尿いばり)” の例文
尿いばりの音にちがいなかった。自分はある爽快さを感じ、どんな奴の仕業かと、たずねると、あなたのすぐ上にいる日本人がやるんです。
黒い手帳 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
さもなければ往来の真ん中に、尿いばりをする豚と向い合った時も、あんなに不快を公表する事は、当分差控える気になったかも知れない。
長江游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「もとより、初めは、耳にもかさずにおりましたが、甥御様が……尿いばりがしたい、尿をする間……と余り苦しがって仰っしゃいますので」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実は金丸と称するもので御座いまして、巴豆の細末と大黄の一両宛に鍋臍カサイ灰を混じて、是を白馬の尿いばりと、さうして
闘戦勝仏 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
貧乏を十七字に標榜ひょうぼうして、馬の糞、馬の尿いばりを得意気にえいずる発句ほっくと云うがある。芭蕉ばしょうが古池にかわずを飛び込ますと、蕪村ぶそんからかさかついで紅葉もみじを見に行く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
したがって、その力が落し金の最小内角に作用して、倒れたものが起きてしまうのだ。だから、デイの場合は、それが羊の尿いばりだったろうと思うのだがね。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
尿いばりなんか走りながらしたものだそうで、お大名の先棒をかついでいて失礼があっても、すでに本人が馬の気でいるんだから、なんのおとがめもなかったという。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
変心の暁はこれが口をききて必ず取立とりたてらるべしと汚き小判こばんかせに約束をかためけると、或書あるしょに見えしが、これ烏賊いかの墨で文字書き、かめ尿いばりを印肉に仕懸しかくるなどたくいだすよりすたれて
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
花のかげでは、かえるくから帰ろうと歌って、男の子がポツンとひとりで尿いばりをしている。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
腐れかけた麦藁屋根むぎわらやね、ぼろ/\くずれ落ちる荒壁、小供の尿いばりみた古畳ふるだたみが六枚、茶色にすすけた破れ唐紙が二枚、はえたまごのへばりついた六畳一間の天井と、土間の崩れた一つへっついと、糞壺くそつぼの糞と
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
アストレイの『西蔵チベット記』に、大喇嘛ラマの糞尿を信徒に世話しやりて多く利を得る喇嘛僧の事を載す、蒙古人その糞の粉を小袋に入れ頸に掛け、その尿いばりを食物におとして用うれば万病を除くと信じ
自分は氏が洋行の一二年前から交際つきあつたので、学生時代の氏については少しも知らない。唯氏と同期の後藤宙外氏の口から、氏は毎朝学校へ来るのに、校門の前に立つてきつときまつたやうに尿いばりをした。
尿いばりすれば金の光のひとすぢがさんさんと落ちてはぢきかへすも
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
尿いばりを放つ黒き牛
短歌集 日まはり (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
『爆撃機』はおいおい後退して柵のそばまで押しつけられ、そこで、少し尿いばりをし、間もなくその尿の上へどたりとひっくり返された。
小さな禅刹ぜんさつである。ここには、乾物や馬の尿いばりのにおいもしなかった。許されて山門をはいると直ぐ、松平元康のすがたが本堂に見えた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを今一々、列記する事は出来ない。が、彼の篠枝ささえの酒を飲んで、あと尿いばりを入れて置いたと云ふ事を書けば、その外はおよそ、想像される事だらうと思ふ。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
白い小山の向うから霧を散らした尿いばりが、キラキラ光って桟橋をぬらしている。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
芭蕉ばしょうと云う男は枕元まくらもとへ馬が尿いばりするのをさえな事と見立てて発句ほっくにした。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
硬雪かたゆき尿いばりしつつも先いそぐ友が提灯に言葉かけて居る
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
馬の尿いばりを飲んで、そして無事に行軍を終へた。
鏡地獄 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
まずこれが日本で女人立ち尿いばりの最古の文献だ。
薄縁うすべり尿いばりして逃る蛙かな
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
よくもよくもこううまく化けて来たものと——伊織は舌を巻くと共に、ぶるぶるッと、身ぶるいを覚えて、思わず、尿いばりを少し洩らしてしまった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
