もみ)” の例文
程なく夫人のおしゃくからもみやわらげて、殿さまの御肝癖も療治し、果は自分の胸のつかえも押さげたという、なかなか小腕のきく男で。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「へ、お火鉢」おんなはこんなことをそわそわ言ってのけて、忙しそうにもみ手をしながらまた眼をそらす。やっと銀貨が出ておんなは帰って行った。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
もみくちやになつた大島染の袷を着た、モ一人の男は、兩手を枕に、足は海の方へ投げ出して、不作法にも二人の中央まんなかに仰向になつてて居る。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
定得意ぢやうとくいとなし居る身の上なればおつね勿論もちろんちう八が云事にてもそむく事なく主人の如くにつか毎日まいにちつねかたなどもみ機嫌きげん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もみくちゃにしたので、吃驚びっくりして、ぴったり手をついて畳の上で、手袋をのした。横にしわが寄ったから、引張ひっぱって
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とちは八月じゆくしておつるをひろひ、てのちかはかし、手にもみてあらきふるひにかけて渋皮しぶかはをさり、ぬのをしきてにしたるをおき、よくならし水をうちてしめらせ
丹前の前には円い食卓ちゃぶだいがあった。その食卓を中心にして右側にいるのは、三十前後のセルのはかま穿いた壮士風の男であった。それはばかに長くしたもみあげの毛が眼だっていた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お島のそんな家庭に縛られている不幸に同情しているような心持も、かすかに受取れたが、お島は何だか厭味いやみなような、くすぐったいような気がして、後でもみくしゃにしてすててしまった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
先隊の四将、蒲生源左衛門、蒲生忠右衛門、蒲生四郎兵衛、町野左近等、何躊躇ちゅうちょすべき、しおらしい田舎武士めが弓箭ゆみやだて、我等が手並を見せてくれん、ただ一もみぞと揉立てた。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
所謂、橙黄橘紅とうくわうきつこうを盛つた窪坏くぼつきや高坏の上に多くのもみ烏帽子やたて烏帽子が、笑声と共に一しきり、波のやうに動いた。中でも、もつとも、大きな声で、機嫌よく、笑つたのは、利仁自身である。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いたるところの地面をひきめくり裏返しもみほぐし、き分けたりいだりのぞいたり探ったりというありさまだった、もちろんその片手間の自暴やけ呑みや歌ったり暴れたりも怠たりはなかったが
が、螺髪の大きい部分はそれが丁度はまりますけれども、額際とか、もみ上げのようなところは金平糖が小さいので、それは別に頃合いの笊を注文して、頭へ一つ一つ釘で打ちつけていったものです。
たゝんとするに左の足痛みて一歩も引きがたしコハ口惜くちをしと我手にもみさすりつして漸やく五六町は我慢したれどつひこらへきれずして車乘詰のりづめの貴族旅となりぬ雨は上りたれど昨日きのふ一昨日をとゝひも降り續きたる泥濘ぬかるみに車の輪を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
もみくちやにしたので、吃驚びつくりして、ぴつたりをついてたゝみうへで、手袋てぶくろをのした。よこしはつたから、引張ひつぱつて
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もみながら今晩こんばんは何分御泊おとめ申こと出來難く其譯は今夜村の寄合にて後刻ごこくは大勢集まり候間御氣のどくながら御宿おやど御斷おことわり申上ると云けるに武士は樣子やうす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
三人は品川大井大森方面を縄張にしている匪徒ひとで、丹前は岡本と云う三百代言さんびゃくだいげんあがり、もみあげは松山と云って赤新聞の記者あがり、角刈は半ちゃんで通っている博徒ばくとであった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこで彼等は用が足りないと、この男の歪んだもみ烏帽子の先から、切れかかつた藁草履わらざうりの尻まで、万遍なく見上げたり、見下したりして、それから、鼻でわらひながら、急に後を向いてしまふ。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もみもん丑滿うしみつの頃漸々にて糸切村に着し彼の茶見世を御用々々とたゝき起せば此家このやの亭主何事にやと起出おきいづるにまづ惣助亭主に向ひ廿二三年あとに澤の井樣より手紙を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うまるやうではかく人里ひとざとえんがあると、これがためにいさんで、えゝやつといまもみ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「二人来ております、その名刺を出した人は、もみあげの長い壮士のような人ですよ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そのいきおいでな、いらだか、いらって、もみ上げ、押摺おしすり、貴辺が御無事に下山のほどを、先刻この森の中へ、夢のようにお立出たちいでになった御姿を見まするまで、明王の霊前にいのりを上げておりました。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)