぶとんすつぽりと炬燵こたつうちあたゝかに、美人びじんしやく舌鼓したつゞみうつゝなく、かどはしたるひろひあれは何處いづこ小僧こそうどん雪中せつちゆうひと景物けいぶつおもしろし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
自分は仏蘭西フランスの女の姿態の醇化せられて気の利いたのと、仏蘭西フランスの風物の明るくして幽静なのとを愛します。しかだ自分は仏蘭西フランス景物けいぶつついて製作を持ちません。だ目を見開いて驚くばかりです。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それが思い通りだったので、楽しかったのに違いない。お景物けいぶつに、わたしが、それがなんなの? といった顔をして、呆れている友達たちの顔を見たことまでが、予期した通りの好結果であったのだ。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
俳諧はいかいでは花火を秋の季に組み入れているが、どうもこれは夏のものらしい。少なくとも東京では夏の宵の景物けいぶつである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こう山の中へ来て自然の景物けいぶつに接すれば、見るものも聞くものも面白い。面白いだけで別段の苦しみも起らぬ。起るとすれば足が草臥くたびれて、うまいものが食べられぬくらいの事だろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……いて、眞實ほんたうにはなさるまい、伏木ふしき汽船きせんが、兩會社りやうくわいしやはげしく競爭きやうさうして、乘客じようきやく爭奪さうだつ手段しゆだんのあまり、無賃銀むちんぎん、たゞでのせて、甲會社かふくわいしや手拭てぬぐひ一筋ひとすぢ乙會社おつくわいしや繪端書ゑはがき三枚さんまい景物けいぶつすとふ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「とんだお景物けいぶつだ」と、七兵衛は思った。しかしそのお景物の口から七兵衛は一つの手がかりを見つけ出した。
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
白牡丹はくぼたん這入はいつて、景物けいぶつ金時計きんどけいでもらうとおもつたが、なにふものがなかつたので、仕方しかたなしにすゞいた御手玉おてだま一箱ひとはこつて、さうしていく百となく器械きかいあげられる風船ふうせんひとつかんだら
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ほかに二番目に「因果灯籠」というのを出していたが、それは単にお景物けいぶつに過ぎないのであった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)