烏瓜からすうりせんじて飲んで見た事もある。鼠の尿いばりを鼻へなすって見た事もある。しかし何をどうしても、鼻は依然として、五六寸の長さをぶらりと唇の上にぶら下げているではないか。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
京の春は牛の尿いばりの尽きざるほどに、長くかつ静かである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
狂人きちがひの赤き花見て叫ぶときわれらしみじみ出て尿いばりする
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼は、小川へ向って、尿いばりをしながら、しばらく悠々と、附近の様子を見とどけ、さてと、おもむろに懐中ふところから廻文を取り出して読んでみると——
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしこんな時代遅れの議論は誰の耳にもとまるはずはない。のみならず新聞のゴシップによると、その代議士は数年以前、動物園を見物中、猿に尿いばりをかけられたことを遺恨いこんに思っていたそうである。
猿蟹合戦 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
青萱原尿いばり放つとこの父と竝ぶか早やいさぎよし
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
口輪くちわからふり飛ばされて、しりもちをついたり、また空走からばしり(試走)のこまが、やんごとなき御座の正面で、ゆうゆうと尿いばりをしたりすることである。
青萱原尿いばり放つとこの父と竝ぶか早やいさぎよし
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
尿いばり小路の子供たちは、忽ち道をはばめて、寄りたかったが、三名のばてれんは、うるさい顔もせず、片語かたことの日本語でにこにこさとしながら歩いていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尿いばりしつつ…………われのただ凝視みつめてありし
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして片側に断崖をのぞむ曲り角へかかると、半兵衛の家を立つまでこらえていたものを、ふいに思い出したらしく、断崖に立って谷間へ尿いばりを放った。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
路のべに尿いばりする和蘭人おらんだじんの——
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
馬の尿いばりいで農家ののみに喰われたり、下のかまどく煙にいぶされながら木賃の屋根裏で寝るときよりも、寺に泊って寝られる夜はもっとも恵まれた晩である。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
尿いばりする和蘭陀人…………
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
それは寒さのせいであると、自分の観念をいてうなずかせながら、時々、尿いばりでもつかえたように、腰の下から顔の先までぶるぶると身ぶるいを走らせていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……そうれ。牛が歩みを止めてしもうたわ。菊王が何を泣くかと、牛めは振向きながら、尿いばりしおるぞ」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その側で、荷を積んだ馬が、とうとうと尿いばりをしていた。尿の泡が、伊織のほうにながれて来る。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……と、こうおどかしなさるので、一人がつい解いて、彼方の木蔭へ、尿いばりをしに連れて参りました
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なに。水をくれと。血水けっすいならあるが、蜜水などあるものか。馬の尿いばりでものむがいいさ……」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「野郎、こっちを向いて、尿いばりをしていやがる。——佐々の旦那、もうなんぼ何でも、堪忍はできますまい。注連しめを張って、おれたちは仕事をしているってえのに、犬のような」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
具足やよろいや、顔までも、白い米の粉にまみれている隊将の姿などもあった。わき眼もふらぬ将士が、そうしてがやがや労働している中で、馬は悠々ゆうゆうと、あちこちで尿いばりをしていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、かきの古竹やら床板をはいでかしぎのき物にしたり、幼い子らが、あかじみた身なりでピイピイ泣きながら、尿いばりの垂れながしをしていようと、かの女は知った顔つきではない。
颯々さっさつと、尿いばりの霧を降らしながら、沢庵は星でも数えているように天を仰いでいる。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またせめて、主上、法皇、上皇、女院がたなどには、のみしらみのなやみや馬の尿いばりに近いむしろはぜひないとしても、露をしのぐ茅屋根かややねの下でもと、自身奔走していくつかの山家を御宿所にさがし求めた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なに、尿いばりがしたいと」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)