心算つもり)” の例文
すぐにも名乗って出る心算つもりでしたが、親分と一緒に川越屋へ行って、お染の無事な顔を見た時、すっかり考えが変ってしまいました。
人を莫迦ばかにするのも、好い加減におし。お前は私を何だと思つてゐるのだえ。私はまだお前にだまされる程、耄碌まうろくはしてゐない心算つもりだよ。
アグニの神 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
無事に着いたじゃねえかってんで、コチトラを初め、今まで怖がっていた毛唐連中をギャフンとらわせようって心算つもりじゃねえかよ
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「やあそりゃようございます。どうしても私は日本へ一遍帰る心算つもりでもありますから、まあその時に一緒に行くことにしましょう」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その時お島の父親は、どういう心算つもりで水のほとりへなぞ彼女をつれて行ったのか、今考えてみても父親の心持はもとより解らない。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「貴郎は本当に無茶だから気をつけて下さいよ。そんな事位でようございましたけれども、大怪我でもなすったら、どうするお心算つもりなの」
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
第一そんなことをお調べになって何になさるお心算つもりですと答え、あの男のことでは一さい味方をしてくれないふうを見せていた。
「こりゃ新九郎、いよいよそちの番になったぞ、男山八幡の折とは違って逃げ口はないのだから、その心算つもりで勝負をしてしまえ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それにしても、弦三は大変遅いじゃないか。昨夜は、まだ早かった。この間のように、十二時過ぎて帰ってくる心算つもりなんじゃ無いかなあ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おや、さうかえ!」と、別段お世辞にいつた心算つもりでもなかつたイワン・フョードロヸッチの、その註釈に満足して叔母さんが語をついだ。
国語で一つの間違いでもすまい、というのが私の心算つもりであった。父が、綺麗な西洋紙の、大きな帳面をくれたことがある。
入学試験前後 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
かく祈りながら僕は彼らに向って、胸の切なさをつかんでは投げ、つかんでは投げつける心算つもりで、その通りに腕を振り動かせているのであった。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
僕は其頃ピラミッドでも建てる様な心算つもりで居たのであるが、米山は中々盛んなことを云うて、君は建築をやると云うが
落第 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分ではさういふ心算つもりでなかつたにしても、自然に詰問の語気であつた。あなたの口からあの人のことをみんなききたいのよと言つた。そしてまた
彼女は不良少女という、ちんぴらな、小砂利共こじゃりどもの世界からは肉体的にも感情的にもはるかに脱却した心算つもりであった。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
「しかし、それにしても、君に売渡す約束をしながら、この僕から権利金を取ったのは、どういう心算つもりだろう?」
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「何時までかうして、ドアもたれて立つてらつしやるお心算つもりだらう?」と私は思つた。「荷造りを始めたいのに。」
おかみは行々ゆくゆく彼をかゝり子にする心算つもりであった。それから自身によく太々ふてぶてしい容子をした小娘こむすめのお銀を、おかみは実家近くの機屋はたやに年季奉公に入れた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
実際自分がツルゲーネフを翻訳する時は、力めて其の詩想を忘れず、真に自分自身其の詩想に同化してやる心算つもりであったのだが、どうも旨く成功しなかった。
余が翻訳の標準 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「吾輩はもう何んにも云わん心算つもりだ。吾輩は非常に幸福だ、吾輩はただ死刑に処せられるのを待つばかりだ」
『なんの心算つもりか知らんがえらくまあ寝ちまったものさ。さてこのよる夜中に一体どうしようと言うんだい?』
殺してすぐに逃げなかったのも、やはり秘密を見つけることができなかったのと、も一つは令息に嫌疑をかけて、無事に身をくらます心算つもりだったということです。
髭の謎 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
恐らく、多くの少女が断然父母の定めた夫を拒絶する心算つもりで、祭壇へ歩んで行くのにも関らず、一人として其目的を果す者の無いのも、かうした訳からに相違ない。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
不具になっては又お前達に苦労をかける、それが怖いので欲しくてならないこの金だが、ここへ残して置く心算つもりだ。金が戻れば、あ奴等は追いかけてなぞこなかろう。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
まだまだ三十年や四十年は生きる心算つもりでおる拙者、さような言を聞くとは実もって心外であるぞ。第一、この通りピンピンしておる者が、そうコロコロ死んでたまるかッ
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
帰り行く友を送ってそこらまでの心算つもりがやがて博多の街つづきである箱崎になんなんとする地蔵松原——二里余もつづく千代の松原の一部、ここには米一丸の墓があって
夢の如く出現した彼 (新字新仮名) / 青柳喜兵衛(著)
最後に私の確信にとどめを刺す心算つもりで、おふささんは何処に住んで居るんだい、まさか高円寺じゃあるまいね、と大きく呼吸をし乍ら質しますと、あら、やっぱし高円寺よ
