山巓さんてん)” の例文
雪を被つた山巓さんてんも無論いゝ。がこの峠から見る富士は寧ろ山の麓、即ち富士の裾野全帶を下に置いての山の美しさであると思つた。
自分の側室で私が目をますと、小さな窓枠の中に、藍青色らんせいしょくに晴れ切った空と、それからいくつもの真っ白い鶏冠のような山巓さんてん
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
カルレムエ山脈第一の高峰ウルムナリ山巓さんてんが見えるでしょう。こんなに大きく見える望遠鏡を持っているのはこの中央天文台だけです。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
(11)この文章はイングラム版には「真理はわれわれがそれを探し求める渓谷にはなくて、それの見出される山巓さんてんにあるのだ」
一昨年は五月二十六日には山巓さんてんに降雪があり(信州浅間山にも同年五月二十四日九合目以上に約四、五寸の降雪があった)
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
海抜二千八百三米の山巓さんてんに立ちて、かくまでに冴え渡った展望観をほしいままにすることは、登山の最大快事であるというてよい。
大井川奥山の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
橘柚オレンジ檸檬リモネの林を見下し、高くは山巓さんてんの雲を踏み、低くは水草茂れる沼澤の上を飛びしときは、終に茫漠たる平野の正中たゞなかなる羅馬の都城に至りぬ。
ゲンパラ山巓さんてんの告別 私はそういう旧話を思い出して笑止おかしく感じたです。こりゃごく近頃の話でまだ二十年はたたない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
しかし、その季節以外は時偶ときたまれて、Rim-bo-ch'eリム・ボー・チェ(紅蓮峰)ほか外輪四山の山巓さんてんだけが、ちらっと見えることがある。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それより山道をあるいは登り、或いはくだり、山間の大子だいご駅の一里半ほど手前まで来かかると、日はタップリと暮れて、十七夜の月が山巓さんてんに顔を出した。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
しかも、この山からさらに次の峰に続き、またその隣りの山巓さんてんに列なり、それらの山々にはやはり小径がうねうねと木の葉隠れに見え隠れしていた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
毎日高尾の山巓さんてんにたって、一の鳥影も見のがさずに、わしの帰るのを待ちわびている者は、加賀見忍剣かがみにんけんその人である。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、山巓さんてんの松火の火が、いかにも粛然と隊伍を整え、悠々と動いて行くのを見ると、心を乱さざるを得なかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのときも博士は、山巓さんてんの草原まで小使手打ちの自慢の蕎麥切りを運ばせてきて、青空の下に嗜遊の宴を振舞った。
食指談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
もし形容の言葉を着ければ、正に小さな私たち二人は、遠い山巓さんてんから漲り落ちる大石の洪水の上にゐるのであつた。
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それから淡い煙のような山巓さんてんの雲の群、すべてそれらのものが朝の光を帯びて私の眼に映った時から、私はもう以前の自分ではないような気がしました。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
富嶽駿河の国に崛起くつきせしといふ朝、彼は幾億万里の天崕てんがいよりその山巓さんてんに急げり、而して富嶽の威容を愛するが故に、その殿居にとゞまりみて、遂にた去らず。
富嶽の詩神を思ふ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
さきに三河国の某女が、下駄がけを以て富士登山の先駆をなし、野中千代子が雪中一万二千尺の山巓さんてんに悲壮なる籠居ろうきょを敢てせし以来、奈良朝の昔、金峰山の女尼が
女子霧ヶ峰登山記 (新字新仮名) / 島木赤彦(著)
皆起出して、掛蒲団かけぶとんを探す。何時頃だったろう。——外は昼のように明るかった。月は正にヴァエア山巓さんてんに在った。丁度真西だ。鳥共も奇妙に静まり返っている。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
由子は遠く山巓さんてんに湧き出した白雲を見ながら、静かに心の中で愛する紅玉色の硝子玉を撫で廻した。
毛の指環 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
第三 積雪常ニ山巓さんてんヲ寒カラシム 故ニ升騰しょうとうノ気凝集シテ水湿ヲ山礀さんかんニ生ジ以テ江河ノ源ヲ養フ
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
けだし山巓さんてん平坦なるより名を得たるものならん、この山は各種の地理書にれたれば、明治の初年には知るものなかりしが如し、それより新式の鉄砲の渡来してより、越後、岩代
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
にわかに山巓さんてんの観測所に閉居するに至らば、あるいは予よりもきに倒るることなきをせず、ことに幾分測器の取扱とりあつかい位は、心得あるを要するがゆえに、ついにこれを伴わざるに決したり。
