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彳
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たたず
ふりがな文庫
“
彳
(
たたず
)” の例文
と
細字
(
さいじ
)
に
認
(
したた
)
めた
行燈
(
あんどん
)
をくるりと廻す。綱が禁札、ト捧げた
体
(
てい
)
で、
芳原被
(
よしわらかぶ
)
りの若いもの。別に
絣
(
かすり
)
の羽織を着たのが、板本を抱えて
彳
(
たたず
)
む。
露肆
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
暫く
彳
(
たたず
)
んでゐたが、一言の答へはなくとも、やがて元気よく駈け去つた。私は尚も綿屑のやうに答へを忘れ睡つたふりをしてゐたのだ。
をみな
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
Fなる魔法使い (女と共に窓に行き)空には月が涙ぐみて
彳
(
たたず
)
み、海には屍の船が浮き、風は光の陰に隠れ、人は
幽
(
かすか
)
に挽歌を歌い。
レモンの花の咲く丘へ
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
少しくらゐ戸口に
彳
(
たたず
)
んで待つてゐても、一番風呂に入るのを一日の樂みにしてゐたが、妻に取つては、湯屋通ひは厄介であつた。
水不足
(旧字旧仮名)
/
正宗白鳥
(著)
草原に寝転んで青い大空を仰ぐとき、雑木林に
彳
(
たたず
)
んで小鳥の歌に聞き入るとき、私の憂いたる心もいつとはなしに微笑んでいた。
語られざる哲学
(新字新仮名)
/
三木清
(著)
▼ もっと見る
私は
暫
(
しばら
)
く
恍惚
(
こうこつ
)
として其処に
彳
(
たたず
)
んでいた。私の歩いて来た街道は、
白泡
(
しらあわ
)
の砕けている海岸に沿うて
長汀曲浦
(
ちょうていきょくほ
)
の続く限り続いている。
母を恋うる記
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
頭の鉄輪にのせた
蝋燭
(
ろうそく
)
を消すことはまだ忘れている。そのままで木の幹の下に
彳
(
たたず
)
んで木の上を見上げたが、その女は色の白いいい女でした。
大菩薩峠:37 恐山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
二階の
欄干
(
らんかん
)
に
彳
(
たたず
)
むと市中の屋根を越して遥に海が見えるとやら、然るが故に先生はこの楼を
観潮楼
(
かんちょうろう
)
と名付けられたのだと私は聞伝えている。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
得意の詩や歌を誦するともなく謡うともなくうめきながら欄干を撫でつつ歩むともなく
彳
(
たたず
)
むともなく
立戻
(
たちもと
)
おり居るに、往来の人はいぶかしみ
良夜
(新字新仮名)
/
饗庭篁村
(著)
無知な
老人
(
としより
)
の
彳
(
たたず
)
んで見るところでは、莫迦孝行な小野田は、女にのろい男か何ぞのように、いつまでも気長に傍についていて、離れなかった。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
危き橋をようように這いわたりて
終
(
つい
)
に下り着くに滝のしぶき一面に雨の如く足もとより逆に吹きあぐるさますさまじく恐ろしく
暫
(
しばら
)
くも
彳
(
たたず
)
みかねつ。
滝見の旅
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
彳
(
たたず
)
める人は高等中学の制服の上に焦茶の
外套
(
オバコオト
)
を着て、肩には古りたる象皮の学校
鞄
(
かばん
)
を掛けたり。彼は間貫一にあらずや。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
彼等は驚異の眼を瞪って、此活動する雲の下に魅せられた様に
彳
(
たたず
)
んだ。冷たい風がすうっすうっと顔に当る。
後
(
おく
)
れ馳せに
雷
(
かみなり
)
がそろ/\鳴り出した。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
母は掃除せんと
箒
(
ほうき
)
持ちしまま病室の端に
彳
(
たたず
)
みて、外をながめながら、上野の運動会の声が聞えるよ、と独り言をいふ。
明治卅三年十月十五日記事
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
路に
彳
(
たたず
)
んでいる堯の耳に階下の柱時計の音がボンボン……と伝わって来た。変なものを聞いた、と思いながら彼の足はとぼとぼと坂を下って行った。
冬の日
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
但
(
ただし
)
景鶴山は上州戸倉の称呼で、書上には形状鶴の
彳
(
たたず
)
むが如しとあって、
恰
(
あたか
)
も形に
因
(
よっ
)
て名付けたように書いてあるが、『藤原温泉記行』には平鶴山となっている。