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
兎も角その女を手に入れる為に纏った金が入用いりようだったのだ。そして、聞けば富美子さんが帰って来ない内に出奔しゅっぽんする心算つもりでいたんだそうだ。僕はつくづく恋の偉力を感じた。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
実際に於て綿井氏は自殺する心算つもりで飛行機に乗っていたのですし、又金を盗んだとしてはそれが屍体から発見されないのですから、第一の説も考えられない事もありますまい。
旅客機事件 (新字新仮名) / 大庭武年(著)
浅草あさくさの或る寺の住持じゅうじまだ坊主にならぬ壮年の頃あやまつ事あって生家を追われ、下総しもうさ東金とうかねに親類が有るので、当分厄介になる心算つもり出立しゅったつした途中、船橋ふなばしと云う所である妓楼ぎろうあが
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
「例のトランクを海へ捨てる心算つもりだったって言うからね。海ということは、ルウスの頭にある筈だ。だから、俺は思うんだが、あいつ今頃、トランクの代りに海に浮かんでるよ」
アリゾナの女虎 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
それは主として、南方の林業に就いてのノスタルヂイを綴る心算つもりであつた。色々と仏印では、研究のノートも沢山あつたのだが、それは何一つ持つて帰るわけにはゆかなかつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「もしあの女が……俺が全心をこめて愛してゐる心算つもりのあの女が」と彼は更に考へた。
如何どうしても菅原様へくことが出来ないならば、私は一旦いつたん菅原様へ献げた此のきよ生命いのちの愛情を、少しも破毀やぶらるゝことなしにいだいたまゝ、深山幽谷へ行つてしま心算つもりだつて——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
芝浦へ行く心算つもりであつたが、電車に乗つてから女は「海へ出たい。」と云ひ出した。
海の中にて (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
明日の朝参上あがらうとおもふて居りました、といへばぢろりと其顔下眼に睨み、態と泰然おちつきたる源太、応、左様いふ其方の心算つもりであつたか、此方は例の気短故今しがたまで待つて居たが
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
日下ひさがりにもなってみれば、村人のために心配してやるよりは、差当り、自分たち二人の身の上の今晩のこと、まだ日はやや高しとも、いまの村あたりに宿を求める心算つもりで来たのだが
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
翌日は信造なり、永辻なりへ電報を打って、金を送らせる心算つもりだったのでしょう
青服の男 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
実際爺さんの心算つもりでは、からかさ貼りは一ぱし他助ひとだすけの仕事らしいが、それに少しの嘘も無い、何故といつて京都人は霊魂たましひよりも着物がずつと値段の張つてゐる事をよくわきまへてゐる人種だから。
あるいは生徒と共同して新しい経験をするような心算つもりですべきものと思う。
物理学実験の教授について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それを済ますと親子の旅立ち、行先を訊いてもただ遠いところとばかり。こりゃてっきり父者が自分の首とわしの首とを引換えに、三井寺から開山聖人さまの御影像を、取戻す心算つもりと知った。
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
叔父は丑松の帰村を待受けて、一緒に牧場へ出掛ける心算つもりであつたので、兎も角も丑松を炉辺ろばたゑ、旅の疲労つかれを休めさせ、例の無慾な、心の好ささうな声で、亡くなつた人の物語を始めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
美代吉に悦ばせる心算つもりゆえおおめかしで、其の頃散髪ざんぎりになりましたのは少なく、明治五年頃から大して散髪ざんぱつが出来ましたが、それでも朝臣ちょうしんした者は早く頭髪あたまを勧められて散髪ざんぎり成立なりたてでございますが
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
まことに敬畏けいいする態度で、私は、この手紙一本きりで、あなたから逃げ出す。めくら蜘蛛ぐも、願わくば、小雀こすずめに対して、寛大であられんことを。勿論お作は、誰よりも熱心に愛読します心算つもり、もう一言。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかし、湯治は良いでございませう。幾日いくかほど逗留とうりゆうのお心算つもりで?」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
兵さんは無論復讎ふくしゅうする心算つもりらしかった。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
する心算つもりで昨夜此處へ乘込んで來たに相違ない。二人は散々言ひ爭つた揚句あげく、拔き合せると、手もなく鞍掛宇八郎は勝つた、——が
人を莫迦ばかにするのも、い加減におし。お前は私を何だと思っているのだえ。私はまだお前に欺される程、耄碌もうろくはしていない心算つもりだよ。
アグニの神 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一々に按手礼をし話をして居ります中にもはや午後五時頃、よほど遅くなりましたけれども次の村まで来て宿ります心算つもりで出立しました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ですからそこまで突込んで、何かしら動きの取れない材料を掴んだ上で、今の新聞紙面か何かと一緒に、私へ突付ける心算つもりだったのでしょう。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)