大通おおどおり)” の例文
兎角とかくするうちに馬車は早やクリチーの坂を登り其外なる大通おおどおりを横に切りてレクルースまちに入り約束の番地より少し手前にて停りたり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
種彦は遠くもあらぬ堀田原ほったわらの住居まで、是非にもお供せねばという門人たちの深切しんせつをも無理に断り、夜涼やりょうの茶屋々々にぎわう並木の大通おおどおり横断よこぎって
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そしてとうとう、自分でその幻燈の中へ這入はいって行った。私は町の或る狭い横丁よこちょうから、胎内めぐりのようなみちを通って、繁華な大通おおどおりの中央へ出た。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
そこで、ことによると、だれかとおりがかりの人が気のどくに思って承知してくれるかもしれないと、そんなことを当てにして、大通おおどおりへ腰をおろしました。
こころ不覚そぞろ動顛どうてんして、いきなり、へや飛出とびだしたが、ぼうかぶらず、フロックコートもずに、恐怖おそれられたまま、大通おおどおり文字もんじはしるのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
砂地のけつくようなの直射や、木蔭こかげ微風びふうのそよぎや、氾濫はんらんのあとのどろのにおいや、繁華はんか大通おおどおりを行交う白衣の人々の姿や、沐浴もくよくのあとの香油こうゆにおい
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
小さな中学生達の航海は、大通おおどおりまっすぐに歩くことよりも、人の知らないような航路をとる方が面白いに違いないと思われました。それで、二人はそうしました。
みな表町おもてまちなる大通おおどおりの富有の家に飼われしなりき。夕越ゆうごえくれば一斉にねぐらに帰る。やや人足繁く、戸外おもて往来ゆきかうが皆あおぎて見つ。楓にはいろいろのもの結ばれたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この身の周囲まわりの生活が、突然自分を嘲笑あざわらって、敵意をひょうしているように感ぜられて、切なかったのである。女は男の手を引っ張って、大通おおどおりけて静かな横町から内へ帰り掛けた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
その辺にのきを並べている夜店の屋台が、ドーッと彼の方へ押寄せて来るような気がした。彼は明るい大通おおどおりをなるべく往来の人たちの顔を見ないように、あごを胸につけてトットと公園の方へ歩いた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大通おおどおりいずれもさび、軒端のきば暗く、往来ゆきき絶え、石多き横町よこまちの道はこおれり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
大通おおどおりや広い辻がある。10145
平坦なる大通おおどおりは歩いて滑らずつまずかず、車を走らせて安全無事、荷物を運ばせて賃銀安しといえども、無聊ぶりょうに苦しむ閑人かんじんの散歩には余りに単調にすぎる。
過年いつか、水天宮様の縁日の晩でしたっけ、大通おおどおりのごッた返す処をちっとばかり横町へ遠のいて明治座へこうという麺麭屋パンやの物置の前に、常店じょうみせで今でも出ていまさ
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると、こんどは大通おおどおりから横町の方へ風が吹きまわしたので、幸太郎の帽子も、風と一しょに、横町へ曲ってしまいました。そしてそこにあったビールたるのかげへかくれました。
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
いまから大凡おおよそ十三四ねん以前いぜん、このまちの一ばん大通おおどおりに、自分じぶんいえ所有っていたグロモフとう、容貌ようぼう立派りっぱな、金満かねもち官吏かんりがあって、いえにはセルゲイおよびイワンと二人ふたり息子むすこもある。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
けれども夕日と東京の美的関係を論ぜんには、四谷よつや麹町こうじまち青山あおやま白金しろかね大通おおどおりの如く、西向きになっている一本筋の長い街路について見るのが一番便宜である。
すぐ電車で帰りましょうと、大通おおどおり……辻へ出ますと、電車は十文字に往来する。自動車、自転車。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
アスフヮルト敷きつめた銀座日本橋の大通おおどおり、やたらにどぶの水をきちらす泥濘ぬかるみとて一向驚くには及ぶまい。
蝙蝠こうもりが黒く、見えては隠れる横町、総曲輪から裏の旅籠町はたごまちという大通おおどおりに通ずる小路を、ひとしきり急足いそぎあし往来ゆききがあった後へ、ものさみしそうな姿で歩行あるいて来たのは、大人しやかな学生風の
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
車の音がにわかに激しい。調子の合わない楽隊が再び聞える。すなわち銀座の大通おおどおりを横切るのである。乗客の中には三人づれ草鞋わらじばき菅笠すげがさの田舎ものまでまじって、また一層の大混雑おおこんざつ
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大通おおどおりへ抜ける暗がりで、甘く、且つかんばしく、皓歯しらはでこなしたのを、口移し……
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仕方がないので重吉は玉子と共に四谷の大通おおどおりへ出て、やっと歯医者をさがし、再び診察してもらうと、今度はいよいよ重症ということで、歯科医が附添って慶応義塾けいおうぎじゅくの病院へ患者を送った。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
見物はいまきたり集わず。木戸番のともしび大通おおどおりより吹きつくる風に揺れて、肌寒う覚ゆる折しも、三台ばかりくるまをならべて、東よりさっと乗着けしが、一斉にながえをおろしつ、と見る時、女一人おり立ちたり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
物案顔ものあんじがお俯向うつむいて行く種彦をば直様すぐさま広い並木の大通おおどおりへと導いた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)