明放あけはな)” の例文
階下は小売商店の立続いたしば桜川町さくらがわちょう裏通うらどおりに面して、間口まぐち三間さんげんほど明放あけはなちにした硝子店ガラスてんで、家の半分は板硝子を置いた土間になっている。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
座敷は——こんな貸家建かしやだてぢやありません。壁も、床も、皆彩色さいしきした石を敷いた、明放あけはなした二階の大広間、客室きゃくまなんです。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さむれば昨宵ゆうべ明放あけはなした窓をかすめて飛ぶからす、憎や彼奴あれめが鳴いたのかと腹立はらだたしさに振向く途端、彫像のお辰夢中の人にははるか劣りて身をおおう数々の花うるさく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
夏の明易あけやすかつた。両側に人家が続いたり、橋がかかつたりするあたりに来る頃には、もうまつた明放あけはなれて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
外廊そとろうから舞台の直前まで身動き出来ない鮨詰すしづめで、一階から三階までの窓を全部明放あけはなし、煽風機、通風機を総動員にしても満場のうちわの動きは止まらないのに
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして窓が明放あけはなされて、その外の雪の上に、確かに片手に子供を抱えて行ったらしい片杖のスキーの跡がある——と、ここまで観察されるうちに、もうあなたは
寒の夜晴れ (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
開て這入金子三十兩着類きるゐ品々をうばひ取り知ぬ顏して居たりけるさて道宅は家へかへりて見れば勝手かつて明放あけはなしありて三十兩の金子と着類三品紛失ふんじつなしたるゆゑ大きにおどろき諸方を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一走ひとはしり行つて来ようかと考へたが、あたまおもく痛むやうなので、次の阿母さんの部屋の八畳のへ来て障子を明放あけはなして、箪笥の前で横に成つた。暑い日だ、そよと吹く風も無い。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
表手おもても裏も障子を明放あけはなして、畳の上を風が滑ってるように涼しい、表手の往来から、裏庭の茄子なす南瓜かぼちゃの花も見え、鶏頭けいとう鳳仙花ほうせんか天竺牡丹てんじくぼたんの花などが背高く咲いてるのが見える
姪子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
るときに三使節中の一人が便所に行く、家来がボンボリをもっ御供おともをして、便所の二重の戸を明放あけはなしにして、殿様が奥の方で日本流に用を達すその間、家来ははかま着用ちゃくよう、殿様の御腰おこしの物を持て
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
座敷ざしきは——こんな貸家建かしやだてぢやありません。かべも、ゆかも、みな彩色さいしきしたいしいた、明放あけはなした二階にかい大廣間おほひろま客室きやくまなんです。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「うむ。聞きます。先刻さっきからどうも様子が変だと思っていた。」と老人は酒屋の男が明放あけはなしにして行った勝手口の硝子戸ガラスどに心づき、手をのばしてそれを閉めた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
たゝきけれども今日は奉行所へ一同罷出まかりいでつかれにもよくこみ居て何分起出おきいでぬゆゑ裏口に廻り見るに如何さま久兵衞が逃出したる所らしく戸など明放あけはなしありしかばうちへ入て家内の者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すぐに明放あけはなされた窓へ飛びつき、真暗な部屋の中へはいって行った。
寒の夜晴れ (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
おそるおそる四枚立のふすま明放あけはなしてある次のうかがうと、中央まんなかに机が一脚置いてあったが、それさえいわば台のようなもので、一枚の板と四本の脚があるばかり
見るよりも皆々愁傷しうしやう大方ならずれど如何とも詮方せんかたなきにより早々此趣きを村役人へとゞけしかば幸手宿さつてじゆく權現堂兩村の役人とも立合評議ひやうぎなす中夜は程なく明放あけはなれしにぞ早々此段を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そよとのかぜもがなで、明放あけはなした背後うしろ肱掛窓ひぢかけまど振向ふりむいて、そでのブーンとくのをはらひながら、二階住にかいずみ主人あるじ唯吉たゞきちが、六でふやがてなかばにはびこる、自分じぶん影法師越かげぼふしごしにかして
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その日も何心なにごころなく一皿のうち少しばかり食べしがやがて二日目の暁方あけがた突然はらわたしぼらるるが如きいたみに目ざむるや、それよりは明放あけはなるるころまで幾度いくたびとなくかわやに走りき。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
明放あけはなした窓から見える外の方へ気をくばっている様子に、君江は一度懲役に行くとこうまで世間へ気をかねるようになるものかと、気がついて見ればいよいよ気の毒になって
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その境の引戸を左右に明放あけはなつと、舞踏のできる広い一室になるようにしてあった。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)