左様さう)” の例文
旧字:左樣
成程左様さう言はれて見ると、少許すこしも人をおそれない。白昼ひるまですら出てあすんで居る。はゝゝゝゝ、寺のなか光景けしきは違つたものだと思つたよ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
つれなる書生のしたり顔「左様さうサ、陸海軍御用商人、九州炭山株式会社の取締、俄大尽にはかだいじん出来星できぼし紳商山木剛造殿の御宅は此方こなたで御座いサ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
左様さうしてくれるんか。えらい覚悟をしてくれた。何んせ、学問よりや、名誉よりや、身代が大切ぢやで、えゝとこへ気がついた」
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
左様さうです」と代助は答へてゐる。親爺おやぢから説法されるたんびに、代助は返答に窮するから好加減な事を云ふ習慣になつてゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『マア、左様さうで御座いますか!』と一層驚いて、『わたしもアノ、其家そこへ参りますので……渡辺さんの妹様いもうとさんと、私と矢張やはり同じクラスで御座いまして。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
此処の屋根におちたのかと聞き違へたが左様さうではなかつた、多数の人々が長竿や梯子を持つていつまでも騒いでゐた。
五月のはじめ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
母親は今更悪い事をしたと思ひました、清らかな月の光りを見るのが恥かしくなりました、左様さうしてただ悲しさの余り畠の中に泣き伏してりました。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
はじめは先生せんせいわらひながら、ま、あなたが左様さうおもつてるのなら、しばらくさうしてきましやう。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「故人の意に反して」といふ批難は辞しやうが無いが、左様さういふ批難を加へらるゝ人々に対しては、我々が故人に向つて持つ敬意を聊かは考慮せられんことを請ふて置く。”
一葉の日記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
細君は細君で「ほんとに左様さうだ。妾のフェルナン」と答えていつも機嫌がいい。
二人のセルヴィヤ人 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
りやうさん学校がくかう御試験中ごしけんちうだとまをすではございませんか。アヽ左様さう。それにわたしところへばつかしらしやつてよろしいんですか。そんなことまでにするにはおよばない病気びやうきためにわるいから。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
従つて近時の翻訳は粗雑であるとか、乱暴であるとかいふのも筋の通らない論である、えて左様さういふ事は老人の言であるが——現筆者も老人であるが——それは全く事理をわきまへぬ言である。
翻訳製造株式会社 (新字旧仮名) / 戸川秋骨(著)
船頭「左様さうでもごぜへますめへ。秀八と寝言ねごとの手がありやアしませんかね。」
町中の月 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
左様さうかも知れません。この頃かういふ事が流行ださうですから。」
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「本当に左様さうでもて貰はねいぢや……」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
『どうしてまあ兄弟喧嘩きやうだいげんくわを為るんだねえ。』と細君は怒つて、『左様さうお前達にはたで騒がれると、母さんは最早もう気がちがひさうに成る。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そりや、ばあや、お前が日常いつも言ふ通り、老少不常なんだから、何時いつ如何どんなことが起るまいとも知れないが、かし左様さう心配した日には
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
左様さうした立場から眺めると、如何いかすさまじい光景でも、如何になまぐさい舞台でも、それに相応した内面的背景をそなへて居ないといふ点におい
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
左様さうして彼は、毎朝日課のやうに、何となく洞ろな感じに苦しい、酷く騒々しい手水を使ふやうになつてゐた。
秋晴れの日 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
皇太子はお玉母娘おやこを先立てゝやがて此家このうち這入はひりまして眼の前の不思議に感心をしました、左様さうしてこの娘が大きくなつたらば自分のきさきに貰ひたいと望みました。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
エ? 左様さう々々、君はまだ御存じなかつたんだ。罷めましたよ、遂々たうたう。何でも校長といふ奴と、——僕も二三度見て知つてますが、鯰髯なまづひげの随分変梃へんてこ高麗人かうらいじんでネ。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それでも親の慈悲や兄のなさけうかして学校へもく様に真人間にしてりたいと思へばこそ性懲しやうこりけよう為に、昨夜ゆうべだつて左様さうだ、一晩裸にして夜着よぎせずに打棄うつちやつて置いたのだ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
客「ムヽ左様さうだつけの。」(ト言ひながら船にいたる。)
町中の月 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「それは左様さうだらう」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