利根川水源地の山々
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
午過
(
ひるすぎ
)
にポチが殺されたという木村という
家
(
うち
)
の前へ行って見た。其処か此処かと尋ねて見たけれど、もう其らしい
痕
(
あと
)
もない。私は道端に
彳
(
たたず
)
んで、茫然としていた。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
内蔵助は、青空に
象嵌
(
ぞうがん
)
をしたような、堅く
冷
(
つめた
)
い花を仰ぎながら、いつまでもじっと
彳
(
たたず
)
んでいた。
或日の大石内蔵助
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
自分の傍をすりぬけた時、ぷうんといい香水の香が
四辺
(
あたり
)
に漂ったそうですが、とにかく白石が呆気に取られて
彳
(
たたず
)
んで居る間に、その黒い影は忽ち門衛に捕まってしまいました。
機密の魅惑
(新字新仮名)
/
大倉燁子
(著)
この岬の端が海に沿つて廻つて行けるかどうかと危ふく思つて、岩鼻の上に暫く
彳
(
たたず
)
んでゐた。見ると、水打際の砂の上に、草鞋の足跡と、犬の足跡とが向ふの方までつゞいてゐる。
伊良湖の旅
(新字旧仮名)
/
吉江喬松
(著)
失恋の
一時
(
ひととき
)
に
彳
(
たたず
)
むショパンの右手は、こうして、忘れ果てたあの懐しい情歓を奏でるのだ。
滾滾
(
こんこん
)
と絶え間なく流れ落ちる噴き上げの水の中に、華やかな虹色の水滴を転ばせながら。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
暫くはぼんやりそこに
彳
(
たたず
)
んでいたが、でも、夢であろう筈もないので、そこで、彼は庭つづきの伯爵邸の玄関へ駈けつけて、折から居合せた一人の書生に事の次第を告げたのである。
夢遊病者の死
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
忠左衛門と助右衛門は、そう云ってくれる民衆に対して、唯、ニヤニヤと笑顔を
酬
(
むく
)
いているだけだった。時々、
羞恥
(
はにか
)
ましそうに、顔を横に
外
(
そら
)
し、邸内からの返事を待って
彳
(
たたず
)
んでいた。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
私は、二つの銀貨を渡すために、長い間、泥道の中に
彳
(
たたず
)
まなければならなかった。
飢餓地帯を歩く:――東北農村惨状報告書――
(新字新仮名)
/
下村千秋
(著)
ぼんやりと
彳
(
たたず
)
んだ洵吉は、考えるともなく、そんなことを思浮べてみた。けれど
魔像
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
一体何者だろう? 俺のように
年寄
(
としと
)
った母親が
有
(
あろ
)
うも
知
(
しれ
)
ぬが、さぞ夕暮ごとにいぶせき
埴生
(
はにゅう
)
の
小舎
(
こや
)
の戸口に
彳
(
たたず
)
み、
遥
(
はるか
)
の空を
眺
(
ながめ
)
ては、命の綱の
掙人
(
かせぎにん
)
は戻らぬか、
愛
(
いと
)
し我子の姿は見えぬかと
四日間
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
さりとて残し置かんも口惜し、こは
怎麼
(
いか
)
にせんと案じ煩ひて、
霎時
(
しばし
)
彳
(
たたず
)
みける処に。
彼方
(
あなた
)
の森の陰より、
驀地
(
まっしぐら
)
に
此方
(
こなた
)
をさして
走
(
は
)
せ来る獣あり。何者ならんと打見やれば。こは彼の黒衣にて。
こがね丸
(新字旧仮名)
/
巌谷小波
(著)
と、おかみさんは裏口へ入らつしたときに小蔭に
彳
(
たたず
)
んで
窃
(
そつ
)
とかう仰つた。
桑の実
(新字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
幸なるかな、書生君は柔術の達人なれば、片手に
咽
(
のど
)
をしめ、片手にカラアをひいて、頸はやう/\カラアに入りぬ。此間小生は唯運を天に任し、観念の
眼
(
まなこ
)
を
瞑
(
ねぶ
)
つて、
屠
(
ほふ
)
られむとする羊の如く
彳
(
たたず
)
みたり。
燕尾服着初めの記
(新字旧仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
他愛ない冒険譚の節々を、しばし
彳
(
たたず
)
んだ
儘
(
まま
)
思い起していた。
放浪作家の冒険
(新字新仮名)
/
西尾正
(著)
子供たちは淋しさうに其処に
彳
(
たたず
)
んでゐた。
河原の対面
(新字旧仮名)
/
小寺菊子
(著)
阿Qは
拠所
(
よんどころ
)
なく
彳
(
たたず
)
んだ。
阿Q正伝
(新字新仮名)
/
魯迅
(著)
彳
(
たたず
)
むもののせつなさよ。
新頌
(旧字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
綺麗
(
きれい
)
な
褄
(
つま
)
をしっとりと、水とすれすれに
内端
(
うちわ
)
に
掻込
(
かいこ
