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冷水
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れいすゐ
處で、
此のくらゐ
熱い
奴を、と
顏をざぶ/\と
冷水で
洗ひながら
腹の
中で
加減して、やがて、
湯を
出る、ともう
雨は
霽つた。
彼等は
味ふのではなくて
要するに
咽喉の
孔を
埋めるのである。
冷水を
注いで
其のぼろ/\な
麥飯を
掻き
込む
時彼等の
一人でも
咀嚼するものはない。
現今では
精神病者の
治療に
冷水を
注がぬ、
蒸暑きシヤツを
被せぬ、
而して
人間的に
彼等を
取扱ふ、
即ち
新聞に
記載する
通り、
彼等の
爲に、
演劇、
舞蹈を
催す。
尚去らざる
時は
全身に
冷水を
灌ぎて
其痛全く
去りし
故に、
其後頭痛の
起る
毎に
全身冷水灌漑を
行ひしが、
遂に
習慣となり、
寒中にも
冷水灌漑に
耐ゆるを
得たり。
家の
敷居を
跨いだ
宗助は、
己れにさへ
憫然な
姿を
描いた。
彼は
過去十日間毎朝頭を
冷水で
濡らしたなり、
未だ
曾て
櫛の
齒を
通した
事がなかつた。
髭は
固より
剃る
暇を
有たなかつた。
少し
丸みを
缺いた十三
日の
月が
白く
其の一つ/\の
茗荷の
葉の
上に
光つた。
冷水を
打つた
樣な
柹の
葉がゆら/\と
動いて
後の
林の
竹の
梢もさら/\と
鳴つた。
其後數年間は
春夏の
際折々行ふに
過ぎざりしが、二十五六
歳の
頃醫を
以て
身を
立つるに
及び、
日夜奔走の
際頭痛甚しき
時は
臥床に
就きし
事屡なりしが、
其際には
頭部を
冷水を
以て
冷却し
彼は
其の
冷水の一
杯をさへ
空しく
求めつゝあつたのである。