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執拗
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しつよう
ふりがな文庫
“
執拗
(
しつよう
)” の例文
するとその中の幾匹かが、これは
湛
(
たま
)
らないと言ったふうに、大急ぎで逃げ出した。けれども
未
(
ま
)
だその大多数は
執拗
(
しつよう
)
に喰い付いていた。
首を失った蜻蛉
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
ロシアの
片田舎
(
かたいなか
)
のムジークの鈍重で
執拗
(
しつよう
)
な心持ちがわれわれ観客の心の中にしみじみとしみ込んで来るような気がしないことはない。
映画雑感(Ⅰ)
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
寧
(
むし
)
ろ気分が落ち着いて来ると、今度は前よりも一層
明瞭
(
めいりょう
)
に、一層
執拗
(
しつよう
)
に、ナオミの肉体の
細々
(
こまごま
)
した部分がじーッと思い出されました。
痴人の愛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
ひろい正義愛、
執拗
(
しつよう
)
な真実の探求、純粋な生活の
讃美
(
さんび
)
、ことにきびしいストイシスム、
高邁
(
こうまい
)
な孤独な魂の悲痛な表情がそこにある。
博物誌あとがき
(新字新仮名)
/
岸田国士
(著)
私は何でもなしに言ったのだけれど、みさをは、私の言葉が
癪
(
しゃく
)
にさわったのか、
執拗
(
しつよう
)
にだまりこくって
莨
(
たばこ
)
ばかりふかしていました。
アパートの殺人
(新字新仮名)
/
平林初之輔
(著)
▼ もっと見る
つい一瞬まえまでの
執拗
(
しつよう
)
な、
昂
(
たか
)
ぶった表情は拭き去ったように消え、まるで人が変りでもしたようなおちつきと威厳をとり戻していた。
彩虹
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
野田は陰気なむっつりした男で、ときに卑屈に見えるところがあって、好きではなかった。けれども、彼には愛と熱と
執拗
(
しつよう
)
とがあった。
五階の窓:04 合作の四
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
「いまお一人はどなたですか——」などとも問うたが、女が困って何んとも返事をせずにいても、それ以上
執拗
(
しつよう
)
には尋ねなかった。
姨捨
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
その意見をここに述べるのは、それが新奇なため(他の人々
(6)
はそう考えている)よりも、彼が
執拗
(
しつよう
)
にそれを固持したためである。
アッシャー家の崩壊
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
おそらく太子の妃や侍女達が、日夜念じつつ縫ったのであろうが、その一針一針に女の愛情と信仰が
執拗
(
しつよう
)
にこもっているようにみえる。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
まっ黒い油煙をあげる毒々しいほどの赤い
焔
(
ほのお
)
が、濃厚な樹脂に
執拗
(
しつよう
)
にしがみついて離れなかった。吹きおろす夜風も受けながしていた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
シューマンらしい
執拗
(
しつよう
)
な暗さはあるにしても、とにもかくにも飛躍的で、シューマンの生涯のうちでも幸福な時期を暗示する曲である。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
あれほど、気性の激しい父も、不快な
執拗
(
しつよう
)
な圧迫のために、
自棄
(
やけ
)
になったのではないかと思うと、その事が一番彼女には心苦しかった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
一度ならず二度ならず
手許
(
てもと
)
へ引き寄せてみようとする
執拗
(
しつよう
)
さには、かかる体験の副産物をも計算に入れていないわけではなかった。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
しかし、その情景をかくも
執拗
(
しつよう
)
に記し続ける作者の意図というのは、けっして、いつもながらの
饒舌
(
じょうぜつ
)
癖からばかり発しているのではない。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
感謝のような気持がその生命力に向って起る。だが、その生命力はまた子の成長後かの女の愛慾との応酬にあまり迫って
執拗
(
しつよう
)
だ。
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
彼の発作的な
不機嫌
(
ふきげん
)
や、
執拗
(
しつよう
)