山巓さんてんてきみづる能はざるを以て、もちあぶりて之をくらふ、餅は今回の旅行りよこうに就てはじつに重宝なりき、此日や喜作なるものおくれていたり、「いわな」魚二十三尾をり来る、皆尺余なり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
が、それも無理はない、ユンクフラウの最初の登山は千八百十一年であるが、メョンヒは半世紀も遅れて五十七年の八月十五日になって、初めて山巓さんてんを人に示したとつたえられている。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
山巓さんてんでしたやうな深呼吸を一つして
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
山巓さんてんでしたやうな深呼吸を一つして
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
白妙に雪を被つた山巓さんてんも無論いゝ。が、この峠から見る富士は寧ろ山の麓、即ち富士の裾野全帶を下に置いての山の美しさであると思つた。
微妙な、ほのめきを投げる深夜の太陽のしたで、とおい、雪崩なだれの音を聴きながら、じっと考えているのだ。周囲の、山巓さんてんも氷河もまったく死の世界。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
なんでもこの山巓さんてんを少しくだったくさむらの中には、どこかに岩間から湧きいづ清泉せいせんがあるとは、日中ふもとの村で耳にしたので
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
どうっ——と山巓さんてんからふきおろしてくる暁闇の大気が、武蔵のからだへ雨かとばかりしずくを落し、松のこずえや大竹藪を潮騒しおさいのように山裾へけてゆく。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長次郎等を室堂むろどうに遣り、米味噌その他の必需品をあがなわしめ、吾等は悠々山巓さんてんを南に伝いて、午後二時、雄山。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
快晴の日は、富士の山巓さんてんも望まれるという。池のほとりに咲乱れた花あやめは楽しい感じを与えた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
勇しくび駈ける馬に立ちりでもしているように、しっかり、窓に向って両脚で突っ立って、遠い遠い山巓さんてんを眺めていると、車体の揺れと自然との交感が音波のように錯綜して
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
夜が明けて朝となり、朝日が山巓さんてんに射し出した時、倶係震卦教は説明を終った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
事実、重要なほうの知識となると、それはいつも表面うわべにあるものだと僕は信じる。深さは、真理を探し求める渓谷にあるのであって、その真理が見出される山巓さんてんにあるのではない(11)
自由は山巓さんてんの空気に似てゐる。どちらも弱い者には堪えることは出来ない。
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ロイドは、自発的に勤労を申出た二百人の土人を指揮して、未明から、ヴァエア山巓さんてんへの道をひらいていた。其の山頂こそ、スティヴンスンが、生前、埋骨の地と指定して置いた所だった。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
翌朝ネピを發してテルニイにいたりぬ。こは伊太利疆内きやうないにて最も美しく最も大なる瀑布ある處なり。われは案内者あないじやと共に、騎して市を出で、暗く茂れる橄欖オリワの林に入りぬ。うるほひたる雲は山巓さんてんに棚引けり。
は暗く、ただ焚火の光の空を焦がすのみ。雨は相変らずショボショボと降り、風は雑草を揺がして泣くように吹く、人里離れし山巓さんてん寂莫せきばくはまた格別である。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
そしてなお、士気を鼓舞するために、すべての兵が山巓さんてんの一端へ登りきると、そこで玄徳と関羽は、おごそかなる破邪攘魔はじゃじょうまの祈祷を天地へ向って捧げるの儀式を行った。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白衣の美女二人が山巓さんてんを去る尺余の天に双び舞ったということは、これを笠雲などの生じたものと見れば説明されぬことはないなどとさかしらぶることは、古人の心を知らぬものと称してよい。
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
自由は山巓さんてんの空気に似ている。どちらも弱い者には堪えることは出来ない。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
主観的なリアリズムは、志賀直哉の作品でその山巓さんてんが示されていた。
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
陣営のある所からまたすこし登った平井山の山巓さんてんに近い一平地である。秀吉はそこへ行って
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三尺ほどの高さに石を真四角に積み重ねてある山巓さんてんに達した。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
歴史の実をもって、現状の変を洞察どうさつし、また時局の底流をあんじ、多年、身は秀吉の一幕下に置いては来たが、心は高く栗原山の山巓さんてんから日本中のうごきと、時代の帰趨きすうとを大観して——或る結論を
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)