情人いろ)” の例文
「飛んだ久松の孫右衛門さ。旦那のいねえ夜を合図で知らせて、引っ張り込んでた情人いろあ誰だ? ちょくに申し上げた方が為だろうぜ。」
思つた通りに馬車がホテルの入口で止ると、私の情人いろは(これこそオペラ女の戀人に使ふにふさはしい言葉です)、車からりた。
……松本伊豆守の用人がお品の店へ出入りをする。……一月十五日に『ままごと』が、伊豆守の邸へ届けられる。……新八郎氏がお品の情人いろ
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さん、我慢なるめえじゃねえかね。こう、可い加減にしねえかい。柳橋の蔦吉さんが、情人いろと世帯を持ったうちだ、汝達てめえたちの手に渡すもんか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『命せえあればまたどんな事でもできらア。銭がねえならかせぐのよ、情人いろ不実ふじつなら別な情人いろを目つけるのよ。命がなくなりゃア種なしだ。』
郊外 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
情人いろの伊之吉でげすが、エー、花魁は決して海上になびく気遣いはない、まかり間違えば死のうとまでしたんだから
情人いろでも何でもないものなら、お前が自腹を切るわれはないじゃないか。家だってお前の親類の人から、勘定を取ろうとは言やしまいし。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼女は、半刻ほどそこに立っている間に、戸狩の若い男を幾人も情人いろにして肉慾に生涯して土へかえったお千代後家のことなどを、ぼんやりと考えていた。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
い気味だ、——あれはお前の情人いろだろう。知らなくってさ、——お、もう口火は燃え切った、ホ、ホ、ホ、ホ
「いったい、そのおせんの情人いろというのは、何者なにものなんだか、まっつぁん、はっきりあたしにおしえておくれ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
君の情人いろは君にそむいたぢやらうが、君のフレンドして君に負かんはずぢや。そのフレンド何為なぜに君は棄てたか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「おいらが生命いのちがけでれた女を、横取りした奴の面が見てえ、呼びねえな、ええ呼んでみろ。——この女はあっし情人いろでござんすと、そいつの前で立派に名乗ってやらあ、さあ呼ばねえか」
嫁取り二代記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「なんだって……情人いろとか恋人こいとかのことを云ってるんじゃないよ。」
(新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
女給さん、ベッドに寝ているのを、情人いろだと思ったんですよ。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「その武家というのはお俊の情人いろだろうね」
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
醜女すべた情人いろを探しはしめえし、もう出来たよで断られちゃ、間尺に合うもんじゃねえ。ね、蔦ちゃんの前だけれど
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
深山に情人いろと誤解された弟と一緒に、初めて笹村の家へ来た当時のお銀——その時のえした女の目の印象は、まだ笹村の頭脳あたまみ込んでいたが
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ではおせんにゃ、ちゃんとした情人いろがあって、このせつじゃ毎日まいにち、そこへかよめだというんだね」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
花「そんなことア情人いろのうちさ、女房にょうぼとなれば面白くなくってよ、心配でならないわ、ホヽヽヽ」
おまえは、又十郎を擒人とりこにしたが、同時に、又十郎を情人いろにもしたので殺しかねたのであろう。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その代りお前の名前を譫言うはごとに言つて居るあの娘は、この御殿と一緒に木葉微塵こつぱみぢんくだけ散るよ。好い氣味だ、——あれはお前の情人いろだらう。知らなくつてさ、——お、もう口火は燃えきつた。
「亭主と申しましても、へっへ、こういう境涯の人間でございます、なにも人別帳に書くほどはっきりしたものではございません、いってみれば情人いろとでも申しましょう。へえ、もう三年このかた夫婦同様の仲でございます」
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
情人いろじゃなおなし
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
なんだ。強盜がうたうだ、情人いろだ。」とひさま、ドンとけて、はひつて、短銃ピストル差向さしむけて、一目ひとめるや、あ、とさけんで、若旦那わかだんなおもはず退すさつた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
(あれは旦那。俺は心の情人いろ。こうしていれば、生涯の情人だからなあ……)と。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうお客にすりゃ御損がく、情人いろにして不足のねえからっけつ曾我の十郎てえおあにいさんだ、頼むぜ、と取巻いた人立を割って怒鳴り込んだんでさ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仇吉あだきちだったか、よね八だったか、女が、小梅の茶屋で、情人いろの丹次郎を待ちあわせている。……逢いびきの待つが長く、じれぎみになっているうちに、男の影が、小梅田ン圃の彼方あなたに見えてくる。
梅ちらほら (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遊女おいらんは自分が薄着なことも、髪のこわれたのも気がつかずに、しみじみと情人いろの顔じゃ。やつれりゃ窶れるほど、嬉しいような男振おとこぶりじゃが、大層ひげが伸びていた。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だれだい。奥へ来ているだんつくッてえな、巧奴の情人いろか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これでは何の取得とりえもないが、ここに注意すべきは女房たるもの、兄とその情人いろのごときもの、且つ女中に至るまで、よく注意して秘密を守り遂げる信用があるので
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(御守殿め、男を振るなんて生意気な、よし、清葉さんが嫌った人なら、私が情人いろにしてやろう。……)
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
江戸児えどっこだと、見たが可い! 野郎がそんな不状ぶざまをすると、それが情人いろならかんざしでも刺殺す……金子かねで売った身体からだだったら、思切って、つっと立って、袖を払って帰るんだ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しッこしもない癖に、情人いろなんぞこしらえて、何だい、はらむなんて不景気な、そんな体は難産ときまってるから、血だらけになって死なないようにとお慈悲でおろしてやったんだ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生命いのちがけの情人いろが有って、火水の中でも添わねばならない、けれど、借金のために身抜けが出来ず——以前盗人どろぼうが居直って、白刃しらはを胸へ突きつけた時、小夜着こよぎかぶせて私をかばって
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「聞きねえ、婆さん、御前おまえなんざあ上草履で廊下をばたばたの方だったから、情人いろ達引たてひくのに、どうだ、こういうものは気が付くめえ。豪儀なもんだぜ、こら、どうだ素晴しいもんじゃあねえか。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや、そのね、ニヤリと北叟笑ほくそえみをするすごさと云ったら。……待てよ、この御寮人が内証ないしょ情人いろをこしらえる。嫉妬しっとでその妾のはらわた引摺ひきずり出す時、きっと、そんな笑い方をする男に相違ないと思った。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あれ、邪険にお踏みでない。私の情人いろが居るんだから。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なに盜人ぬすびとです、わたし情人いろぢやありませんかね。」
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)