きれい)” の例文
「どうして、江戸の女子はきれいでございますから」と、云って主翁は急に用を思い出したようにして、「命日は何日いつでございます」
立山の亡者宿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
秀夫はそのじょちゅうにビールの酌をしてもらいながら、琵琶びわいていたきれいな婢のことを聞こうと思ったが、それはまりがわるくて聞けなかった。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは小供小供した一度も二度も見たようなどこかに見覚みおぼえのあるきれいな顔であった。視線があうと女の口許くちもとに微笑が浮んだ。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「今朝、某寺の前を某が通っていると、板女らしいきれいな女が来るから、手執てどりにしようとすると、寺の板壁へ引附いて、そのまま見えなくなった」
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
下廻したまわり田舎いなかを歩いていた時、某町あるまちで楽屋遊びに来る十七八のきれいな女を見つけた。それは髪結かみゆいをしている唖女であった。
唖娘 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
婆さんの額には、門跡様の白い青みがかったきれいなお手がかかっておりました。私は門跡様が婆さんを煩がって、お突きになったものだと思いました。
尼になった老婆 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
秀夫は後戻あともどりをして牡蠣船の前からまた新京橋のほうへ往って最初の場所に立って見た。きれいじょちゅうは琵琶を持っていた。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこには真中に寝台があってその寝台のへりきれいな主婦が腰をかけて、じっと眼をえて入って来る讓の顔を見ていた。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
と、女は背後うしろ揮返ふりかえって白いきれいな顔を見せた。彼はまたはしたないおのれの姿に気がいたのでちょっと立ちどまった。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
きゃしゃなきれいな顔をした、どこか貴公子然たるところのある男であった。それは清明の節に当る日のことであった。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼はがっかりして引かえして来たが、その束髪そくはつにさした赤い花と、きれいな顔は、眼の前にちらちらとしてもう思想をまとめようとする気分がなくなっていた。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そしてきれいな女がいなければ別に飲みいはしたくないので一時間ばかりで出て来たが、姝な女のことが気になるので新京橋の上へ往くとまたり返って見た。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
太郎左衛門は二人の女をれて、じぶんの家へ帰り女房やじょちゅうに云いつけて二人の世話をさした。二人は江州ごうしゅうから来た者でわかい方の女は色の白いきれいな顔をしていた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そして、絹川の土手にとりついたころには、きれい樺色かばいろに燃えていた西の空がくすぶったようになって、上流かわかみの方はうっすらした霧がかかりどこかで馬のいななく声がしていた。
累物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは白いきれいな顔であった。芳郎ははしたない己の行為に気がいて立ちどまるように足を遅くした。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
歩くともなしに土橋どばしの上まで歩いて往った山西は、ふと橋のむこうからきれい小女こむすめの来るのを見た。それは友禅ゆうぜん模様の鮮麗あざやかな羽織を着た十六七の色の白い女であった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
山村の家の前に五六人の小供が遊んでいると、壮いきれいな女が来てずんずんと門の中へ入って往った。小供達は見知らない姝な女を見たので好奇ものずきに玄関までいて往った。
参宮がえり (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
わかきれいな女ですよ、藍微塵あいみじん衣服きものを着て、黒襦子くろじゅすの帯を締め、頭髪かみ円髷まるまげうております」
藍微塵の衣服 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
乳色をしたグローブかられる朧夜おぼろよの月の光を盛ったような電燈の光、その柔かな光に輪廓のはっきりしたきれいな小さな顔をだした女給のおようは、客の前の白い銚子をって
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その時泉水に面したへや障子しょうじいて、そこから三十位に見える洋髪ようはつきれいな女の顔が見えた。
藤の瓔珞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
李張は女の美にうたれた。このきれいな女はどんな秀才の夫人であろう、と、思いながら立ちどまってその轎を見送っていたが、その足は何時いつの間にか轎の往く方へ動きだした。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼は茱萸ぐみの枝にきものすそを引っかけながらすぐ傍へ往った。女はきれいな顔をまたこっちに向けた。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
背のすらりとしたきれいな女が青い上衣うわぎを着た小婢じょちゅうに小さな包を持たせて雨に濡れて立っていた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女は小柄な青い友禅ゆうぜん模様の羽織はおりを着ていた。……小間使にしてはきれいな女だぞ、と彼は思った。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
讓は何時いつの間にか土間どまへ立っていた。背の高い蝋細工ろうざいくの人形のような顔をした、黒い数多たくさんある髪を束髪そくはつにした凄いようにきれいな女が、障子しょうじ引手ひきてもたれるようにして立っていた。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それにそこにはきれいな女がたくさんいて、それが何か唄いながら踊ってたのですが、それが私の方を見て、いっしょに踊らないかと云って招くものですから、ついその気になって