)
んで、一人美人が
彳
(
たたず
)
む、とそれと自分が並ぶんで……ここまで来るともう
恍惚
(
うっとり
)
……
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
二人はいつか寄り添ってじっと手をとって
彳
(
たたず
)
んだ。遥か離れた花木の下にあらぬ方を向いて立っているのは芳江に仕える乳母であった。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
夏の日光の殊更明く照渡っているのを打眺め、何という訳もなく唯
惆悵
(
ちゅうちょう
)
として去るに忍びざるが如くいつまでも
彳
(
たたず
)
んでいた。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
その時に、松の根方に
彳
(
たたず
)
んでいた第二の悪魔も、こらえかねてかちょっと身動きをしました。身動きをすると共に、平静なる呼吸が崩れたのです。
大菩薩峠:37 恐山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
暫
(
しばら
)
くすると、白粉をこてこて塗って、湯から帰って来たお秀が、腕を組んで、ぼんやり
店頭
(
みせさき
)
に
彳
(
たたず
)
んでいるお島に笑顔を見せて、奥へ通って行った。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
私は、おりから夕日が墓石の表にあかあかと照っているその
丘
(
おか
)
の上に
彳
(
たたず
)
んで脚下にひろがる大大阪市の景観を
眺
(
なが
)
めた。
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
どういふ思ひにかられたものか立ち去りかねて暫く
彳
(
たたず
)
んでゐたが、蒲原氏はそれをみて甚だ悲しげな声をしぼり
逃げたい心
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
私は
彳
(
たたず
)
んだり寝転んだり仰いだり俯したりしながら、到る所私の過去の生活の罪の意識に
責
(
せ
)
め苦しめられつつ、ただ何ということもなしに
自然
(
ひとりで
)
に祈っていた。
語られざる哲学
(新字新仮名)
/
三木清
(著)
そしてその下に堯は、まだ電燈も来ないある家の二階は、もう戸が鎖されてあるのを見た。戸の木肌はあらわに外面に向かって
曝
(
さら
)
されていた。——ある感動で堯はそこに
彳
(
たたず
)
んだ。
冬の日
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
恍
(
こう
)
として一人
自
(
みずから
)
彳
(
たたず
)
む時に
花香
(
かこう
)
風に和し
月光
(
げっこう
)
水に浮ぶ、これ
子
(
し
)
が俳諧の郷なり(略)
俳人蕪村
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
薄暗い廊下に
彳
(
たたず
)
んで、じっと聞き耳を立てていると、云い知れぬ鬼気に襲われた。
孤島の鬼
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
黄昏
(
たそが
)
れの白い
靄
(
もや
)
が、片側の崖の森から往来へ淡く立ちこめていた。よく分らないが、
慥
(
たし
)
かに女である。目黒門の外に
彳
(
たたず
)
んで、時折、塀のふし穴でもさがすように
彷徨
(
うろつ
)
いているのだった。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
精神の厳粛な門口に
彳
(
たたず
)
む時、僕はそこに「沈黙の国」という表札を読む。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
恐怖の眼を上げながら
彳
(
たたず
)
んでいるのであった。
鱗粉
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
杖笠を棄てて
彳
(
たたず
)
んだ順礼、
道
(
どう
)
しゃの姿に見せる、それとても行くとも
皈
(
かえ
)
るともなく
煢然
(
けいぜん
)
として独り
佇
(
たたず
)
むばかりで、往来の人は
殆
(
ほとん
)
どない。
遺稿:02 遺稿
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
笈摺
(
おいずる
)
を背負った六部であった。と、その側に
彳
(
たたず
)
んでいた、博徒のような男が云った。「迫害されて成った狂人なのでしょうよ」
十二神貝十郎手柄話
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
兵馬は、とある家の
門側
(
かどわき
)
に
彳
(
たたず
)
み、空をながめて、雲の走り去り雨の降りおわるのを待っていると、やがて盆を
覆
(
くつがえ
)
す勢いで風雨が殺到して来ました。
大菩薩峠:01 甲源一刀流の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
彳
部首:⼻
3画
“彳”を含む語句
彳立
彷徨彳亍