偽物にせもの)” の例文
旧字:僞物
同じ印の醤油で同じ品物なら蛋白質の凝結も同じように現われますがもし一方のが偽物にせものだと蛋白質が多くありませんからすぐに分ります。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
もう一人は下女のお辰。——良い年増ですよ。——この女は道具屋の娘で、親父の仁兵衛は偽物にせものの道具を扱ってお手当になり、母親はそれを
床の間には春蘭しゅんらんはちが置かれて、幅物は偽物にせもの文晃ぶんちょうの山水だ。春の日がへやの中までさし込むので、実に暖かい、気持ちが好い。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
調べれば調べるほど、いよいよ混沌として、手懸てがかりがつかめぬ。厳密な検査を施してみたが、くび飾りの偽物にせものからは何の異なった指紋も現れぬ。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
おまえの心配しんぱいは、もっとものことじゃ、偽物にせもの神聖しんせいからだにつけて、らんでいるとは、すなわちわたし不徳ふとくにもなることじゃ
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もし盲信でなければ、これは恐らく同種の偽物にせものに対する寛容であって、やがては今日のごとき鬼術横行の原因をなしたものとも言いえられる。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼等はこの盲法師を、どこまでも偽物にせものと信じているらしい。何者かの頼みを受けて、この化物屋敷の内状を探りに来たものと信じているらしい。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あのじじい、なかなかずるい奴ですよ。崋山かざん偽物にせものを持って来て押付おっつけようとしやがるから、今叱りつけてやったんです」
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、くさしながら、どじょう汁の大旦那も、古道具やから、高価な偽物にせものをつかませられるいお顧客とくいだった。
写しだと云ったが、道具屋と結託して鈴虫の厨子の偽物にせものを作ったんだ、あいつはもうだめだ、参吉はいい腕を
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
天井にへばりついていたために、下からは本当の蠅としか見えなかったのだ。だが誰が天井にへばりついている一匹の蠅を、真物ほんもの偽物にせものかと疑うものがあろうか。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
大抵はもうお判りでしょうが、丸多の主人多左衛門が絵馬道楽で、半気ちがいになっているのを付け込んで、大津屋の重兵衛は正雪の絵馬の偽物にせものをこしらえました。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それが偽物にせものか前のが偽物か、宗門方と陽之助の間に、目まぐるしい紛争がありましたが、ともあれ一騎の使いを山屋敷へ飛ばせてみると、お蝶の駕は着いていません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
漢学者の使用する一句に、「羊質虎皮ようしつこひ」というのがあって、外面虎皮こひをかぶりて虚勢きょせいを張り、内心ないしん卑怯ひきょうきわまる偽物にせものす成語としてあり、楊雄ようゆう(前五八—後一八)の文に
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
茶もなにもやつた事のねえやつが、へんひねつたことをつたり、不茶人ふちやじん偽物にせものかざつて置くのを見て、これはにせでございますともへんから、あゝ結構けつこうなお道具だうぐだとめなければならん
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いや、一緒に行くよ。散髪だ。おや、『近所に偽物にせものあり。御用心』と書いてある」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
よく来る客の一人に、泥鰌鬚どじょうひげを生やした紋附袴の人があつた。父の絵の先生である。父は書画もぼつぼつ買ひ集めて、「また偽物にせものをつかまされたよ」などと、よく母を相手に笑つてゐた。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
丹波はその新しい眼で、この柳生対馬守——家老の田丸主水正が殿様の役を買って出ている偽物にせものとは丹波をはじめ不知火組は、それこそ誰不知矣たれしらぬい——のようすを、じっと見なおしました。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この場合明智の方に手抜てぬかりがあったとは云えぬ。彼が今上野駅へ到着する事は、波越警部と、福田氏とが知っているばかりだ。この自動車が偽物にせものだなどとは、神様だって想像も出来なかったであろう。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
当時近代音楽の勃興ぼっこう時代で、真物ほんもの偽物にせものも、ひたむきに新奇をうてやまなかった時、ブラームスは雄大、厳重、素朴、敬虔けいけんな古典精神にかえ
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
そこで拙者は、三四人の腕ききを集め、自分が先発で、いちいちその偽物にせものどもをブンなぐって廻ったことがありました
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