な沈黙や、陰気な様子や、乱暴な振舞などは、このような家にあっては少しも人を驚かすものではなかった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
しかし葉子に対しては倉地は前にもまさって
溺愛
(
できあい
)
の度を加え、あらゆる愛情の証拠をつかむまでは
執拗
(
しつよう
)
に葉子をしいたげるようになった。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
「ポルフィーリイ・ペトローヴィッチ、どうかそんなことを考えないでください」ときびしい
執拗
(
しつよう
)
な調子で、ラスコーリニコフは言った。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
しかしこういう気持ちの間にも自分の胸を最も激しく、また
執拗
(
しつよう
)
に煮え返らせたのは同胞の不幸を目ざす放火者の噂であった。
地異印象記
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
憤怒
(
ふんぬ
)
の対象は、いつもきまって同居のかの壮年の男に向けられ、恐ろしい老人のいっこくさで
執拗
(
しつよう
)
に争いつづけるのであった。
癩
(新字新仮名)
/
島木健作
(著)
しかし運動性の狂躁は鎮まるどころか、
却
(
かえ
)
って募る一方だった。
枷
(
かせ
)
から自由になろうとして、彼は何時間もぶっ通しの
執拗
(
しつよう
)
な努力を試みた。
紅い花
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
奪わんとする高御曹司の
執拗
(
しつよう
)
な
呪咀
(
じゅそ
)
が、さまざまな形となって、わが妻と家庭を悩まし
脅
(
おびや
)
かし通してきたものに違いありませぬ
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
いかにものずきな者も彼女の沈黙にはどうすることもできず、いかに
執拗
(
しつよう
)
な者も彼女の
頑固
(
がんこ
)
にはどうすることもできなかった。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
威丈高
(
いたけだか
)
にわめき立てると、
執拗
(
しつよう
)
な上にも執拗に
挑
(
いど
)
みかかりましたので、等しく群衆がはらはらと手に汗をにぎった途端——。
旗本退屈男:01 第一話 旗本退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
部屋にかえると私は壁の黄色いボタンを
執拗
(
しつよう
)
に押えつけて印度女の乱暴さをのろうように苛酷に一瞬間を指の先に約束する。
孟買挿話
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
執拗
(
しつよう
)
に丸太の柱につかまっている一寸法師と、それを又
依怙地
(
いこじ
)
に引きはなそうとしている紫繻子、その光景に一種不気味な前兆が感じられた。
踊る一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
私はまた変な不安の
念
(
おも
)
いを
抱
(
いだ
)
きながら、あまり
執拗
(
しつよう
)
に留めるのも大人げないことだと思って女のいうがままにさしておいた。
黒髪
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
何のためにそうするのかは、うろついていた人たちにもわかるまいが、そうした煩わしさは彼女をいつまでも
執拗
(
しつよう
)
なくらいにゆるさなかった。
芳川鎌子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
あの厭な、マニヤックな眼が、私の表情に
執拗
(
しつよう
)
にそそがれている。
何気
(
なにげ
)
なく振舞おうと思った。飲みほそうと食器を持った手が少しふるえた。
桜島
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
そして
執拗
(
しつよう
)
にじろじろ
睨
(
ね
)
めまわしている。私はぞっとした。私は
眩暈
(
めまい
)
を感じて倒れかかり、危く近所の土人の家に
辿
(
たど
)
りつき、休ませて貰った。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
世の中のどんなに偉い学者達が、どんなに精密な考証を
楯
(
たて
)
にこの説を一笑に付そうとしても、作者はただもう
執拗
(
しつよう
)
に主張し続けるだけなのです。
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
あの強い精神力を示す
執拗
(
しつよう
)
な思索のうちには何かこのような肉体的なものがあり、それが先生の文章の迫力ともなっているのではないかと思う。
西田先生のことども
(新字新仮名)
/
三木清
(著)
そして野菜売りに変装して少しばかりの荷をかつぎ、
執拗
(
しつよう
)
にもH・デューラン氏の裏口から入り込んだ。昨夜の今日で警戒は慎重を極めている。
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
あまりに
執拗
(
しつよう
)
