戯作げさく)” の例文
戯作げさく、つまり昔の草双紙くさぞうし——草双紙に何があるものですか、ただその時、その時を面白がらせて、つないで行けばいいだけの代物しろものです
山道 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は戯作げさくの価値を否定して「勧懲かんちょうの具」と称しながら、常に彼のうちに磅礴ぼうはくする芸術的感興に遭遇すると、たちまち不安を感じ出した。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わが名をさえも三彦みつひこと書き、いつかはおい寝覚ねざめにも忘れがたない思出の夢を辿たどって年ごとに書綴りては出す戯作げさくのかずかず。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その頃はもう黄表紙きびょうし時代と変って同じ戯作げさくの筆を執っていても自作に漢文の序文を書き漢詩の像讃をした見識であったから
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
仇敵かたきを持つ身——芝居や戯作げさくでは面白いが、さて、現実に自分がそれになってみると、あんまり気もちのいいものではない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
如何いかんとなれば現行法律の旨にそむくが故なり。其れも小説物語の戯作げさくならば或はさまたげなからんなれども、家庭の教育書、学校の読本としては必ず異論ある可し。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
道義に立脚した全くの戯作げさくでなく、それぞれかつて実在した事蹟に拠って敷衍ふえんしたものなれば、要は時に臨んで人を感ぜしめた一言一行を称揚したまでで
彼等がその芸術的に訓練されない猥雑わいざつの口語文を以てした為に、外国文学に見る如き高貴な詩人的の心を失い、江戸文学の続篇たる野卑俗調の戯作げさくに甘んじ
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
織田のこの徹底した戯作げさく根性は見上げたものだ。永井荷風先生など、自ら戯作者を号しているが、およそかかる戯作者の真骨頂たる根性はその魂に具わってはおらぬ。
山谷堀の船宿、角中かくちゅうの亭主は、狂歌や戯作げさくなどやって、ちっとばかり筆が立つ。号を十字舎じしゃ三九といっていたが、後に、十返舎ぺんしゃ一九いっくと改めて、例の膝栗毛ひざくりげを世間に出した。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしより二級上に山田武太郎やまだたけたらうなる少年がつたのですが、この少年は級中きふちう年少者ねんせうしやりながら、漢文かんぶんでも、国文こくぶんでも、和歌わかでも、でも、戯作げさくでも、字もく書いたし
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それをさいわひ、こちらもまだ遊び盛りの歳だものだから、家を外に、俳諧はいかい戯作げさく者仲間のつきあひにうつつを抜した。たまにうちへかへつてみると、お玉の野暮やぼさ加減が気に触つた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
向島むかうじま武蔵屋むさしや落語らくごくわい権三ごんざますと、四方よも大人うしふでにみしらせ、おのれ焉馬えんば判者はんじやになれよと、狂歌きやうかの友どち一ぴやく余人よにん戯作げさくの口を開けば、遠からん者は長崎ながさきから強飯こはめしはなし、近くば
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
おのれ思ふにはかなき戯作げさくのよしなしごとなるものから、我が筆とるはまことなり、衣食のためになすといへども、雨露しのぐためのわざといへど、拙なるものは誰が目にも拙とみゆらん
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それから三好町みよしちょう、此所には戯作げさくなどをした玄魚げんぎょという人のビラ屋があった。
私は子供のうちから日課の本より戯作げさくもの実録ものなど読むがすきで、十一才の時分にはモウお袋の仕事する傍らにすわつてさま/″\貸本やの書物などや、父がよみふるしの雑誌なども好んで読みました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
彼は戯作げさくの価値を否定して「勧懲くわんちようの具」と称しながら、常に彼の中に磅礴ばうはくする芸術的感興に遭遇すると、忽ち不安を感じ出した。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
これがまたきまって当時の留書とめがきとかおふれとか、でなければ大衆物即ち何とか実録や著名なだい戯作げさくの抜写しであった。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それに反して日陰の薄暗い路地はあたかも渡船の物哀ものあわれにして情味の深きに似ている。式亭三馬しきていさんば戯作げさく浮世床うきよどこ』の挿絵に歌川国直うたがわくになお路地口ろじぐちのさまを描いた図がある。
新井君美あらいきみよしぐらいにはなれたろう、戯作げさくをやらせれば馬琴はトニカク、柳亭ぐらいはやれる筆を持っていたのを、今まで自覚していなかった、我ながら惜しいものだ。
夢物語の戯作げさくくらいにみずからしたためて居たものが、世間に流行して実際の役に立つのみか、新政府の勇気は西洋事情の類でない、一段も二段もきに進んで思切おもいきった事を断行して
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
だが、弟子入りはないとみえて、露八は、筆耕ひっこう仕事をしたり、黄表紙きびょうしものの戯作げさくなどを書いていた。飽きると、ぽかんと、指の筆を頬杖ほおづえにやり、窓の机から今戸橋をながめている。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元来明治の文壇と称したものは、江戸末期に於ける軟派文学の継続であり、純然たる国粋的戯作げさく風のものであったが、これが延長なる今日の文壇も、本質に於て昔と少しも変っていない。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
安永より天明てんめい末年あたかも白河楽翁公しらかわらくおうこうの幕政改革の当時に至るまでおよそ二十年間は蜀山人の戯作げさく界に活動せし時にして狂歌の名またこの時において最も高かりき。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
又興味の上から云つても、自分は徳川時代の戯作げさくや浮世絵に、特殊な興味を持つてゐる者ではない。
孤独地獄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この男が著作をする、それはやっぱり似つかわしからぬところの一つのものではあるが——現に旗本や御家人で、絵師や戯作げさくを本業同様にしている者もいくらもある。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その道誉は、まま自身筆を執って、田楽狂言の戯作げさくをこころみたり、世に流行はやらせている自作の歌謡なども多いと聞くが、なるほど、それくらいな才はあろう。彼は才能のぬえでもある。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
抑も辻行灯つじあんどうすたれて電気灯でんきとう光明くわうみやう赫灼かくしやくとして闇夜やみよなき明治めいぢ小説せうせつ社会しやくわいに於ける影響えいきやう如何いかん。『戯作げさく』と云へる襤褸ぼろぎ『文学ぶんがく』といふかむりけしだけにても其効果かうくわいちゞるしくだいなるはらる。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
禁令の打撃に長閑のどかな美しい戯作げさくの夢を破られなかった昨日きのうの日と、禁令の打撃に身も心も恐れちぢんだ今日きょうの日との間には、劃然かくぜんとして消す事のできない境界さかいができた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「それから戯作げさくの方なんでげす、これは刺身のツマとして、八名ばかり差加えようてんで……」
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「たかが戯作げさくだと思っても、そうはいかないことが多いのでね。」
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
浮世絵、町絵師の方のめぼしいところを引っこぬいて、これに加えます、拙が見たところでは、絵かきの方から都合五十八名ばかり、えりぬきの……それから戯作げさくの方なんでげす
しかしそんなものはこの歳月としつき唯「おかる勘平かんぺい」のような狂言戯作げさく筋立すじだてにのみ必要なものとしていたのではないか。それが今どうして突然意外にも不思議にも心を騒がし始めたのであろう。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「たかが戯作げさくだと思つても、さうは行かない事が多いのでね。」
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)