後先あとさき)” の例文
初めの内は話す度に何処か少しづゝ変る様でしたが、これはかれがまだ目が醒めたばかりで、考も後先あとさきになるのでありましたらう。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
かれは、もう自分じぶんは、いよいよぬのだとおもいました。そして、しばらくゆきうえにすわってやみつめて後先あとさきのことをかんがえました。
宝石商 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「尼公さまからも、今生の後先あとさきなどは、つかのまのこと。どうぞおとりみだしなく、北条九代の終りを、いさぎよく遊ばすようにと……」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな後先あとさきずな莫迦なことを被仰った後で、平気でいるのも、つまり妾があなたを相手にしてない証拠だと思って下さいよ。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
山「大丈夫です、私は胡散うさんな者じゃアございませんよ、私はお前さんと後先あとさきに成って洗馬から流して来た巡礼でございますよ」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
是は粗相千万そさうせんばん、(中略)と後先あとさき揃はぬ事を云ふて、又もと夜着よぎへこそこそはいつて、寝るより早く其処そこを立ち退き、(下略げりやく
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
縁側に手をつかえて、銀杏返いちょうがえしの小間使が優容しとやかに迎えている。後先あとさきになって勇美子の部屋に立向うと、たちまち一種身に染みるような快いかおりがした。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私はその眼と口を今一度、机の上に突伏せながら、ジット後先あとさきを考えて見たが、一体何しにここへ帰って来たのか、どうしても思い出せなかった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
半時ほど旋りて胴中炮烙ほうろくの大きさに膨れまた舞う内に後先あとさき各二に裂けて四となり、また舞い続けて八となり、すなわちたこりて沖に游ぎ去ったと見ゆ。
小田原と国府津の後先あとさきさえ知らない兄さんに異存のあるはずがないので、我々はすぐ沼津までの切符を買って、そのまま東海道行の汽車に乗り込みました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
籠長持かごながもちめ込んである荷物を、政吉と父の兼松とが後先あとさきに担い、師匠は大きな風呂敷包みを背負しょいました。
茄子はお好きだったようで、どんなにしたのでも召上りますが、炭火のおこった上に、後先あとさきを切って塩を塗ったのを皮のままで置き、気を附けて裏返します。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
その第四の昔話というのは、前の三つのどれよりも、かんたんでまた古風こふうであった。あまりかんたんなためにこの頃では、後先あとさきにおまけのついたものが多い。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
見つけなすった。いやまあ、後先あとさきはドチラでもよいが、かかわいだから三人とも、御検視の来るまで控えていてもらいたい、御迷惑だろうがどうもむを得ん
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それを聞かされる私の心は後先あとさきも分らぬ闇にとざゝれ、行く手の道も眼に見えぬような気がしました。
三人法師 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
支那の格言に「人の憂に先んじて憂い、人の楽に後れて楽しむ」という言があるが、我々は後先あとさきの問題ではない。深さの問題である。人は表面を見、神は底を見給う。
帝大聖書研究会終講の辞 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
一日あるいは二日後先あとさきになることもありまた三日位違うこともある実に奇態な暦であるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
と、ほつと胸先を撫でおろすさうだ。だから間違つて電車にき殺される場合には、成るべく履物を後先あとさきへ、片々かた/\は天国へ、片々かた/\は地獄へ届く程跳ね飛ばす事だけは忘れてはならない。
〽落ちて行衛ゆくゑ白魚しらうをの、舟のかゞりにあみよりも、人目ひとめいとうて後先あとさきに………
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
お話が後先あとさきになりましたが、先生、お住居すまひはどちらでいらつしやいます?
職業(教訓劇) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
破ることに世間見ずの千太郎と又相手は遊女とは云へまだ生娘きむすめも同樣なる小夜衣のことなれば後先あとさきかんがへも無く千太郎を招き田舍ゐなかありては見る事も成らぬかゝる御人と連理れんりちぎりをむすぶ嬉しさは身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何卒どうぞ心配せんで下ださい、重々御苦労を御掛け申して来た今日こんにちですから——れに私ももう三十を越したんですから、後先あとさき見ずのことなど致しませんよ、父にも母にもることの出来なかつた孝行を
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
砂寒き低山ひくやまの裾をる駱駝後先あとさきの影が夜明よあけいばえつ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それにきっと一羽ずつ後先あとさきになって通る。
よく後先あとさきをかんがえて返事をしてくれ
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
後先あとさきの樣子を話してくれまいか」
後先あとさきの三人はお相伴しょうばんだ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのくるわを取りまいているおはぐろどぶのふちに添って、頭巾のお綱はうつむき加減に、お獅子の二人は後先あとさきに、トボトボ歩いてゆくのである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後先あとさき見ずの無分別なことをしてくんなます、のぼせ上がって仕舞うんざますよ、本当に馬鹿らしいじゃアありませんか、しっかりと沈着きなましよ
または年祝としいわいといって老人の長命を祝う日、いっぽうにはまた人がくなって野辺送のべおくりをする後先あとさきから、しだいに月日つきひがたって月忌げっき年忌ねんきの祭りをする日まで
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
〽落ちて行衛ゆくえ白魚しらうおの、舟のかがりに網よりも、人目いとうて後先あとさきに……
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すでに閏月うるうのごときもシナの暦では当年ですけれど、チベット暦は昨年であったです。四年目、四年目に閏月のある事は同じであるけれども、こういう具合に一年後先あとさきになって居るばかりでない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
後先あとさき分別ふんべつもないよになって夢中で電話口い走って行った。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
旧七月盆の魂祭の後先あとさきに、盛んに飛びまわる色々の蜻蛉とんぼ、又はホトケノウマなどと称して、稲穂の上を渡りあるく蟷螂かまきりの類、是は先祖様が乗って来られると
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
……それに、宮本村でこうこうとお前の噂でも茶ばなしに出たら、早速、切腹ものじゃないかな、だから、最初から、およしというたのに、武士さむらいは、後先あとさきの考えがないからいかん。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と両人が娘の後先あとさきに附添って茶店へ帰って来ました。
ここまではほとんど後先あとさきなく、一斉いっせいにかたまって来た堀秀政の隊、中村孫兵次の隊、堀尾茂助の隊なども、忽ち分散して、あなたこなたに、石ころを落し、灌木かんぼくを掻き分け、騒然そうぜん
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その後先あとさきの是から生活の態度が変るべき日を、気づくという以上に銘記せしめるために、こんな特殊な穀物が採用せられたので、それがまた地方によっては葬式におこわを作るとか
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この辺は冬が永いので後先あとさき切詰きりつめて三月と九月にしている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)