な愛情というものは女の愛情をついに封じこめてしまうものであった。つまり、どういう
術
(
すべ
)
も施しようもなくなってしまうのである。
花桐
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
人見小六などはネチネチ
執拗
(
しつよう
)
で煮えきらなくて小心臆病、根は親切で人なつこいタチなのだが、つきあいにくい男だ。
不連続殺人事件
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
ルパンを相手のガニマール探偵のようなきびしい捜査や家人や雇人たちについての
執拗
(
しつよう
)
な
訊問
(
じんもん
)
が行われることと思ったのに、そんなことはなかった。
すり替え怪画:烏啼天駆シリーズ・5
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
よしんば、あったにしたところで、人の命というものは、明日をも知れぬもの、どうにでも弁解はつく、そう
執拗
(
しつよう
)
に追究するほどのことはなかろう。
勧善懲悪
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
そして人麿はこういうところを歌うのに決して軽妙には歌っていない。飽くまで実感に即して
執拗
(
しつよう
)
に歌っているから軽妙に
滑
(
すべ
)
って行かないのである。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
脚が釘抜のように曲っているところから、釘抜藤吉という異名を取っていたが、実際彼の顔のどこかに釘抜のような正確な、
執拗
(
しつよう
)
な力強さが現れていた。
釘抜藤吉捕物覚書:01 のの字の刀痕
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
更に私たちは細胞会議の決議として、「マスク」の
編輯
(
へんしゅう
)
で、工場内のファシスト、社会ファシストのバクロを新しく
執拗
(
しつよう
)
に取り上げてゆくことにきめた。
党生活者
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
だが物悲しい
執拗
(
しつよう
)
さで堂々回りしている、あの毛も
擦
(
す
)
り切れ、老いさらばえた、薄汚いだけに哀れもひとしおの熊を脳裏に浮べると、それを食うなどとは
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
が、彼女もこの言葉の意味をもっとほんとうに知っていたとすれば、きっと昔ほど
執拗
(
しつよう
)
に何にでも「考えて御覧なさい」を繰り返す
愚
(
ぐ
)
だけは
免
(
まぬか
)
れたであろう。
少年
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
そして、船主は、二十人の人間のことよりも、その沈没するのが当然なほど腐朽し切った、ぼろ船の運命に対して、高利貸式の
執拗
(
しつよう
)
さでくやしがってるだろう
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
依然として
執拗
(
しつよう
)
な処はあったけれども、漸く親しくなって見るとこれもまた老いたる憐れなる善人であった。
子規居士と余
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
元来吾輩の考によると
大空
(
たいくう
)
は万物を
覆
(
おお
)
うため大地は万物を
載
(
の
)
せるために出来ている——いかに
執拗
(
しつよう
)
な議論を好む人間でもこの事実を否定する訳には行くまい。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
亜字は
支那
(
シナ
)
太古の官服の模様として「取臣民背悪向善、亦取合離之義去就之義」といわれているが、
勧善懲悪
(
かんぜんちょうあく
)
や
合離去就
(
ごうりきょしゅう
)
があまり
執拗
(
しつよう
)
に象徴化され過ぎている。
「いき」の構造
(新字新仮名)
/
九鬼周造
(著)
駒井は久しぶりで、わが家の敷居をまたいで、はじめて、この罪の
執拗
(
しつよう
)
なことを強く感じました。そこで、彼は亡き父と母とのことを深刻に回想してきました。
大菩薩峠:22 白骨の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
その感じはハッキリしており、眼の前を飛ぶ小虫のように、
執拗
(
しつよう
)
に追いのけられないものであった。そしてなお不吉なことには、いつも必ず適中するのであった。
ウォーソン夫人の黒猫
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
死して、なお、旗を右手に歯ぎしりしつつ
巷
(
ちまた
)
をよろばいあるくわが身の
執拗
(
しつよう
)
なる
業
(
ごう
)
をも感じて居るのだ。
もの思う葦:――当りまえのことを当りまえに語る。
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
執
常用漢字
中学
部首:⼟
11画
拗
漢検1級
部首:⼿
8画
“執拗”で始まる語句
執拗度
執拗無殘