凛然りんぜん)” の例文
と秀子さんは凛然りんぜんとして謝絶した。新太郎君は又冷汗三斗だった。それから種々いろいろと御機嫌を取ったが更に効果が見えなかった。帰りには
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「待て!」とこの時頼正は、凛然りんぜんとして抑え付けた。「帰館する事まかり成らぬ! 誰かある、湖中へ飛び入り灘兵衛の生死を見届けるよう!」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
きまりの魚軒さしみふと、だいぶ水氣立みづけだつたとよりは、あせいて、かどおとして、くた/\とつて、つまの新蓼しんたで青紫蘇あをじそばかり、みどりむらさきに、凛然りんぜんつたところ
祭のこと (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
娘の時代に仕込み入れた人間としての教養と、天稟てんぴんのしとやかな寂しいうちに包んだ凛然りんぜんたる気象は、彼女をただのくだらない肉欲の犠牲者とのみはしておかなかった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
颯爽さっそうとしたその英姿! 凛然りんぜんとしたその弓姿ゆんすがた! 土壇のあたり、皎々こうこうとしてまばゆく照り栄え、矢場のここかしこ仙台藩士の色めき立って、打ち睨むその目、にぎりしめる柄頭つかがしら
僕は好んでプルタークの『英雄列伝』を読む、読んでいるあいだに古代の英雄豪傑の勇気凛然りんぜんたること、いわゆる強いことに何もかも忘れてふるい上がるごとく感ずることがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かのくにの制、天子のおくは、くに黄瓦こうがを以てす、旧瓦は用無し、まさに黄なるにかわるべし、といえる道衍が一語は、時に取っての活人剣、燕王宮中の士気をして、勃然ぼつぜん凛然りんぜん糾々然きゅうきゅうぜん
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼の表情にある効果の表われたこともたしかめて、誇らかに凛然りんぜんとそこを離れた。
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
絶食しつづけた彼れらが、重いよろいを着て、勇気凛然りんぜんたる顔附きをして、雪の大路を濶歩かっぽするその悲惨なる心根——それは実際の困窮を知らぬものには想像もつきかねるいたましさである。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その間を押しわけて前に出てみると、ホテルの建物はひどくかたむき、今にも転覆てんぷくしそうに見えていた。その前に、蟹寺博士が、まるで生き残りの勇士ゆうしのように只一人、凛然りんぜんとつっ立っていた。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そうさな。俺も見たわけでないが、ぎつけた部下のはなしによると、まだ若いみすぼらしい風態ふうていの男だが、どこか凛然りんぜんとしているから、油断のならない人間かも知れないといっていたが」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
イソ/\として燃え上がる火影に凛然りんぜんたるをひかほながめて「何時いつも丈夫で結構だの、余り身体からだ使ひ過ぎて病気でも起りはせぬかと、私ヤ其ればかりが心配での」と言ひつゝ見遣みやる伯母のおもて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
意気いき凛然りんぜんたる一行中尤いちじるし、木村君ははじめ一行にむかつて大言放語たいげんはうご、利根の険難けんなん人力のおよぶ所にあらざるを談じ、一行の元気を沮喪そさうせしめんとしたる人なれ共、と水上村の産にして体脚たいきやく強健きやふけん
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
『これ、稻妻いなづまおまへすぐれたるいぬだから、すべての事情じじやうがよくわかつてるだらう、よく忍耐しんぼうして、大佐たいさいへたつしてれ。』と、いふと、稻妻いなづまあだかわたくしげんごとく、凛然りんぜんとしてつた。
が、そのとき、紅琴の凛然りんぜんたる声を背後に聞いたのだった。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
答えずに黙々として右門はしばらくの間考えていましたが、と、俄然がぜんそのまなこはいっそうにらんらんと輝きを帯び、しかも同時に凛然りんぜんとして突っ立ち上がると、鋭くいいました。
団君は決して見惚れたんじゃないと言うが、誰が判定しても凛然りんぜんとはしていない。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
言葉つきも態度も堂々たるものだし、殊に相貌そうぼうが際立って凛然りんぜんとしてきた。「こいつは占めた上々吉だ」勝負はこっちのものだと思い、末席にいる紋太夫などは貧乏揺ぎをしたくらいである。
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
もとよりあのくらいのかただから、誰だッてげるさ、けれどもね、その体度たいどだ、その気力きあいだ、猛将もうしょうたたかいのぞんで馬上にさくよこたえたと謂ッたような、凛然りんぜんとしてうばうべからざる、いや実にその立派さ
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
資朝の言葉は凛然りんぜんとしていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
右門は凛然りんぜんとして、もはやむっつり右門にかえり、江戸から用意の雪駄せったをうがち、天蓋てんがいを深々と面におおい、腰には尺八をただ一つおとし差しにしたままで、すうと表のやみの中へ
涼しく澄みとおった双眸そうぼう、鼻も口も耳も頬も、雑作ぞうさくのすべてが選りぬきの資材と極上の磨きでととのえられている、しかも潤沢な水分と弾力精気に充満した肉躰、駘蕩たいとうとしてしかも凛然りんぜん典雅なる風格
兵衛はいかにも凛然りんぜんと云った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
九尺柄タンポ槍の敵の得物をぴたりと片手正眼に受けとめたあざやかさ! ——双頬そうきょう、この時愈々ほのぼのと美しくべにを散らして、匂やかな風情ふぜいの四肢五体、凛然りんぜんとして今や香気を放ち
脱兎のごとくに走り去ったのを見送りながら、突如、凛然りんぜんとして手にせる鉄扇を取り直すと、声と共に凄しい一撃が、呆然としてそこに佇んでいる道場主釜淵番五郎のところに飛んでいきました。
ですから、瞬時のうちに、迷うところなく進むべき道が決心つきましたので、右門は凛然りんぜんとして立ち上がると、ただちにはせ向かったところは、ほかならぬ松平伊豆守信綱いずのかみのぶつなのお下屋敷でありました。