台は二匹の海蛇をかたどった、糸のようにほそい白金の鎖、全長五十四インチある。重さは正確なことはわからぬが、この偽物にせものと掛けた感じはまったく、同一である。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
偽物にせものやすわれますので、なかなかれません。くすりばかりは、病気びょうきになってんでみなければわからないので、すぐに本物ほんものとはおもってくれないのです。」
手風琴 (新字新仮名) / 小川未明(著)
醤油を買う時にはよく気を付けて検査しないと折々人の悪い小売屋が偽物にせものを持って来ていけません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「僕の母は偽物にせものだよ。君らがみんなあざむかれているんだ。母じゃないなぞだ。澆季ぎょうきの文明の特産物だ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いかに熱心だからといって、和田の八幡から正雪の絵馬を持ち出すとは呆れたものだ。わざわざ偽物にせものをこしらえて、本物と掏り換えて来るなんぞは、あんまり罪が深過ぎるじゃあねえか。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
磯五としても、まことに残念だったから、何とかしてその実父の相良寛十郎を探し出してお高に財産がくるようにしようといろいろ骨を折ったあげく、考えついたのが、偽物にせものを仕立てることだった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
貰って行ったまでの勝見は、全く偽物にせものなのです
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
手代の栄吉に渡し、栄吉から支配人に渡すように仕向けた。もっとも真物ほんものの遺言状を抜いて、用箪笥には写しの偽物にせもの
いったい、宝石ほうせきばかりは、のあかるいひとでなければ、真物ほんものか、偽物にせものか、容易ようい見分みわけのつくものでありません。また、しょうのいいわるいについてもおなじことです。
トム吉と宝石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いつの間にそんな偽物にせものと、すり換えられていたのか、わたしにはなんとしても腑に落ちないのです。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「杢兵衛はどうも偽物にせものが多くて、——その糸底いとぞこを見て御覧なさい。めいがあるから」と云う。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
神尾主膳の名をかたって奈良田の奥へ甲州金を取りに行った偽物にせものを殺して、その駕籠かごで神尾の邸へ乗り込んだはずの竜之助を、神尾主膳が保護するような形式を取っていることが
同じ絵馬が世に二つと無い以上、その一つは偽物にせものでなければならない。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
... 施しましょう。オヤオヤ今の蛋白質が段々底の方へ沈澱ちんでんしますね、こうした醤油は食べるのに差支さしつかえありませんか」お登和「別に差支ありません。一度湯煎ゆせんにしたのは長く置いてもカビが生えません」大原「そうですか。こう手軽に検査が出来れば狡猾こうかつな商人に偽物にせものを ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「何から申しましょう、——まず、あの下男の藤助のかくしていた小判十枚は、みんな真物ほんものの未刻印小判に、素人が偽物にせものの刻印をタガネで打った物でございますよ」
わたしをこうしてかざっているたまうちにも偽物にせものがあって、それを陛下へいかまでがうつくしいとごらんなされるようなことはないかとおもうと、むねうちおだやかでないのであります。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大地の上へ、ウンと一つ投げつけてやるか、腕の一本も打折ってやると、少しは眼がさめます。早い話が、われわれ社会の偽物にせものどもを退治するなんぞには、これがいちばん近道ですよ
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あっしの真物ほんものの髷はたぼの中へ突っ込んで、叔母さんからかつらの古いのを貰って、付け髷を拵えて頭の上へ載っけて行きましたよ、——さすがに曲者も偽物にせものの髷とは気が付かなかった」
こういうように、いくらしてもいいからというひとたちがたくさんになりますと、ひすいのたまは、しぜんと世間せけんすくなくなりました。すくなくなるにつれて偽物にせものあらわれるようになりました。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「近藤の虎徹も古いものだが、あれは偽物にせものだと言うじゃないか」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
トムきちは、こうした、がったことをする主人しゅじん使つかわれていましたが、かわいそうなむすめのようすをたり、また、そのはなしをきくと、真物ほんもの偽物にせものといってごまかされなかったばかりでなく
トム吉と宝石 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの道具は大金を出して買ったらしいが、気の毒なことにみんな偽物にせものだ。それと解って主人の重兵衛は腹を立てて打ち割ったのさ。売った人間へ突き戻すだけでは胸が治まらなかったんだ。
「丸山、こりゃ偽物にせものだぞ」
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ああ、それは偽物にせものだ」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)