押込おしこ)” の例文
お葉はその紙入から札と銀貨を好加減いいかげんに掴み出して、数えもせずに紙にくるんだ。これ懐中ふところ押込おしこんで、彼女かれも裏木戸から駈け出した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「覆面に顏を隱して、人の家へ押込おしこまうと言ふ太い奴が、首筋の赤い痣を隱すことを知らないとはどういふわけだ」
銭形平次捕物控:124 唖娘 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
此奴こいつら、大地震の時は弱ったぞ——ついばんで、はしで、仔の口へ、押込おしこ揉込もみこむようにするのが、およたまらないと言った形で、頬摺ほおずりをするように見える。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
圍爐裡ゐろりの火の中へ押込おしこみ如何にも酒に醉潰ゑひつぶころげ込で燒死やけじにたる樣にこしらへたれば知者しるもの更になし寶澤はあらぬていにて感應院へかへり師匠へもばゝがあつれいを申せしと其場を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
吾妻橋あづまばしるやうになつてもきやくのつくことにはかはりがなく、つきすゑにはハンドバツグのなかれた紙入かみいれには百円札ひやくゑんさつ千円札せんゑんさつがいくら押込おしこまうとしても押込おしこめないほどであつた。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
なれど、たくさんな押込おしこにんのうちには、やぶれかぶれな不敵者もあって、警固の武士どもをあごで使い、われらの叱咤しったも、セセラ笑って、一こう始末におえぬやからもおりましてなあ
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シロクシナスを牢舎らうやれたのは、あやまり、第一国内こくないで一とう学者がくしやといふ立派りつぱの人物を押込おしこめて置くといふは悪かつた、とお心附こゝろづきになりましたから、早速さつそくシロクシナスをゆるして
詩好の王様と棒縛の旅人 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
大磯おほいそちかくなつてやつ諸君しよくん晝飯ちうはんをはり、自分じぶんは二空箱あきばこひとつには笹葉さゝつぱのこり一には煮肴にざかなしるあとだけがのこつてやつをかたづけて腰掛こしかけした押込おしこみ、老婦人らうふじんは三空箱あきばこ丁寧ていねいかさねて
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
と、こなたは何時いつか、もう御堂おどうの畳に、にじりあがっていた。よしありげな物語を聞くのに、ふところ窮屈きゅうくつだったから、懐中かいちゅう押込おしこんであった、鳥打帽とりうちぼうを引出して、かたわら差置さしおいた。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東野南次は、あわててかじりかけの干し藷を衣嚢ポケット押込おしこんで、グイと反り身になると
中にはたけ四寸二分、金無垢きんむくの海音如来、そっと懐中へ抜取ぬきとり、代り物がなければいかぬと思い、ねて用心に持って来た同じような重さの瓦の不動様を中へ押込おしこみ、元のまゝにして神棚へ上げ置き
ちや鳥打とりうちをずぼりとふかく、たけうへから押込おしこんだていかぶつたのでさへ、見上みあげるばかりたかい。茶羅紗ちやらしや霜降しもふり大外套おほぐわいたうを、かぜむかつたみのよりもひろすそ一杯いつぱいて、赤革あかゞはくつ穿いた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)