妖女の舞踏する踏切 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは顔の沢々つやつやしたきれいな女で、黒っぽい色の衣服きものを着ていたが、絹物の光のあるものであった。侍は一眼見て路が判らないで当惑している者らしいなと思った。侍は聞いてみた。
花の咲く比 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
売卜者はきれいな男であった。長者の女はこの噂を侍女の口から聞いて心をそそられた。そして、その侍女の計いで、一室で書見している売卜者の美しい姿を透して見ることができた。
鮭の祟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
三十位に見える大丸髷おおまるまげ年増としまが、其のころ流行はやった縮緬細工ちりめんざいくの牡丹燈籠を持ち、其の後から文金の高髷たかまげに秋草色染の衣服を、上方風の塗柄ぬりえ団扇うちわを持った十七八に見えるきれいな女が
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その窓の下にも真紅な天鵞絨を張った寝椅子ねいすをはじめ種種いろいろの椅子がきれいに置いてあった。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
別れていた捕卒はいつの間にかいっしょになって、最後の奥まった離屋へ往った。そこは一段高い室になって、一人の色の白い女が坐っていた。衣服きものの赤や青のきれいな色彩が見えた。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは二十はたち位の眼の澄んだきれいな女であった。岡本は松山をちらと見てにやりと笑った。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それにわかきれいな顔をしている時があったり、凄い狼のような顔をしている時があったり、また背の高い時があったり、背の低い時があったりして、そればかりでも疑うには充分であった。
山姑の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二十二三のわかい男の姿が其処に見えた。色の白い赤い唇をしたきれいな男であった。新一はこの人はべつに盗人のようでもないらしい、どうした人だろうと思いながら腰のほうに眼をつけた。
狐の手帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「見えるでしょう、白いきれいな蛇よ」源吉は前に指をさして、「それその蛇よ」
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
長兵衛がそれと見て中をのぞきに往った。中には縁側付のちん座敷があって、夏なりの振袖をきれいな娘が傍においた明るい行燈の燈で糸車を廻していた。長兵衛は伊右衛門にそれを知らせた。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
藤枝は門の懸金かけがねをかけ、飛びだしたままで開け放してあった玄関の障子を締めて、刀をりながら次のへやへ往った。きれいな女が行燈の前で胡坐あぐらをかいて、傍に飯櫃めしびつを引き寄せて飯をっていた。
女賊記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこらあたりを逍遙そぞろあるきしておって、何の気なしに、ふと己の居間のほうを見ると、壮いきれい女子おなごがいて、寝床の蚊帳を釣っておる、其の繊細きゃしゃな白い手が、行灯の光に浮彫のようになって見えると
人面瘡物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何時いつも草花を折って頭髪かみしていた、せぎすな、手足のしんなりとした、それはきれいむすめであったよ、そのむすめ在所ざいしょへ往くには、小さな岬の下の波の打ちかける処を通らねばならなかったが
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その巌から人の脊丈せだけを三ついだ位離れた海の中に、満潮みちしおの時には隠れて、干潮ひしおの時に黒犬の頭のような頭だけだすはえがあるが、そこにきれい女子おなごが、雪のような白い胸を出しているじゃないか
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
伝蔵は白いきれいな顔をうっとりとさして麻をつないでいるお種の方を見た。
蟹の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
の三十位の背のすらりとしたきれいな女が入って来たところであった。女はすそに花模様のある黒の錦紗御召きんしゃおめしを着ていた。憲一はその気品のある姿に圧せられるように思った。憲一はちあがった。
藤の瓔珞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
轎の中はひっそりとしていて、何人たれも乗っていそうにないし、見ているものもないので、轎の傍へ寄って往ってれをあげた。垂れをあげて農夫は驚いた。轎の中にはお姫さまのようなきれいな女がいた。
棄轎 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
細面ほそおもてきれいな女でした、その女が、下谷したやに住んでいる旗本はたもとの三男に見染みそめられて、たってと所望しょもうされて、そこに嫁に往ったところが、その男がすぐやまいで亡くなったので、我家うちへ帰って来ているうちに
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
神中に似て弱よわしてどこか夕顔の花のようなたよりないその顔が浮かんでくると、その女はどうしているだろう、きれいな女であったから、早く良縁があって結婚でもしているかも判らないと思った。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お鶴と品のある中年のきれいな女がいた。お鶴は平生いつもの調子であった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「ないことがあるものか、きれいな奥さんが、いるじゃないか」
藤の瓔珞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「そうでございましょうか、私達のような一度も往ったことのない田舎漢いなかものは、どうかして東京に住みたいと思いますわ、花のように着飾ったきれいな方が、ぞろぞろとまちいっぱいになって歩いておりましょう、ね」
草藪の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小八の傍にはわかきれいな女が笑い顔をして坐っていた。
立山の亡者宿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女はくつろぎのあるきれいな顔をしていた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)