誰の隣に誰を据ゑて、誰の向ふを誰の席にして——左様さうなつて来ると、これでナカ/\面倒だ。それよりは矢張やつぱり日本料理に願ひたいトサ。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ちと、左様さう云ふ意見を発表したらいぢやないかと勧めると、左様さうかないよと笑つてゐる。何故なぜと聞き返しても答へない。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
左様さうです、し松本等の主張ならば、僕も驚きは致しませぬ、しかるにの温良なる、むしろ温柔のきらひある浦和武平が、涙をふるつて之を宣言したのです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
他の銅像達が左様さうであるやうに彼等も本来の自分の名前を呼び合ふ代りに、銅像の名称で称び合つてゐた。
山彦の街 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
左様さうか、そんな病気なら、少し炭を持つて来て呉れ、湯を沸すから。」とまた淋しく笑ひました。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
左様さうしてみな取り逃がしたと思つて残念がつて帰つてきました。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
客「左様さうだらうヨのウ。」
町中の月 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「あれが、左様さうです」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
『だつて、君、左様さうさとるより外に考へ様は無いぢやないか——唯新平民が美しい思想を持つとは思はれないぢやないか——はゝゝゝゝ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「なにうちにゐる書生ですがね。ひとに何か云はれると、屹度左様そんなもんでせうか、とか、左様さうでせうか、とか答へるんです」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
左様さうではありませぬ』と主張して居る様に見える。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
何卒どうぞ、私の書いたものをよく読んで見て下さい。」左様さう言つて置いて奥さんの前を引退ひきさがつた。あの心地こゝろもちは今だに続いて居る。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
左様さうぢやらうがな、もし。若いうちは誰もそんなものぢやけれ」此挨拶には痛み入つて返事が出来なかつた。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「三年てばヒドイものぢやないか。」と叔父さんは寂しさうに笑つて、「叔母さんのことも余程よほど忘れて来た——正直な話が、左様さうだ——」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
駄目だが一年もかうやられる以上は、おれも人間だから駄目でも何でも左様さうならなくつちや始末がつかない。どうしても早く東京へ帰つて清と一所になるに限る。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
愚図々々して居る時ぢやない、うつかりすると栄ちやんまでお嫁に行き損なつて了ふ。左様さう思つたから、ドシンと一つ電報で驚かして呉れた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
なに左様さうぢやないんでせう。実は母が看病に行つてるんですが、——もし病気のためなら、電車へつてけて来た方が早いわけですからね。——なに妹の悪戯いたづらでせう。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
左様さうサ……。」と御隠居さんも声を低くして、「それはさうと、柿田さんを彼様あゝして附けて置いても可からうか……。」
死の床 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
柿田かきたさん、なんでもかんでも貴方あなた被入いらつしつて頂くやうに、私が行つて院長さんに御願ひして来てげる——左様さう言つて、引受けて来たんですよ。」
死の床 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
左様さうかと思ふと、ゆるい流れのところへ出て、岸から垂下るやなぎの枯枝がバラ/\船の屋根へ触つたり、船頭がいで行くの音が水に響いて聞えたりした。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『母さまはキイキを癒しに被入いらつしやるんですよ。』と私が申上げましたら、『知つてるよ』なんて左様さうおつしやいまして……あれを思ふと御可哀さうで御座います。
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
病院の規則としては御断りするんだけれど、まあほかの方でないからツて、院長さんも左様さうおつしやるんですよ。
死の床 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「よく左様さういふ方が御座いますよ。雨の降る日には用達ようたしに歩くのも好きだなんて。」
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「もし病院の近所へ御家おうちでも御借りなさるやうでしたら、また御世話を致します。坊ちやま方を御連れなさるが可う御座います。いくらも左様さうして来て被入いらつしやる方が御座います。」
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
二人で雪の中に凍えたかも知れない……左様さうでなくてすら、あの際涯はてしの無い白い海のやうなところで、もうすこしで私は死ぬかと思つた……私は身体からだが寒いばかりだとは思はなかつた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)